コミュ障な姉が悪役令嬢転生して冷遇されているらしいのでちょっとTS転生してくる。
小鳥遊なごむ
第1話 悪役令嬢にコミュ障が転生してはいけない。
チャンスってのは人生において誰にでも何度か訪れるらしい。
それこそどんな奴でも。
人殺しだろうが性犯罪者だろうが極悪政治家だろうとも平等らしい。
でなければオレみたいなシスコンに姉ちゃんを救う最後の手段なんて施されたりはしないだろう。
「……くノ一の末裔って設定だから仕方ないけど落ち着かねぇ……」
前世のオレの夢の中に現れた女神は死んだはずの姉ちゃんは異世界で生きているとか言ってこうなっている。
なんで女に転生しないといけないのか。
それを問うたら男という性別では異世界に体と魂が適応できないとかなんか言ってたけど、自分の股に竿が無い喪失感は今でも不意に来る。
それでも尚オレは姉ちゃんを助ける事を選んだのである。
「お前のせいで我がグラブスター家は危機にある。どうしてくれるんだ?」
「ッ!! ……い、痛い……です。お父様……」
「お前に触れるのも穢らわしいのだ。それでもお前への憎しみが勝る私の気持ちがお前にわかるか?」
姉ちゃんが転生したのはとあるゲームの悪役令嬢らしい。
にゃろう系ではよくある転生話だが、まさか本当にこんな事になるなんて思ってもいなかった。
だがそんな事はどうでもよかった。
屋敷の屋根裏に潜むオレは暴力をされている姉ちゃんを助けたい気持ちを抑えてただひたすらに潜む。
こんなのはただの理不尽でしかない。クソみたいな理不尽だ。
悪役令嬢という設定で転生したって、姉ちゃんみたいな絶望的なコミュ障が転生したって悪役になるどころか虐められるだけじゃないか。
なんで悪役令嬢なんかに転生させられてしまったのかと女神すら恨んでしまう。
「本来はお前を今すぐにでも殺してやりたいところだが、お前は娼館に売る」
「……しょ、娼館……」
「お前の
「…………」
本来のゲームに登場する悪役令嬢には魔力吸収という能力はなかったらしい。
だが姉ちゃんの性格と生まれつきの不幸体質が混ざった結果、魔力吸収という力そのものを引き付ける体質になり、それが悪化してしまい姉ちゃんがこの世界で生きるための権能となってしまったらしい。
要するに不幸体質が権能に進化したらしい。
「明日には娼館から迎えが来る。この部屋で大人しくしていろ」
「…………はい…………」
とりあえず姉ちゃんを助けたらまずこの父親を殺そうそうしよう。
姉ちゃんを泣かせやがって。シスコン舐めんなよ?
父親が出ていったのを確認してからオレは泣いている姉ちゃんの背後に忍び寄った。
そうしてオレはこの世界の姉ちゃんを初めて見た。
長い黒髪に華奢な体。
背後から見えるのはそれだけだ。
女神からは姿は変わっているが一目見ればわかると言われた。
そしてその意味は今こうしてわかった。
泣いている姉ちゃんの背中はよく見ていたからだ。
「……どうして、こんな事に……」
反射的に抱きしめたくなった。
姉ちゃんと呼びたかった。
オレが来たよと伝えたかった。
安心してほしかった。
だけどオレが弟であると知られてはいけないと女神に言われてしまった。
だからオレはオレのするべき事をする。
「静かに」
「ッ?!」
オレは背後から姉ちゃんの口を押さえて静かにさせた。
万が一にでも叫ばれて面倒事が増えるのを避けたかった。
ただでさえ不幸体質の姉ちゃんだ。
どんな厄介事になるのか想像もしたくない。
「オレは君を助けに来たくノ一だ」
「……?」
「だから安心してほしい」
オレに敵意や悪意がないと察した姉ちゃんは口元を押さえるオレの腕を掴むのをやめた。
普段から悪意や敵意に敏感な姉ちゃんのことはよく知っている。
オレは姉ちゃんの横に座って姉ちゃんの顔を見た。
目尻には涙が決壊していて今にも自殺くらいしてしまいそうな表情は見ていて辛かった。
暴力を振るわれていたけど顔には傷は無い事を考えると尚更腹が立った。
いやべつに顔を殴れとかそういう話ではないけど、商品として見ているようでムカつく。
「……あ、あなたは、誰? ですか?」
「オレはリオン。くノ一の末裔だ」
「くノ一って……女の子の忍者、って事? ですか?」
「ああ。そうだ」
「そう、なんですね……」
「とりあえず逃げましょう。ここにいてはダメだ」
「で、でも……わたしに、触れてしまったら……」
オレは姉ちゃんの手を取って脱出経路を確認しようとしたが姉ちゃんが手を離してしまった。
昔から姉ちゃんは優しかった。だからこんな不幸の中にいても自分のせいで誰かを傷付ける事を嫌がっていた。
でも不器用だしコミュ障だから、いつも誰かに勘違いされたりした。
「大丈夫だ。オレはくノ一で、生まれつき
「そ、そう……なんですか」
「うん。だから大丈夫だ」
オレはそう言ってもう一度姉ちゃんの手を握った。
細く小さな姉ちゃんの手は、今のオレでは力強く握ってはやれない。
それでもこの姿になるしか助ける方法はなかった。
だから後悔はない。
「レイナ、誰と話をしている? 入るぞ」
「お、お父様?!」
「とりあえず死ねぇぇぇえ!!」
「ガハッ?!」
ノックもせずに入ってきたクズ男の股間に全力キックを喰らわせてやった。
男は弱い生き物だ。
どんだけ筋肉を鍛えようとも股間を蹴られたら簡単に崩れ落ちる。
男には幼女だって勝つことが出来るのである。
ふははっ。
「……き、貴様ぁぁぁ何者だ?!」
「うるさい死ねクソ男」
「グッ?! ゲホゲホケホッ?! おい誰かっ!! 侵入者だぁぁぁ!!」
みっともなく四つん這い状態で股を押さえるクズ男の顔にけむり玉を投げ付けてやったが仲間を呼んだので後ろからさらに手で押さえている股間を蹴った。
クズ男のDNAは潰れてしまえ〜。
「レイナ、逃げるぞ!!」
「わわっ?!」
「グハッ?!」
姉ちゃんの手を取って走り出したために目の前のクズ男を飛び越えないといけなくなった姉ちゃんだったが、勢い余ってコケそうになってクズ男の頭を踏んでさらにクズ男の背中に手を付いて魔力吸収の権能が発動して下半身が瀕死寸前なクズ男の魔力を吸うという鬼畜過ぎる反抗期ムーブをかましてしまった。
流石お姉様ですわ。わたくし感動致しました!
「レイナ様は渡さんぞ!」
「誰だお前死ねぇぇ!」
「マ、マルコスさん?!」
そんな男は知らん死ね。クナイでも喰ってろ。
「想定してたよりも護衛が沸くな」
「はぁ……はぁ……はぁ」
「レイナちゃん! 助けに来たわ!!」
「……シ、シルヴィさん……」
シルヴィと呼ばれた女がなぜグラブスター家の屋敷にいる?!
そもそもコイツはこの世界の聖女で悪役令嬢が目の敵にしていたはずの主人公ポジションの人間だったはずだ。
女神からの話では姉ちゃんとはあまりいい関係ではなかったはずで……。
「嫌な予感がしてたの。私は貴女が悪い子だとは思えない。だから貴女の力になりたかったの!」
「シ、シルヴィさん、その……これは色々と、ち、違くて……」
「そうなのね、この露出狂女に騙されてしまったのね……」
「話ややこしくすんな陽キャ女!! あと露出狂言うな!!」
早速面倒な事になってしまった。
しかもこの聖女、たぶんだけど人の話聞かないで勝手に勘違いしたりするタイプの奴だ。
根は良い奴なのかもしれんけど厄介者でしかない。
「お前のせいでレイナが不遇な目に遭ってんだよ。いいから退けよ」
「逃がしませんわ。レイナちゃんは……私の友だちなんですから!!」
シルヴィはそう言い放って結界術を展開してきた。
さてと、ここからどうやって逃げようか……
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