第15話 モンスター討伐会議

 カイリットの狩場にはンデラ湖という大きな湖があるらしい。

 その周辺にン・デラシルーロとう謎のモンスターが棲みついたらしく、カイリットたちはその湖には近づかない。そのモンスターを倒すことができれば彼らに認めてもらえるんだ。


 まずは情報の収集だな。

 ン・デラシルーロの被害。詳細な活動区域。攻撃方法。

 この村で知れることは全部聞いていこう。


 村長と、ゴコの協力の元、ン・デラシルーロの情報が集められた。

 村の会議室では討伐会議が開かれた。

 ン・デラシルーロが活動している池の地図が貼られ、それを元に意見を交わし合う。


 ある老人は不思議な物を見せてくれた。

 それは直径一メートルくらいの大きさで、ネジのようにグニャグニャに捻くれている。

 農機具かなにかだろうか? 王城の書庫でも見たことのないアイテムだ。


「これは十年前。わしがン・デラシルーロと戦った時の盾」


 盾?

 材質は青銅か……。

 それがこんなにグニャグニャになるだと?

 蛇に巻きつかれたのか?


 続いて屈強な大人の女性。


「これ、あたいが着てた鎧」


 胸部が膨らんだ女性用の鎧。

 その裏の背中側を見ると大きな傷が斜めに三つ入っていた。

 その女性はいう。


「引っ掻かれた。もっと距離が深かったら危なかった」


 ふぅむ……。

 まるで、獣の爪みたいだな。


 他にも恐ろしい声で話しかけられたとか、炎の攻撃を受けたとか様々。

 村人の証言は大きく分けて二分した。

 ある者は蛇だといい、ある者は獣のようだという。

 一体、どんなモンスターなのだろうか?


 


 村長は湖周辺の地図を指差しながら言う。


「ン・デラシルーロの活動区域はこの辺。我々の狩り場の限界でもある。これ以上近づくと命、狙われる」


 ほぉ……。少しだけ水辺から遠い気がする。


「ン・デラシルーロは水陸自由ですか?」

「うむ。木を上り藪の中から攻撃を仕掛けて来る」


 ふぅむ。

 蛇のモンスターが濃厚だな。

 しかし、正体がわからないくらいに動きが早いんならウネルスネークじゃないのは確定か。

 湖の周辺は草木が生い茂っていて隠れる所が多そうだな。

 隠れるのが上手くて、しかも動きが早いんじゃ、こちら側が不利になるよ。


「敵の姿を見ながら戦えるような、開けた場所はありませんか?」


 村長は地図を睨んだ。


「……ないな。この辺は草木が多い。岩場もあるから戦うには不便」


 ふむ。じゃあ、カイリットの怪力の出番か。


「みんなで協力して、平地にしてもらうことは可能でしょうか?」


 村長は小首を傾げる。


「そんなことして、なんになる?」

「平地におびき寄せることができれば姿を確認できます」

「わからない。相手、素早い」

「でも、隠れる場所がなければ姿を確認することができるでしょ?」

「しかし、それはこちら側も不利。木や岩は、カイリットの隠れる場所でもある」

「まずは敵を把握することが大切だと思います。モンスターのタイプがわかれば弱点もわかるかもしれません」

「ふぅむ……」


 こんなの強敵を倒すのには常識なんだがなぁ……。

 いくら地の利を活かせても、相手の正体が不明じゃ勝てっこないよ。


 とはいえ、俺の意見には村人の反発が多かった。


「あたし、木を利用して戦うの得意」

「俺、岩に隠れながら攻撃得意」

「俺は、植物の蔦を利用する」

「平地は不安。ン・デラシルーロに有利になる」


 なるほどぉ……。

 文化の違いだな。

 剛力民族だから、自然を利用する戦法が発達しているんだ。

 たしかに、平地にしたんじゃ利用できる物がなくなって不安だわな。

 よし、


「みなさんに協力してもらうのは、平地にしてもらうだけにしましょう」


 村人たちは混乱する。


「じゃ、誰が戦う?」

「僕です」

「「「 え!? 」」」


 村人の驚きに混じって、ゴコとミカエは胸を張る。


「私もトル様と一緒に戦います」

「ゴコもやる!」


 これは心強い。

 二人がいれば十分だ。

 そもそも、これは俺がカイリットに見せる力の証明だからな。

 モンスターとのバトルだけは、他の村人の力を借りるわけにはいかないんだ。


 俺は地図を指しながら、


「では、この辺から……ここまで。木や岩を排除して平地にしましょう」


 ン・デラシルーロの縄張りと思われるギリギリの所まで見晴らしのいい広場にする。

 あとはお引き寄せて戦うとしよう。細かい作戦は姿を見てからだな。


 会議が終わると日暮前だった。

 ン・デラシルーロの討伐は明日の朝一からやることになる。

 俺はこの村で一泊させてもらうことになった。

 夜からはゴコの成人の儀があるらしく、彼女は俺と別れて準備に取り掛かった。


 さて、日暮れまで少し時間がある。


「では、村長。僕に協力してくれるメンバーを選抜していただけますか?」

「う、ううむ……。まぁ、選べんことはないがな」


 村長は気の良さそうな村人たちを五人ほど集めてくれた。

 しかし、集められた村人たちはどうにも納得のいかない表情を見せる。

 やはり、文化の壁は大きいようだ。

 俺の戦法にはかなりの不安があるらしい。


「まぁ、村長の命令だからね。あたしは協力するけどさ。本当は反対」

「俺も反対。わざわざ、命捨てるようなもの」

「わしも反対じゃ。若い命。かわいそう」

「私もだね。平地なんかにして、わざわざ不利な戦い方。理解できない」


 基本的には優しい民族なんだな。

 結局、俺のことが心配なんだ。

 でも、明日は気持ちよく協力して欲しいからな。

 なんとか理解してもらおう。


「みなさんの家で壊れた物とか、補修して欲しい箇所はありますか? 僕の石化が役に立つかもしれませんよ」


 村人たちは半信半疑だった。

 まず、やったのが水瓶の補修。

 ひび割れた物。底に穴が空いてしまった物。それらを【 接触石化タッチストーン】で補修する。


「すごい! 穴が塞がった!」

「ひび割れも直ったぞ!」

「おお! 兄さん。私のもやっとくれ!」

「俺のも頼む!」


 それから、家の柱なんかも補修してしまう。


「うちの家、柱が腐ってる。建て替え考え中」

「【 接触石化タッチストーン】。屋根を支えている基本の柱を石にしました。これで建て替えは必要ないですね」

「ありがとう! 感謝!」


 気がつけば、俺の前には行列ができていた。


「なんでも直してくれるんだってよ」

「便利な石化らしいわよ」

「穴が塞がるって」

「家も直すらしい」

「壁のひびも直ったって」


 ひゃ、百人以上いるんじゃないか? 

 やばい……。この調子だと寝れないぞ。


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