2章 サイハテの村人 in王都

第14話 噂の村人たちは王都に行くようです


「サイハテのサイテイヘン」

「強いって噂、嘘だったみたいね。ただの平民と変わらないじゃない」


濃い髪色をした生徒たちの、くすくすと笑う声が聞こえる。


サイハテの村長の娘、エリーは一時期王都の魔術魔法学院に在籍していた。


代々村の村長一族は魔術師となって村をまとめる役割が与えられる。

村には様々な能力を持つ者が多い為だ。


村長の直系の娘であるエリーも魔術師となる、その一人だった。


エリーは一生懸命勉強した。家にあった魔術書は全て読んだし、学院の本も授業の学びに併せて優先順位をつけながら片っ端から学んだ。


しかし、実技ではどうしても上手くいかなかった。

どう足掻いても出るのは人並み以下の威力。


運動は元々苦手で身体強化をしても素早く動くことができない。


エリーは周りからサイハテ歴代サイテイヘンのレッテルを貼られたのだった。


「嫌な夢見ちゃったなあ」


暖かい日差しがカーテンから漏れ出ている。

エリーは眩しそうに見つめた。


「今日は王都かぁ」


______


〜魔王城にて〜


「魔王様!朗報です!」


今日は珍しく部下が明るい顔をしながら広間へと入ってきた。


「落ち着け、どうした」

「諜報部隊が村人たちから得た情報によると、魔術師エリーとその仲間たちが王都へ出立するそうです!!」


つまり、しばらくは魔王城が破壊されることがない!

思わず魔王達は喜んだ。


「コホン。安心している場合ではない、今のうちに手を打たねば」


魔王が目配せをすると宰相が前に出た。


「人間の馬車だと王都まで1ヶ月程かかります。魔術師がいないうちに先ずは王都に攻め入るのはいかがでしょう」

「王都に?サイハテではなく?」


魔王と同じく周りの者は皆宰相の提案に疑問を持ち、騒ついた。


「サイハテには強固な結界が貼られております。それ故魔術師が不在だったとしても暫くは突破するのは難しいでしょう」


宰相の言葉に確かに、と全員が不安な顔へと変わった。


「我々には空を飛び、王都へと3日でたどり着く手段がございます。先ずは王都を手中に納め、魔王城を移転させるというのはいかがでしょうか」

「なるほど、魔術師が不在の間にひなn……コホン、先回りをして王都に移転しつつ、村の危険を察知した魔術師が帰還するまでに余力があればサイハテを攻め落とすという事だな」


さすがは宰相、この案で行こう。

方向性が定まり明るい顔に戻る面々。

この時、彼らの頭からは『エリーはなんでもこなしちゃう規格外の魔術師』であることが抜けていた。

______


「荷物はこれで全部?」


村長の娘、エリーの家の地下。

そこには転移用の巨大な魔法陣があった。


「てっきり馬車で行くんだと思ってた、こんなのどうしたの?」


ディナがたずねる。


「大昔、この村は魔王に供物を捧げる為の中継地点でね、周りが魔物と魔素だらけだから転移して外部の人は供物を持ってこの村に来ていたの」


その後勇者の活躍によって魔王の支配が弱まり、村人も強くなって外に出られるようになった。

そのうち転移してくる人もいなくなって、この魔法も忘れさられてたんだけど。


「私が転移の魔法陣の記録を見つけて、学院の行き来が面倒だから勝手につくっちゃった」


色々とバレると面倒だから内緒ね、とエリーはウィンクした。


「バレたらどうなるの?」


ヴィラが何となく、疑問を口にした。


「えっと、この村が魔王城近くに侵入するための基地になって、戦地になって火の海になる?」

「最悪、村の全員戦争に駆り出される?」


「うん、だから内緒ね」


青ざめるヴィラの隣でとんでもないもの掘り出したわねとディナが呟く。


「出発前にもう一度確認しておこう」


シータが用意していたメモを読み上げる。


「王都に行ったことがあるのはエリーとオレだけ。ヴィラとディナは初めてだから慣れるまではオレかエリーから離れないようにする事」


それが難しい時はせめて二人で行動する事。

迷ったらとりあえず街の中央にある噴水に集合する。

サイハテ村の子供は狙われやすいから、相手が子供でもお年寄りだったとしても絶対に近づかない、ついて行かない事。


「子供でも?」


「お金を払って頼まれている可能性もあるからね。子供のうちは信頼できるのはサイハテ村の人間だけだということを覚えておいてね」


あとはこれ。とエリーはヴィラとディナにペンダントと腕輪を渡した。


「能力を抑える為のペンダントと居場所がわかるようにする為の腕輪よ」


「そんなものがあったの?それがあるんだったら今までもヴィラの能力の心配する必要なかったじゃん」


少し怒ったように言うディナに対しエリーは困った顔で返した。


「うーん、あまり使って欲しくなかったというか。無くても制御できるようになったほうがいいし、それに能力が加速しちゃう可能性もあるんだよね」


「今よりもっと能力が強くなるってこと?」


そうだねとエリーが頷くとヴィラの顔色が悪くなった。


「ああ、でも能力を無理して使った後の場合だから、最近はちゃんとコントロール出来てるしヴィラなら大丈夫よ。念の為の保険だと思ってね。ごめんね、不安にさせるような事言っちゃって。私ちょっとこのペンダントには嫌な思い出があるからつい……」


珍しく遠い目をするエリーにディナはシータをみる。


「エリーは学院にいた頃、そのペンダントのもっと強いやつをお守りとして持たされ、使っていた。何も知らされずに」


強いやつ


「能力を制限されているとは気が付かず落ちこぼれと噂されながらも一生懸命頑張った結果、制限状態でも人並みの能力が使えるようになった」


エリーお姉ちゃんが落ちこぼれ?


「ちなみに渡されたのは自身の能力を10分の1にするものだったわ」


どれだけ努力してもカスしか出ないんだもの。それがお守りのせいだったなんてね。

と、エリーはフッとその頃を思い出すように語る。


「だからまぁ、私が王都で知り合いに会って落ちこぼれとかなんとか言われててもスルーしてちょうだい。自分で何とかするから」


何とかが、さりげなく強調されたように聞こえるが、確かにディナはケンカっ早いので心配だ、と思ったがもっと危険なのはシータお兄ちゃんのほうかもしれない。


威圧、しないだろうか。


「さて長話はここまで、時間だし行きましょうか」


念の為手を繋ぐよう言われたので、エリー、ヴィラ、ディナ、シータと輪になる。


「王都、アスタリアへ」


魔法陣から溢れ出る青い光が静かに皆を包み込む。

ふわりとした感覚と眩しさに目を瞑ると、どこか埃っぽい臭いがした。

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