第52話
パクパクと懐石料理を平らげていき、ご飯もおひつが空になるまで食べていった。
私の食べっぷりに、
「どんだけ食べるのよ……」
「だって、お腹が減るんだもん。
カラオケを歌ったからじゃない?」
マスターを横目で見ると、なんだか不安げな眼差しをしている。
うーん、なんでそんな顔をしてるんだろう?
浜崎のお爺さんが、ゆっくりと口を開く。
「……そろそろいいだろう。
食べながらでいい。話を聞いてくれ」
私はもぐもぐとお芋を食べながらうなずいた。
「見ての通り、
原因は、もう聞いているんじゃないかな。
ふーん、やっぱりそうなんだ。
でもそれと今回の話、何か関係するの?
浜崎のお爺さんがマスターを見た。
「
このままでは
いつごろまで耐えられると思っているんだ」
――え?! 私が倒れる?!
あわててマスターを見上げると、マスターは真剣な顔で悩んでるみたいだった。
「……おそらく半年が限界だろう。
これ以上、神が集まってくるようなことになれば、もっと早まる」
私は口の中の物を急いで飲み込んで尋ねる。
「それって、どういうこと?!」
マスターが私に穏やかな笑顔で告げる。
「君ほどの強い
『あやかし』くらいなら僕が守ってあげられるけど、神は無理だ。
正式に僕の巫女になったあとなら、それは解決できるけど……」
「『正式に』? 今だって、雇用契約は結んでるよね?」
「あれはアルバイト――期限付きの労働契約だからね。
仮契約みたいなもので、効力が弱いんだ」
「――じゃあ! 喫茶店に就職したら変わるんですか?!」
「そうだね、もう少し強い契約に切り替わる。
だけど『神と巫女の契約』よりは、数段落ちるかな」
秀一さんがフッと笑った。
「もっと率直に言えばいいだろう。
『
――結婚ってこと?!
呆然とする私に、浜崎のお爺さんが告げる。
「今回のことは、神社の本殿が朽ちているのも原因のひとつだ。
だから本殿の修復作業を、少し早めようかと検討している。
だが
その場しのぎの修復ではなく、神社の再建を目指したい」
私は頭が真っ白になりながら話を聞いていた。
「そんな……いきなり結婚とか言われても、わからないよ」
マスターが私に優しい声で告げる。
「だから『話半分で聞いて』って言ったでしょ。
そうすればもう、
「――でもそれじゃ、お店がやっていけないんじゃないの?!」
マスターが困ったように微笑んだ。
「うーん、前みたいに週に一回なら開けると思うよ。
思った以上に
このままだと他の神が引き寄せられるのは、時間の問題だと思うんだ。
だからその前に、
「そんなこと! 勝手に決めないでよ!
私、あの店を辞めたくない!」
浜崎のお爺さんが私に告げる。
「では、
「それは――まだ、わからないけど」
桜ちゃんが小さく息をついて告げる。
「別にさー、今すぐ決めなきゃいけないことじゃないでしょー?
補修工事で神社の力を高めてあげれば、
しばらくはそれで凌いで、
孝弘さんがお箸を置いて告げる。
「まったく、何かと思ったら焦らせやがって。
クソ爺が
そんなもん、
――
でも、それじゃあお店が……。
言葉に詰まった私に、浜崎のお爺さんが告げる。
「……孝弘の言う通りかもしれんな。
だが事実は伝えておくべきだと判断した。
そこは間違っていないと、今でも信じている。
今日はもう遅い。儂が車で皆を送ろう」
食事が終わると、浜崎のお爺さんが席を立ち、部屋を出ていった。
私たちも立ち上がり、そのあとを追った。
****
秀一さんや桜ちゃんは、料亭の前で歩いて帰っていった。
浜崎のお爺さん、孝弘さん、私と
最後にマスターが乗りこむと、車が動き出した。
「バイトを辞めれば、本当に
フリーになった
マスターが私の肩を抱きながら応える。
「僕との契約が完全に解消されれば、他の神が近寄ってくる事はほぼなくなる。
それでも寄ってくる弱い神ぐらいなら、ぼくらで追い払えるから。
もう
ということは、私がバイト契約してることが『神様が近寄ってくる』理由なのかな。
喫茶店でバイトする前は、不思議なことに出会わなかったし。
「そっか、
私たちは
私はマスターに向けて声を上げる。
「今の生活がなくなっちゃうってこと?!
そんなの嫌だよ! なんとかならないの?!」
「神社の補修工事をすれば、高校卒業までは持たせられると思う。
僕が忘れられた神じゃなければ、
ごめんね、全部僕のせいだ」
孝弘さんが小さく息をついた。
「『忘れられた神じゃなければ』か。
――なぁ
マスターは眉根を寄せて悩んでいるみたいだった。
「僕の名前を布教するのかい?
今の時代、それで信仰が集まるかは……難しいと思う。
みんな、地元の神を崇める習慣がなくなってしまったからね」
「それでも、足掻いたらどうなると思う?」
マスターは私を強く抱き寄せて考えていた。
「……そうだね、
それでも、あと七年なのか。
女子が結婚を決意するには、まだちょっと早い年齢だと思う。
そりゃあ学生結婚とか、聞くことはあるけどさ。
孝弘さんがパチンと手に拳をぶつけた。
「やれることはやろうじゃねーか。
なぁ
マスターが私を慈しむような目で見つめてきた。
「……『
初めて聞いた……そんな名前の神様だったんだ。
孝弘さんが大きな声で浜崎のお爺さんに告げる。
「クソ爺! 聞いたな?!
今回はキッチリ
神社再建は、
浜崎のお爺さんが深いため息をついた。
「――ふぅ。仕方ない、協力しよう。
これ以上は
それは本意ではないからな」
マスターは私の手をそっと握ってくれた。
この手のぬくもりを、私は失くしたくない。
「――私も! できる限りのお手伝いはします!
結婚とかまだわからないけど、他のことならなんでも!」
「それだけイチャイチャしてるんだから、別に結婚してもいーじゃん」
「それとこれとは、話が別だし!
それにいちゃついてないし!」
「悪あがきもほどほどにしとけば?
どう見てもいちゃついてるわよ。
大丈夫、最悪の事態になっても、誰も
「うん……」
みんなの気持ちを受け取りながら、私たちはそれぞれの家に帰っていった。
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