第16話 奴隷傭兵、検証作業に入る

「おまえ、それって——」


「わかってます。神殿長にも仕官を勧められましたけど、そんな場合じゃないんです」


 正直、待遇の面を考えたら仕官しないなんてのは金をドブに捨てるようなもんだ。コイツは変な奴だと思ってたが、どうやら世界を救いたいってのは本当らしい。それからもう二か月ほども滞在すると、疫病もようやく終息し街の外へ出られるようになった。


 俺たちはちょくちょくアルコール消毒をしていたせいか疫病にもかかってない。念のためグラディオーレの根から薬も調合して十分な量を持っていたが、使うこともなかった。その二か月間に俺は自分の適正を調べられる範囲で検証した。


 検証は安全を期すため、人気の無い広場で行う。まずは木剣を握る。これは全く問題ない。次に木剣を振る。これも問題ない。次は、案山子相手に木剣を持って剣を振るう。これも大丈夫だった。最後は人間相手だ。といっても、気軽に相手などしてくれる人間はいないのでエルに頼んだ。


 俺を木に縛り付けてもらい、木剣で戦いの真似事をする。エルを相手にしたときも全く問題はない。お遊びみたいなもんなら大丈夫ということだろう。最後の検証として傭兵ギルドで剣術指南をしている人間に頼んだ。相手には事情を話しもちろん金も払う。


 その時も木に括り付けてもらい、本気で戦うことになった。もう猛獣にでもなった気分だ。エルとは違い木剣とはいえ構えると緊張感が半端ない。相手は指南をしてるだけあって手練れの剣士だ。ここで俺は妙なことに気付いた。明らかに今までより興奮している、それに動きが普段に比べて格段に軽い。


 技術的には相手のほうが俺より格上なのは間違いないが、身体能力が上がってるようで相手の動きについていけてしまってる。息が荒いし身体中から汗が蒸気のように噴き出した。後から聞いた話だが、俺の動きは人間というより野獣に近いものだったらしい。


 それでも数十合も打ち合うと、技術的な差で俺の剣が弾き飛ばされた。そこからの記憶があまりない。エルによれば、俺は雄叫びをし木に結わえたロープを引っ張り相手に迫ろうとしたそうだ。木が揺れメキメキと凄い音がしてたらしいが、エルが思い切り俺の名前を呼ぶと俺は反応したらしい。


 何度かエルが俺の名前を叫んでると俺はその場で倒れたとのことだった。まるで獣そのもので、その話を聞いて凹んだが、その後も検証を続けることになる。エルは俺が名前に反応したことに光明を見出してるようだった。


 二回目も三回目も同じような結果だったが、四回目のときに変化が起きる。エルが俺の名前を何度か叫ぶと動きが止まったらしい。相変わらず俺はそのときの記憶がないわけだが、とにかく動きが止まった。



【後書き】


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