着実に
俺は窓の外を見て、腕に感じる感触を意識しないよう、無心になるように心がけていた。
「大翔ー、おはよー!」
無心だ。無心。
つか、そもそもこの感触は愛しているとはいえ、娘の体の感触だ。
変なことを考える方がおかしい。落ち着くんだ、俺。
「? 大翔ー?」
そうして、無心になることを意識していると、突然俺の目の前に穂乃果が俺の顔を覗き込むようにして現れた。
「う、うわっ!」
「なんで無視するのさー! ……もしかして、挨拶するのも、ダメ、だった?」
「い、いや、ごめん。そういう訳じゃなくて、ちょっと考え事をしてて、気が付かなくて」
考え事どころか、何も考えないようにしていたんだが、俺はそう言って素直に謝罪をした。
話を聞く限り、俺は穂乃果を無視していたみたいだったからな。
「そうなの? なら、改めて、おはよう、大翔」
「あぁ、おはよう、穂乃果。……隼人は?」
「……まだ風邪だって。でも、明日にはもう治りそうだよ!」
そんなものが分かるものなのか?
……よく分からんけど、明るいのは良いことだと思うし、別にいいか。
「そうか。楽しみだな」
「うん!」
そんなやり取りをしていると、せっかく穂乃果との会話のおかげで腕に感じる感触を意識せずに済んでいたのに、その腕に感じる力が更に強くなってしまった。
「? 大翔、どうしたの? 顔、赤くない?」
「え? あー、いや……その、ちょっと暑くて」
「えっ? この時期に?」
「…………」
咄嗟の言い訳とはいえ、確かに、この時期に暑いは無いわ。
「さっきも何か考え事をしてたみたいだったし、大翔、悩み事でもあるの? 私、話くらいなら聞くよ? ……それで解決出来るかは分からないけどさ」
どうしようかと内心で焦っていると、穂乃果が心配そうにそう言ってきた。
……心配してくれるのは嬉しいけど、違うんだよ。
「心配してくれるのは嬉しいけど、悩み事なんて無いから、大丈夫だよ」
悩み事が無いとは言わないけど、人に言えるような事じゃないんだよ。いくらそれが友達でもさ。
だって、俺の今の悩み事なんて全部愛羅に関してのことだし。
愛羅に不自由の無い生活を送らせてやりたいっていうのはもちろんなんだが、やっぱり俺にとっての一番の悩みは愛羅が……娘が親を異性として本気で好きだと言ってきてる時の対処法だよ!
ただ、そんなこと、穂乃果に聞けるわけないしな。
そもそも、16歳の俺に娘がいるってこと自体がおかしいことだしな。
「そうなの?」
「そうだよ」
「なら良かった。私、そろそろチャイムが鳴るし、席に戻るね」
そう言って、穂乃果が席に戻る……かと思ったけど、一言だけ口を開いて聞いてきた。
「あっ、ずっと気になってたんだけど、その腕、どうしたの? なんか、変な体勢? だけど」
「……ちょっと腕が痛くてな。気にしないでくれ。これも大丈夫だから」
「うん、分かったよ」
そんなやり取りをして、今度こそ穂乃果は席に戻っていった。
そして、穂乃果が完全に席に戻ったのを確認した俺は、利き腕じゃない左手で机に文字を書いた。
【愛羅、嫌な訳じゃないんだが、そろそろ離れてくれ】
利き手じゃないから、かなり汚い字ではあるけど、このままじゃ変な目で見られる……というか、もう変な目で見られてたんだと思うけど、今からでもまだ遅くは無いはずだ。
「……近かった」
また、愛羅の囁くような声が耳元に響いたけど、今度はちゃんと心の準備をしていたから、少しだけ体がビクッ、としただけだった。
腕に抱きついてきている愛羅にしかバレてないと思う。
……近かった? なんの事……いや、まさか、穂乃果の話しか? い、いや、でも、穂乃果には彼氏がいるって話をちゃんと昨日した、よな。
「……ヒロト、昨日から思ってたけど、耳、弱い?」
そう思っていると、突然愛羅がそんなことを聞いてきた。
……穂乃果の話じゃ無かったのか?
【弱くない】
疑問には思いつつも、変な誤解をされるのも嫌だったから、俺はまたあまり綺麗では無い文字でそう書いた。
「……なら、なんでこうやって私が話す度にそんな感じに体が反応してるの?」
【してない】
不意打ちならともかく、今は愛羅が耳元で話をしてくるって分かってるんだ。
そんなわけ、無いだろう。
……後、その言い方をやめてくれ。
いや、無意識なんだろうけど、なんか、男子高校生だから、変な想像をしてしまうんだよ。
……もちろん愛羅ででは無いけどさ。
娘だし。
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