覚醒した日2
「配信か……」
元々ゲートの中の配信など行われてはいなかった。
そもそも最初はゲートの攻略は政府が主導で行なっていて記録のために録画などをしていたことがゲート配信の起こりである。
ゲートや覚醒者の数が増えて政府が管理しきれなくなって、民間でも覚醒者のチームを作ってゲートを攻略できるようになった。
そこで発生した問題も様々で特にゲートの中は無法地帯で殺人もバレない、利益を独り占めしたくて仲間を見殺しにするなどの行為もあったりした。
そのために中での攻略を映像で記録することを義務付けた。
やがて技術がさらに発展してゲートの中から直接リアルタイムで映像を送れるようになると、映像をネットに流して配信し始める人まで現れたのだ。
モンスターに日常を脅かされている人はモンスターがやられていく様に熱狂した。
政府も取り締まろうとしたのだけどイタチごっこのように消されても新しく配信を始めたり、配信サイトが乱立したりした。
サイトそのものを規制したりしようとしたのだけど、あるサイトはどの国のどの機関の規制も受けずに配信することができた。
今思えばおかしな話である。
けれども神様に会って神様が見ていたことからようやくその正体がわかった。
あれは神様が配信を見るためのものであったのだ。
フェネストラという謎の動画配信サイトは神様の覗き窓であったである。
回帰前ではフェネストラ上で普通の配信者として稼いでいる人も一定数存在していた。
今もサイトの規模は小さいながらフェネストラは存在している。
ただゲートの配信はまだほとんど行われていない。
それはゲートの配信のためには特殊なカメラが必要となるからだった。
「チッ……しょうがないか……」
現在ではスマホでもただの配信ならば気軽にできるようになった。
しかしゲートを配信しようと思うなら事情は大きく変わる。
普通のスマホではゲートの配信はできない。
一部のスマホだけがゲートに持ち込めるのだが、そうしたスマホは簡単に買える金額じゃない。
マサキは部屋を見た。
家具の少ない部屋、部屋に来た時からついていたぼろぼろのカーテン、薄っぺらい布団、スマホだって何世代前のものかもう分からない。
つまり金がない。
「仕方ない……」
深いため息をついてマサキはとある人に電話をかけた。
出ないでくれと少しだけ思ってしまう自分がいる。
「もしもし。宇佐美か? 久しぶりだな!」
電話に出たのは若い男性。
「元気にしてたか?」
「あ、ああ……ケンゴも元気そうだな」
電話の相手は山神ケンゴ(ヤマガミケンゴ)という人だった。
マサキとは小学校からの関係があり、世の中一般でいう幼馴染と言ってもいい男である。
しかし大人になったマサキはケンゴとは疎遠になっていた。
「いきなりどうした? 何か困り事か?」
「ケンゴ……こんなこと頼むのクソなことだって分かってるけど金、貸してくれないか?」
「……もちろんだよ。俺たち友達だろ? いくら必要だ?」
疎遠になった理由は立場の違いってやつだった。
山神カンパニーは財閥と呼ばれるほどの規模を持つ大企業で、山神ケンゴはその後継者の1人であった。
ケンゴは小学校、中学校の時は母親側の旧姓である小林を名乗って学校に通っていた。
家の方針で一般的な感覚を身につけるために山神の身分を隠して一般的な家庭の子供として一般的な学校で生活をしていたのである。
その時に仲が良かったのがマサキだった。
それなりに大きな学校だったけれど、不思議と同じクラスになり続けてケンゴも金持ちらしい嫌なところがなくて二人は親友だった。
高校に上がる時からマサキとケンゴの関係は狂い始めた。
ケンゴはいきなり自分は山神だとマサキに打ち明けた。
そして本格的に後継者としての教育も始まり、ケンゴは一流の私立学校に進学することになった。
対してマサキは中の上ぐらいの学校に行くことになった。
元々ケンゴの頭は良かったので高校は別れるだろうと分かっていたのだけど、山神であることやお金持ちしか通えないような私立に進んだことは衝撃だった。
けれども別々の高校に通うことになった後もケンゴは変わらなかった。
変わったのはマサキの方だ。
山神という立場のある相手だったならむしろ何も知らない子供の頃の方がすんなりと受け入れられたのかもしれない。
高校生という物も理解できる年齢でいきなり山神ですと言われても受け入れられなかった。
急にケンゴがきらびやかに見えて、貧乏で何も持たない自分が惨めに感じられてマサキは嫉妬に狂ってしまった。
「ありがとな、ケンゴ」
だけどケンゴは良い奴だった。
それは友人としてだけじゃない。
世界が滅ぶ前世の中は荒れ放題だった。
そんな中でもケンゴは私財を投げ打って人を助けようとしていた。
結局ケンゴが作った避難所は竜人族に襲われてそこにいたケンゴも助からなかった。
ケンゴの支援にはなんだかんだマサキも世話になった。
ありがとうはそうしたことも含めたお礼だった。
「なんだよ? 礼なら今度、なんか奢ってくれよ」
「金借りるようなやつに奢らせんのか?」
「お前ならちゃんと返してくれるだろ?」
「もちろん返すさ」
今度は死なせたくないなと思った。
今ならケンゴのことを素直に受け入れられる。
バカだったのは自分だと頭を下げることもできる。
ケンゴは知らないがこの借りたお金が世界を救うのかもしれないぞと思うと少し笑ってしまう。
「そのさ」
「あん?」
「悪かったよ……」
「何がだよ? お前が謝ることなんて何もないだろ?」
「山神だって隠してたことだよ」
家の方針のためとは言ってもケンゴが身分を隠していたことには変わりない。
一番の親友でもあったマサキにすら言えなかった。
結局そのせいで親友と関係は終わってしまった。
機会があるなら改めて謝りたいと思っていたケンゴは今だと思った。
「良いって。俺こそ悪かった。お前はお前なのに、山神ってだけで色眼鏡でお前を見てた。連絡無視したりしてごめん」
「……じゃあ今度は無視すんなよ? むしろお前から誘え」
「わーたよ。それじゃあ金、ありがとな」
「おう、他にも困ったことあったら言ってくれよ。俺に出来ることならなんでも手伝うからさ」
今も昔も、未来でさえも変わらぬ友人の優しさに触れて回帰したことに感謝する。
「金は確保したから……物もいいとして。次は人だな」
頭の中でうっすらと考えていた計画がハッキリとしていく。
「菅田麗(スダレイ)……」
1人目はキミに決めたとマサキは開きっぱなしになっていたリストを見て思った。
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