第6話 洞穴が住居です

 洞穴はウネルスネークの巣穴だったらしい。

 他に生き物はいないようだ。


 さて、肉は食べる分だけ切ればいいだろう。

 残りは石化させて保存しておこう。


 焚き火は洞穴の入り口でやろうか。

 中で火を焚くと一酸化炭素中毒になるかもしれないしな。

 俺とミカエは協力して、洞窟の入り口にかまどを作ることにした。


「トル様。土や落ち葉を集めてなにをされているんですか?」

「なんでもいいから、柔らかい物を集めてかまどを作ろうと思ってね」

「かまど……ですか? しかし、そんな物ではすぐに崩れてしまいますよ?」

「フフフ。まだ、わからない?」

「……あ、そうか! そういうことですね!」


 ミカエは察してくれて、その変の土を集めてくれた。

 ある程度、かまどらしくなったところで、


「【 接触石化タッチストーン】」


 石化させれば立派なかまどの出来上がりだ。


「うは! すごいです! 一瞬でかまどができてしまいましたよ! これなら鍋を置くのも便利ですし、火が横風の影響を受けませんから消えにくいです」

 

 俺は生活品を馬車の荷台から洞穴に移動させる。

 その間にミカエは料理を作ってくれていた。

 

 ちょうど、日が暮れたころ。

 肉の焼けた良い匂いが洞穴いっぱいに広がった。


「さぁ、できましたよ」


 それは豪華な料理だった。

 

 メインはトマトのシチューに肉の串焼き。 

 そこにパンとサラダを添えて。

 パンは城から持ってきた物。サラダは道中に俺が採った食べれる野草だ。


 あーー、腹が鳴る。


 ミカエは一緒に食べることを拒んだが、俺一人だけで食べるのは寂しいので、今後は一緒に食べてもらうことにした。


 俺は早速、シチューをスプーンですくって口に運ぶ。


 うん。わずかな酸味と甘み、トマトの旨みと肉の旨みが絶妙にいい感じだ。


「これ鶏肉? めちゃくちゃ美味しいよ」

「ウネルスネークです」

「ははは。なるほどね。こんなに美味しいのか。これは得したよね」

「はい。ふふふ。得しましたよね。こんなに美味しいお肉が食べれるなんて思いませんでした」


 ミカエってこんなに笑う子だったんだな……。

 笑顔が可愛い……。


 俺がジッと見つめていると、彼女は顔を逸らした。


「も、申し訳ありません……。はしたないところをお見せしてしまいました」

「いや、いいよ。自然に笑ってくれるなら僕も嬉しいからさ」


 彼女は顔を逸らしたまま耳を赤くしていた。

 これは照れているのだろうか?


「ミカエ……」

「はい……」

「照れてるの?」


 彼女はなにもいわずにコクンとうなずく。

 照れ屋だったのか……。


「じゃあ、もう見ないからさ。食事しようよ」

「は、はい……」

 

 今度は肉の串焼きだ。

 もちろん、ウネルスネークだろう。


「うん! 美味しい!」


 鶏肉と魚の間みたいな味。

 ちょっとマグロに似てるかな? 

 さっぱりしてて、飽きずに食べれる感じだな。

 味付けは持参したスパイを使っているらしい。 

 そのまま塩でいっても十分旨いけどな。

 これは素焼きだけでも長く楽しめそうな食材だぞ。

 これをおかずにすればパンが進む。これはかなり良い肉だ。


 食事は大満足だった。

 肉の量は一ヶ月以上は保ちそうだしな。味は申し分なし。食材は安定している。

 石化させてれば腐らないし、かなり幸先のいいスタートだぞ。


「トル様。お湯を沸かしました」


 俺は体を拭くことにした。


 洞穴の天井に木の枝を掛けて、そこに布を被せて敷居とする。

 

 体を拭きながら思う。


 いずれは風呂に入りたいな……。


 この辺が火山帯なら、どこかで温泉が沸いているかもしれない。

 ミカエと一緒に入る温泉か……。

 いかん、変な想像はよそう。せっかく、俺を信じてついてきてくれた子を失望させたんじゃ目も当てられないよ。


 洞穴は良かったが、住む場所はグレードアップさせていきたいな。

 明日からはやることがてんこ盛りだぞ。フフフ。スローライフの始まりだ。


「トル様……。体をお拭きいたしましょうか?」


 と、カーテンを覗こうとするミカエ。

 俺は体を隠す。


「い、いいよ! 自分でやるから」


 城内では、五歳くらいまでは侍女に体を洗ってもらっていたっけ。

 八歳児とはいえ、頭はおっさんだからな。

 こんな二人きりで体なんか拭いてもらったら事故りそうで怖い。

 なんとしても下半身の暴発は避けなければ。

 彼女の前でいきなり息子が大きくなってみなさいよ。失望されて侍女を辞められるかもしれない。

 何事も危機感は必要だよ。


 俺の体が拭き終わると、今度はミカエの番になった。

 カーテンが魔光石のランプに照らされて、ミカエの裸体を影にして写す。


 この布の向こうにはスッポンポンのミカエがいるのか……。

 エロすぎる……。

 しかも、この影……。結構、ボディラインがしっかり見えるんだな。

 ミカエは十四歳なのに発育が良すぎるんだ。あの爆乳は反則ですよ。


 この香りはシャンプーなのかな?

 ミカエが体を拭いている場所からとても良い香りがするよ。


 じっとしてたら覗きたくなってしまうな。

 

「なにかやることは……?」


 俺の後ろには布団が敷かれている。

 今日からミカエと二人暮らし……。

 当分は部屋がないからな。


「あ、そうだ!」


 俺は布団を折り畳んで石化させた。


「布団の台だ」


 俺は、その台に乗って洞穴の天井の中央部分に木の枝を引っ掛ける。

 木の両橋を【 接触石化タッチストーン】で接着すれば天井に木のレールが完成した。

 枝にカーテンを被せてっと。


「ふむ……。できた」


 カーテンを真ん中にして簡易的な部屋になったぞ。

 これならミカエも落ち着いて寝れるだろう。


「トル様……。それは?」


 と、ミカエは髪をタオルで拭きながらカーテンを不思議そうに見つめる。

 彼女が近くに来ると石鹸のいい香りがさらに洞窟内に広まった。

 白いネグリジェの下は薄らと肌が透けて見えていた。

 見てはいかん……。


「い、一応ね。僕と一緒じゃ、ミカエがゆっくり寝れないだろうからさ」

「必要ありませんよ。私は常に一緒にいて、トル様をお守りしなくてはならないのですから」

「ははは……」


 この忠義心に恥ずべく精進したいよ。


 俺はそっと膨らんだ股間を隠した。


 そうして就寝時間。


「本当にカーテンを掛けたままで寝るのですか?」

「あ、うん……。一応ね。このカーテンの向こうがお互いの部屋ってことにしておこうよ」

「むーー」


 と、目を細めるミカエ。


「では、おやすみなさいませ」

「ああ、おやすみ」


 五分もすると、スヤスヤと彼女の寝息が聞こえてきた。


 もう寝たのか……。


 今日は働き詰めだったからな。

 馬車の操縦からモンスター討伐。料理、家事全般。

 彼女は休む間もなく働いてくれた。


 俺は呪われて、王室を追放された身分なんだがな……。

 こんな俺についてきてくれるなんて感謝しかないよ。

 

 この領土を発展させて、ミカエに楽をさせてやりたいな。


 こんな洞穴じゃなくてさ。

 フカフカのベッドで寝させてやるからな。

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