第15話
「お待ち同様、
マスターがコトリとコースターとグラスを
「ありがとうマスター――え?!」
あわてた
「落ち着いて
そんなにびっくりしたかな?」
「だって、マスターはあっちにいるはずじゃ……」
「なんでマスターが二人いるの?!」
マスターがニコリと微笑んで、私の向かいに腰を下ろした。
「神様なんだから、これくらいは簡単なことだよ。
それよりお腹空いたでしょ。
軽い物でも食べようか。何がいい?」
マスターがメニューを広げて、軽食のページをテーブルに広げた。
思わず四人で頭を突き合わせてメニューを眺めてしまう。
「うーん、サンドイッチかな」
「私はグラタン」
「私はパフェにしようかな」
「それで決まりだね。
――店員さん!」
マスターが手を挙げ、店員さんが近寄ってきた。
ちょっと困惑した様子の店員さんは、
……そりゃあ、同じ人間が二人いたら驚くよね。
「お決まりでしょうか」
「サンドイッチとグラタン、パフェをお願いします」
店員さんが復唱していく。
「――以上でよろしいでしょうか。
少々お待ちください」
店員さんが立ち去ると、マスターがテーブルに肘をついて、笑顔で私たちを眺めた。
「さて、悪い子たちには理由を聞いておこうかな?」
「……たまたま、同じお店に入っただけです」
マスターが目を細めて、楽しそうに
「ふーん? それで?
『たまたま』同じ店内にいた
どうして?」
「……なんとなく、目に入ったから」
苦しい!
マスターが楽しそうに微笑んだ。
「なるほど、『なんとなく』か。
たしかに
『なんとなく』目に入っちゃっても、不思議じゃないかもね」
ニコニコと楽しそうなマスターからは、謎の威圧感を感じる。
問い詰められてる
「その……マスターはここに居て、大丈夫なんですか」
「僕かい?
力の本体は
彼女には、それで充分なのさ」
私はきょとんとしてマスターを見つめた。
「それって、どういう意味なの?」
マスターの目が私を見た。
「言った通り、見たままの意味だよ。
今は要するに、『充電中』ってことさ。
だからああして、僕に引っ付いてるんだ」
――いちゃついてる訳じゃなかったんだ?!
「そんなことして、マスターの力は足りるの?」
「ははは、力が弱くなっても、僕はまだまだ強い方の神様だからね。
ちょっとくらい力を分けても大丈夫だよ。
それに最近は、
私は
「なんだ、やっぱり
マスターがクスリと笑った。
「あんな目立つ隠れ方をして、大丈夫だと思っていたのかい?」
私はマスターに尋ねる。
「もしかして、バーじゃなくてファミレスに来たのって、それに気づいてたから?」
「まだ外は寒いからね。
それに飲み屋の外で高校生を待たせる訳にもいかない。
酔っ払いに絡まれたら大変だ。
だから
「今、『
「ごめんごめん、同郷の仲間だから、つい名前で呼んじゃうんだ。
今度からは気を付けるね」
「本当に恋人同士じゃないんですか?」
マスターがニコリと笑ってうなずいた。
「違うよ? 僕と
ギブアンドテイクでつながっている、同郷の仲間だよ。
そんなことが気になっていたのかい?」
「いえ! そういうことじゃ――」
マスターがクスクスと笑って告げる。
「君たち、バイト代の原資が
でも大丈夫、彼女はちょっと意地悪なことをしたけど、根は優しい人だから。
悪戯好きで、君たちをからかっただけだよ」
むー、本当にそうかなぁ?
「おっと、食事がきたようだね」
マスターがテーブルからどくと、店員さんが近づいてきた。
「サンドイッチのお客様――。
グラタンのお客様――。
パフェのお客様――。
以上でよろしかったですか?
ごゆっくりどうぞ」
マスターが伝票を胸ポケットにしまい、私たちに告げる。
「ここはおごってあげるから、遠慮せずにたべなさい」
私たちはどことなく気まずい空気の中、自分の前にある物を口に運んでいった。
食べている私たちに、マスターが告げる。
「バイトをしていれば、これからも
その時に悪い印象を持たれていると、お互い良いことがないだろう?
だから今のうちにきちんと誤解を解いておきたかったんだ」
私はクリームを飲み込んでマスターに尋ねる。
「本当に誤解なんですか?
「彼女の気持ちは関係がないさ。
大事なのは、僕と君たちの関係――そうだろう?
僕が彼女に振り向く気が無ければ、君たちも安心ができる。
違ったかな?」
……全部、お見通しなのか。
私もなんだか照れ臭くなって、黙ってパフェを口に運んだ。
マスターが立ち上がり、私たちに告げる。
「ちょっと僕もコーヒーを取ってくるよ。
少し待っていて。
その間に、家に遅くなるように連絡しておきなさい」
マスターは店員さんと何か会話したあと、胸元の伝票を見せて追記してもらっていた。
そのままドリンクバーカウンターに行くのを見届けてから、私たちはスマホを取り出し、親にメッセージを送った。
「――はぁ。大人の余裕かなぁ。
全部お見通しなんだもん。参っちゃう」
「そりゃあ長生きしてるんだろうけどさー」
私もパフェを食べ終わり、レモンティーを一口飲んだ。
「あはは、今夜は全部マスターの手のひらの上だったね」
マスターがテーブルに戻ってきて、のんびりとした会話を楽しんだ。
私たちが笑顔になったのを、マスターは楽しそうに見守っていた。
****
「――あ、
「大人を盗み見るのは楽しかったかしら? お嬢ちゃんたち。
おかげでせっかくバーに行きたかったのに、ムードのないファミレスになっちゃったわ」
マスターの本体が
「
「わかった、わかったわよ!
そんなに怒らなくてもいいじゃない、もう!
――ごめんなさい、可愛らしすぎて、ついからかいたくなったの」
しゅんとした
「――はい、これでいい?」
切り替え早いな?!
マスターの本体がため息をついて
「まぁいいだろう。もうやるなよ?」
「はーい」
何か今の返事、語尾にハートマークがついてた気がする……。
マスターの本体が私たちに告げる。
「僕はもう少し
私たちは黙ってうなずいた。
マスターが席を立って告げる。
「僕たちも行こうか。
あまり遅くなるといけない」
「――あ、はい!」
私たちも会計を済ませ、店を出て駅に向かった。
****
改札の前で、マスターが私たちに告げる。
「もうこんなこと、しないようにね。
君たちが危ない目に遭ったら、僕が親御さんに会わす顔が無くなる」
私たちはしゅんとしながらマスターに頭を下げた。
「ごめんなさい」
「うん、よくできました」
私たちは笑顔で手を振りながら改札を通り、マスターと別れた。
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