石化呪いの逆転劇〜体が石になる呪いをかけられたので王室を追放されました。でも、この力、便利かもしれません〜
神伊 咲児@『異世界最強の中ボス』書籍化
第1話 石化の呪いで追放されました
現代知識無双。
といえば、とても聞こえはいいだろう。
何十年もかかるような努力をとっぱらって、一瞬で物事を解決に導く。
そんなイメージがある。
なんというか快適で、悠々自適なイメージだ。
そんなチートな現代知識でさ。
人生を過ごせたらって、楽観的に考えてた──。
俺の名前は石成 鷹彦。
ブラック企業に勤める三十八歳。
アニメとゲームが好きな童貞。女性とデートしたことなんか一度もないから寂しい人生だった。
会社にいわれるがままに働いてたら過労死してしまったよ。
気がつけば、この世界に転生していて……。
まぁ、いわゆる異世界転生ってやつ?
剣と魔法と、モンスターがいる世界。
俺はそんな世界のロックゼラン王室家の五男として生まれていた。
ロックゼランは、人口五十万人の王都ギャンバリィを統治する王族だ。
今は、トルティア・ロックゼランとして暮らしている。
最近、八歳になったばかりだ。
黒髪の、ちょっと中性的な美少年。緑色の瞳は宝石のようにキラキラしている。
体はひょろひょろだが、第二の人生を満喫するには十分な容姿だろう。
トルティアは長いので、みんなからはトルと呼ばれていた。
まぁまぁいい身分に転生したんだけどさ。残念ながらチートスキルはもらっていないんだよな。
ラノベなんかでは神様から特別な力をもらったりするのがよくある話だけどさ。
人生は楽にはいかないもんだ。これは転生しても同じらしい。
だから、現代知識無双。なんて言葉に若干の憧れを持って暮らしていたんだが……。
代わりに、なぜか呪われているという。
原因は母親が魔女に呪われたこと。
俺はその影響を受けているらしい。
母親は俺が物心つくまえに亡くなっていて、俺が胎児の時に彼女の呪いを受け継いだことになっている。
何度か魔術的な封印儀式を受けていて、その効果があってか、呪いの発症はしていない。
チート能力どころか、呪いから始まる異世界転生とはな。
なかなかにハードモードだよ。
とはいえ、俺には現代の知識がある。
というか、三十八歳だった時の記憶がそのまま残っているんだ。
まぁ、童貞だったからその辺はまったくわからんが、知識量では他の八歳児より抜きん出ているだろう。
フフフ。チート能力はなくても王室の子供だからな。この条件だけでも十分だ。第二の人生になる異世界生活を楽しんでやるさ。
俺の現代知識はどのタイミングで活躍するのだろうか?
考えるだけでワクワクするな。
なんて、思っていたのだがなぁ……。
それは国王の前で見せる公開試合。
木剣でやる剣技の披露があったんだ。
王室ってのは結構厳しくてさ。剣技とか教養の勉強が大変なんだよ。
だから、こういう普段やってる修練の成果を定期的に披露する場が設けられるんだ。
練習場には、国王をはじめ、大勢のギャラリーが集まっていた。
俺の相手は二つ年上の兄、ヒドォルオだ。
彼も愛称で呼ばれていて、みんなヒドォと呼んでいてる。
十歳と八歳って、この年齢の二歳は体力的にめちゃくちゃ差があるんだよな。
一応、この試合は、ヒドォが俺の剣技の技量を見ることが目的になっている。
ヒドォの剣技はずば抜けて強いわけではないが、どうしても体力差で負けてしまう。
なんとか、いいところを国王に披露できればいいんだがなぁ……。
ヒドォの連撃が俺の剣を叩く。
「ヒャハ! どうしたよトル! 防戦一方か。オラオラァ! 打ち返してこないのかよぉおお!!」
「ぬぐぐ……!」
こりゃダメだ。
いかに俺が前世の記憶を所持していようとも、前世はインドア派の人間だったからな。
中高と帰宅部だったことが響いている。これは絶対に勝てない流れだ。
練習試合は寸止めとルールが決まっている。要するに、当てる一歩手前で止めるやつだな。
だけど、ヒドォはわざと攻撃を当ててくるんだ。
練習試合では何度もやられた。
本当に性格が終わっている。兄弟の中でも群を抜いて性悪だよ。
そんな時。俺の持っている木剣が弾かれて俺の頭部はガラ空きになった。
俺の驚いた顔を見て、ヒドォはニヤリと笑う。
「あーー! 手が滑ったぁああ〜〜」
きたッ!
通常なら寸止めだが、この速さはそれで終わる剣撃じゃない!
脳天直撃だ!
この野郎。十歳のガキのくせに!
いつか目にもの見せてやるからな!
なんて、覚悟を決めた時だった。
痛みに備えて、全身に力を込めた時。
頭の中に女の声が響いた。
『【
え? なんだって!?
俺の疑問をよそにして、信じられない音が場内に響いた。
ベキッ……!!
それはヒドォの木剣がへし折れる音。
俺の頭に触れて折れたのか?
にしては、全然、痛くないぞ?
ってか、体が動かないのはなぜだろう?
「あわわわわわ……! い、石だ! トルが石になってるぅううううう!!」
そういって腰を抜かしたのはヒドォ。
俺が石になっているだと!?
たしか、女の声で【
全身の強張った力が抜けるのと同時。俺の体は動くようになった。
ヒドォは国王の元に駆け寄った。
「父様! 見たでしょう! トルは呪いが発症しましたよ! あいつは呪われているんだぁああああ!!」
そう言われてもよくわからんのだがなぁ……。
だが、あの折れた木剣はそういうことなのだろう。
どうやら、俺は石になる呪いが発症したらしい。
体に力を加えると全身が石化するようだ。
俺は呪いの性能を自分なりに把握することにした。
自室に篭って姿見を前にして立つ。
ペンを頭上に放り投げると、頭に当たる瞬間、全身が石化した。
鏡に映る石化した自分はなんとも不思議な感覚だ。
石になっても視覚と聴覚と嗅覚はあるらしい。
痛覚が完全になくなって、身動きがとれなくなるようだ。
ペンが床に落ちるのを確認すると、わずか数秒で元に戻る。
どうやら、身に危険が迫ると石化するらしい。
あの女の声がなんだったのかはわからないが、【
まぁ、この呪いのおかげで練習試合は無傷だし、特に不便というわけではないのだがな。
それから毎日、俺はこっそりと呪いの力を検証した。
王室では問題になっていて、国王が高名な祈祷師や魔法使いなんかを呼んで、呪いの封印が行われた。
しかし、俺の石化を封じることはできなかった。
数日後。
俺は王の間に呼ばれた。
玉座に座る父親は困った顔を見せながら言う。
「トル……。おまえに土地をやろう」
「はい? 急にどういうことですか?」
「小さな山と森、それと耕せばなんとかなる平地だ。そこに住めばなんとか生きてはいけるだろう」
え? えええ?
国王は目を伏せる。
「王族に呪われた血筋はいらん」
えええええええええ!
いやいや、待て待て。
「お、お言葉ですが父上。石化の魔法には特徴があります! 性能を理解すれば有用に使える可能性があるのです!」
「有用だと?」
「はい! この前の練習試合でも見せたように、石化が発動すれば完全な防御が可能なんです!!」
国王は大きくため息をついた。
「正気か?」
「え……? あ、はい、もちろん大真面目ですよ。呪いの有効活用をですね──」
「はぁーー。おまえは本当に楽観主義だな。そういう柔い意思でどうする。王族の矜持はないのか?」
「……で、ですから、現状を打破しようと模索をしているのです。石化の呪いが使えれば戦闘の時は無傷でやり過ごすことが可能なのです!」
「石化は動けないのであろう? どうやって敵を倒すのだ?」
「そ、それは……。これから模索する予定です」
「はぁーー。おまえの呪いが周囲を不安にさせる。呪いを放置することは、民衆が国政に疑問を抱くことと同じなのだ。王族にとっておまえは汚点でしかないのだよ」
「お、汚点………………」
ひでぇ……。それが子供にいう言葉かよ。
「これ以上、私を苦しめるな。侍女のミカエがおまえの世話係を希望している。彼女と一緒にこの城を出ていくのだ」
言葉が出なかった……。
王室からの追放か……。
与えられた土地は人が住まない辺境だった。
干からびた土地は田畑には向いていない。森には瘴気が蔓延し、凶悪なモンスターが棲んでいるという。
最悪。といえばそれまでなのだが……。
意外と、落ち込んでいない自分がいた。
地図を見ながら、若干ワクワクしているのだ。
川と森がある……。
ある程度の食料や金はもらえるみたいだし、もしかしたらなんとかなるかもしれないぞ。
本当の八歳児なら絶望しているかもしれないがな。フフフ。俺の中身はおっさんなんだよ。
ちょうど、王族の厳しい教育に飽きていたところだ。自分の土地が与えられるなら、そこを発展させるのも面白そうだ。
今こそ、現代知識の出番か。
俺はインドア派だったのだが、アニメの影響でキャンプに興味が出てさ。
何度か一人キャンプを決行したことがあった。この経験がどこまでいかせるかはわからないが、三日くらい現地の食べ物だけで生活したこともあったんだ。山菜とキノコ、川の魚だけでも十分に生活ができる。
それに、この世界に転生してからは王城の書庫で本を読みまくっていたんだ。
もしもに備えて知識だけは増やしている。
こんな、モンスターがいる世界でチート能力なしじゃあ不安でしょうがないからな。今こそ、持てる知識をフル活用をする時だ。
こういうの……ラノベで読んだことある。
人里離れた場所でゆっくり暮らす。
いわゆるスローライフ……。フフフ。
八歳から始めるスローライフか。これはいい。
俺は与えられた馬車の積荷を確認することにした。
馬車には女の子が一人いて、たくさんの荷物を積んでいる。
たしか、俺の世話係を志願してくれた子だ。
彼女は俺と目が合うや、ゆっくりと頭を下げた。
「ミカエ・リリソールです。今日からトルティア様にお仕えすることになりました」
おお……。
美しい銀髪の……かなり可愛い女の子だな。
十四歳ということだけど、胸がとんでもなくデカい。
整った目鼻立ち。ブルーサファイアのような青い瞳。雪のように真っ白な肌。
使っているのは石鹸か? それとも香水? 近くにいるだけでめちゃくちゃいい匂いがする。
しかし、目が鋭くて、殺気立っている気がするな。なんだか、気軽に近寄りがたい雰囲気があるよ。
かなりの美少女なんだがなぁ……。なんというか、怖い。
ミカエは、俺のことをギロリと睨みつけてから馬車の積荷を詰む作業に戻った。
嫌われてるな……。
うん。あれは確実に嫌われている目だ。
血走って、まるで親の仇を見るような目だった。
鼻息も荒かったような気がする。
現代知識無双をする前にとんでもない障害が出てきたな。
ワクワクしていた気持ちが吹っ飛んだ……。
もしかして……俺。今日、殺されるのか?
☆
〜〜ミカエ視点〜〜
私は馬車に食料を運びながら奥歯を噛み締めた。
うはぁーーーー!
トルティア様と会話をしてしまったぁあああああ!!
可愛いぃいいいいいいいい!!
愛くるしい目。輝く黒髪。
なんて凛々しくて可愛い人なんだろうぅ!
「ムフゥーー! ムフゥーーーー!」
ああ、ダメよ。
落ち着け私。
落ち着け私ぃいいいいいいいいいいいいい!
ああ、でも、今日から二人きり。
二人きりなのよぉおおおおおおおおお!
神様ありがとうございますぅううううううう!!
憧れのトルティア様と二人暮らしとか嬉しくて死にそう。
ミカエは世界一の幸せ者です!!
で、でもダメよ。
この嬉しい感情を表に出してはダメ。
私は侍女なんだから、感情を露わにするなんてはしたないことだわ。
トルティア様は高貴なお方なんだから、そんな無礼は許されない。
だから、無表情を貫かなくちゃ。
それが侍女としての矜持。
私はトルティア様に使える最高の侍女になるんだから!
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