第10話 ゴコの実力

 そんなこんなでぐっすり眠る。

 気がつけば朝になっていた。

 ゴコは俺の体にしがみついたままだ。


 朝はミカエが朝食の準備をしてくれている。

 ゴコは美味しそうなスープの匂いで目を覚ました。


 今日もいい天気だ。


 三人で朝食をとる。

 ゴコの食べっぷりは朝からすごい。

 俺の倍以上は食べているだろう。

 俺より細い体なんだがな。どこに入るのか不思議だよ。


「食ったーー! 腹いっぱいだ」

 

 ゴコは力を持て余しているようで、ブンブンと両腕を振り回していた。


「ちょっと、動きたい。なにかやることはあるか?」


 よし、ちょっと、彼女の能力を試してみよう。

 本当に、 牙噛み猪バイトボアを一人で倒せる実力があるんだろうか?


 俺は彼女に斧を渡した。


「薪が必要なんだよね。ちょっと、木を倒して薪を作ってくれないか?」

「うん。どこの木がいい?」

「別にどこでもいいよ。切りやすいのを切って薪にしてくれたら助かる」

「ん。わかった」


 そう言って、彼女は斧を放り投げた。


 はい?


 俺が小首を傾げていると、ゴコは幅一メートルはあろう木を両手で掴んだ。

 

「え? おい……まさか……」

「よいしょ!」


ズボッ!


 木は根っこから抜けた。


「えええええッ!?」 


 俺が驚く間もなく、彼女は木を横に寝かせて、それを斧で切断していく。

 まるで、大きなたくあんでも切っているようにズバズバっと。

 そして、今度はトトトトトトン! と小刻みに斧を動かして、木の塊を薪にしていった。


 時間は5分くらいだろうか……。

 俺の目の前には薪が山のように積まれていた。普通にやってたんじゃ二日はかかりそうなもんだけどな。


「もっといる?」


 と、涼しい顔のゴコ。

 汗一つかいていない。


 ほ、本物だ……。

 カイリットの優秀な戦士……。

 回復魔法と怪力。弱点は空腹か。


「もう一本くらいいっとく?」

「ゴコ!」

「……なに?」


 ええい。

 もうぶっちゃけよう。


「僕はこの土地を開拓しにきたんだ。ここいら一帯は国王からもらった僕の領土だ」

「うん。昨日、言ってたね」

「君に開拓を手伝って欲しい」

「ゴコに?」

「ああ! 君の怪力と回復魔法があれば心強いよ! 仲間になってくれれば、毎日ミカエの料理がお腹一杯食べれるよ! それに、給金だって出すつもりだ!」

「別に給金は必要ないよ。トルは命の恩人だもん」

「じゃ、じゃあ……?」

「うん。仲間になりたい。ゴコはトルに恩返しがしたいんだ」

「やった! ありがとう!!」


 キターーーーーーー!

 有能な仲間ゲットォオオオオオ!!


「でも、父様の許可は必要。ゴコはまだ子供だから」


 なるほど。そうなると、ゴコの民族に挨拶が必要になるな。

 十歳の女の子を預かるわけだし。


 俺たちはゴコの集落に行くことにした。

 ゴコは背中に大きなリュックを背負う。

 中には食料や飲水が入っている。

 率先して荷物持ちをやってくれるのは助かるな。


 途中、昨日に戦った 牙噛み猪バイトボアの対応をする。

 俺の呪いで二匹を石に変えたままだったんだ。


「じゃあ、呪いを解くからね。一斉にいいね?」


  牙噛み猪バイトボアの両脇にはミカエとゴコがそれぞれ武器を構える。

 俺が石化を解除すると、ミカエは剣を、ゴコはナイフを猪の首に突き刺した。


『ブギィイイイイイイッ!!』


  牙噛み猪バイトボアは絶命する。

 こいつは油がのっていて美味い肉なんだ。

 王城でも何度か食べたことがあるよ。


 二匹目も同じようにしめる。

 ここで、ちょっと、気になることがあるので呪いの能力表を表示させよう。


石化呪いカーストーン


レベル2。(EXP38/1000)


・習得呪い。

全身石化オールストーン

接触石化タッチストーン】 

??????(レベル3で解放)


 EXPが38しか溜まっていないな……。

 レベル2になってからこのEXPについて考察していた。

 数値が上昇するには物体を石化させることが条件らしい。

 それは木の実やキノコでもよくて、小さな物体でもいくつか石化させていると1だけ上昇する。

 経験値の量が大きいのはやっぱりモンスターだった。

 二匹の 牙噛み猪バイトボアを石化させるとEXPが20も上昇した。

 ウネルスネークで8くらい上がっていたことを考えると、強いモンスターの方が経験値は高いようだ。

 手辺り次第に石化さえしてしまえば経験値は上がるんだがな。上昇するのは一回の石化につき一度だけなんだ。それも、初めての物を石にするのが条件らしい。同じ物を何度も石化させても経験値は得られないようだ。

 右の数値が1000だからな。まだまだレベル3までは遠いよ。


 さて、一応、 牙噛み猪バイトボアのとどめは刺したがな。

 重さは百キロ以上はあるだろう。持ち運びするのは大きくて面倒だ。


 そんな時、ゴコは物欲しそうに 牙噛み猪バイトボアを見つめていた。


「そういえば、大人の儀式にこいつの肉が必要なんだよね? 良かったら持って行くかい?」

「うーーん。でも、ゴコは倒してない。これはトルの力」


 真面目だなぁ……。でも、そういうところは嫌いじゃないな。


「よし。じゃあ、道中で 牙噛み猪バイトボアを見つけてゴコが一対一で勝負できるようにしようか」

「そうしてくれると助かる」

「この一匹は持てるかい?」

「うん。軽いよ」


 鮮度を保つために石にしたんだが、ゴコは軽々と片手で持ち上げてしまった。


「洞穴に帰るの?」

「いや。集落に行くのに手ぶらはまずいと思ってさ。お土産物として持っていこうと思う」

「わは! みんな喜ぶよ。 牙噛み猪バイトボアの肉はみんな大好きなんだ」


 もう一匹はここに石化したまま置いておこう。

 帰りに回収すればいいだろう。


 それから森を越えて山に入って二時間ばかし歩く。

 俺とミカエはちょっと疲れていたが、ゴコは平然としていた。


 休憩を兼ねて昼飯にする。


 昼食を食べると、ゴコは更に元気になった。


「ミカエの料理は美味すぎる。毎日食べれるならゴコは無敵かもしれない」

 

 道中で、 牙噛み猪バイトボアを発見する。

 俺とミカエが見守る中、


「たぁああああああああああああッ!!」


 ゴコは素早い動きで側面に周り、ナイフを 牙噛み猪バイトボアの喉元に突き立てた。

 それは一瞬の出来事。気がつけば 牙噛み猪バイトボアは倒れていた。

 

 ほぉ……。見事な動きだな。満腹のゴコは最強かもしれない。

 


  *  *  *


ーー王都ギャンバリィーー


 王の間にて、玉座に座る国王に、トルティアの兄ヒドォルオは難色を示していた。


「トルを辺境の地に追いやったのは良かったですけどね。なにも領土を与えてやることはなかったのではないでしょうか?」


 ヒドォルオは旅立つ瞬間のトルティアの顔を思い返して向っ腹を立てていた。

 トルティアの表情は、それはもう晴れやかで、ワクワクとドキドキが入り混じったような、希望に満ちた顔をしていたのだ。


(クソ! ポーションを奪って、水瓶に穴を開けてやったがな。それでも、あの晴れやかな顔は腹が立つ)


「父様。もっと、酷い仕打ちはなかったのですか? トルは呪われているのですよ! この由緒正しきロックゼラン家に石化の呪いという暗い影を落としたのです! 干からびた土地とはいえ、領土を与えるなんて、対応としては軽すぎます!」

「おまえは何もわかっておらんな。あの土地がどういう場所なのかをな」

「どういうことですか?」

「辺境の森には 牙噛み猪バイトボアが多く棲息している。それに、川を越えた先は無主地だ。先住民がいるから王都も手が出せないのだよ」

牙噛み猪バイトボアはたしかに脅威ですね……。あと、先住民ですか?」

「剛力民族カイリット。千人足らずの少数民族だがな。個人の戦闘能力が桁外れに高い。敵に回すと厄介な存在なのだ」

「じゃ、じゃあ……。あの土地は田畑を開墾するのが難しいだけではないのですね?」

「……まぁ、そういうことだな。 牙噛み猪バイトボアとカイリットに挟まれれば一溜まりもあるまい。一ヶ月も保ちはせんよ」

「あは! 流石はお父様だ!」

「二週間後には調査団を派遣するつもりだ。遺体が見つかれば墓を作ってやらねばならん。呪われた忌み子でも私の息子だからな」


 ヒドォルオはニヤニヤしながら王の間を後にした。


(ククク。これでトルの人生は終わりだな。それにしても、ミカエは俺が狙っていた侍女なんだ……。あんな美少女をそのまま見殺しにするなんてもったいないよ。調査団が二週間後なら、俺はもっと早くに行ってミカエを取り戻してやろうかな。どうせ、生活が苦しくて根を上げているだろうからね。ククク。楽しみだなぁ)

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