第10話 奴隷傭兵、エルの過去を知る
エルは相変わらず丁寧に対応する。どうやら俺が口を挟まないほうが良いような気がしたので黙った。
「一日ほどもらえるだろうか?それまでには終えておきましょう」
「よろしくお願いいたします」
そう言うとエルはお辞儀をしたので、とりあえず俺もエルに合わせる。
「最後にお願いなんですが」
エルは去り際に妙なことをギルド長にアドバイスした。
「今後は食事をする前にテーブルというテーブルにアルコールで消毒をしてください。それで、この疫病も終息すると思います」
ギルド長の爺さんは驚いたように一瞬目を見張ったが、丁寧にお辞儀をしただけだった。それで、薬剤ギルドでの商談は終わる。
「なぁ、おまえいったい何者なんだよ?」
その夜、宿で出された焼き鳥をかじりながら俺はエルに質問した。その焼き鳥はちょうどマリー・ジョルジュを落とした戦勝報告が届いたとかで、祝いのサービスで貰ったものだ。
「え?だから、未来から転生して——」
「そうじゃねぇよ。俺が聞きたいのは、おまえは未来で何者だったんだって話だ」
エルがキョトンとしてるので、俺はさらに話を続けた。
「だってよ、おかしいだろ。マリー・ジョルジュが落ちる日を知ってたり、かと思えば疫病の薬の材料まで知ってる。いくら未来から来たってそんな細かい知識持ってる奴なんかいねぇよ」
そう言われて、ようやく合点がいったようだ。
「あー、えと。記憶力が良かったからかなぁ・・・・・・」
「てめぇ、張っ倒すぞ」
俺の剣幕に圧されたからか、とボケようとしたエルは観念してそれまでの身の上を簡単に話した。
「実は、軍師をやってたんです・・・・・・」
このガキが軍師?確かに戦況の日付まで覚えてたのは納得がいくが・・・・・・。それなら前世のコイツは今も生きて相当な影響力を行使してるってことになる。
「何を言いたいかはわかります。前世の僕の名前はモーリス・ラロック、生きてるならここの軍師をしてるはずなんです」
「それなら確かめに行こうぜ」
エルは俺の提案に静かに首を振った。
「もう確かめたんです。確かに同姓同名で軍師をやってる人物がいる。でも、彼は既にかなりの高齢らしいです。だから、やっぱり僕の知ってる世界と少し違うみたいで」
「おまえは年取って死んだんじゃないってことなのか?」
エルはコップにある水をグイッと飲み干すと頷いて説明を始めた。
「まず、僕は四十歳を超えたところで魔族に殺されました。今はまだ三十代のはずです」
それでようやく俺のなかで、エルが世界の破滅を恐れる理由が繋がった。
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