第13話 村人は村から出るのが嫌なようです
「王都に行ってきてくれないか」
夕食後、父に話があると言われ席に着いたエリー。
珍しく父の言葉に顔をしかめた。
「王都?なんで」
絞り出すような声で発するエリー。村長はエリーが嫌がる事を想定していたかのように続けた。
「ディナとヴィラの能力が落ち着いてきたから、王都にも慣れさせようと思ってな。お前の方が適任だと思うし、シータも一緒に行ってもらう了承を得ている」
それなら。とエリーは安心した。
「そうだよね、いずれはディナとヴィラもちゃんとした所で学ぶことになるだろうし」
「ヴィラはまだ常人に対しては危険すぎるし学院に入るのはまだ先だから、社会見学といったところだ。向こうに何人かサイハテ出身もいるし、協力してくれるだろう」
イダーテもいるだろうし、と父は言った。
本来王都までは馬車で1ヶ月もかかる。
魔物に出くわしたりすれば更にかかるはずなのだが、イダーテは自らの脚で王都から情報を取り寄せていた。
私は魔術と裏ルートがあるから数時間あれば行けるけど。
イダーテお兄さんの早脚は一体どうなっているの、能力の域をこえているよ。
「そこまで難しく考えなくてもいい。ちょっとした旅行に行くつもりで行きなさい」
うん、わかった、ととりあえず返事をする。
「用事が済んだら1週間くらい自由にしてもいい。ついでに教会に寄ってエミアにも会ってきなさい」
エリーははぁいと言いつつも、1週間もかぁと遠い目をした。
_____
「「社会見学?」」
夕食後、ディナとヴィラはボードゲームで遊んでいた。
シルディールがくれた王都のお土産だ。
勇者が魔王を討伐するまでの道のりを再現したゲーム。
装備やダンジョンで経験値を積むところから始まるのだが、これがなかなか難しい。
もちろん、サイハテ村もかいてある。
何故か村の形ではなく青い炎で描かれているが、王都も周知の名物なのだろうか。
「ああ、あんたたち王都には行ったことが無いだろう?」
エルダが頬杖をつき、足を組みながら言った。
「私はないけどヴィラもないの?」
ヴィラは村の外にはいたが、王都との間にある村にいた。
家の中にずっと籠っていたし、人が多いところなんて行けなかったのだ。
「僕なんかが行って大丈夫なの?」
ヴィラはボードの『お店のものを壊して賠償金1千万金貨』のマスを見た。
「シータとエリーもいるから大丈夫だと思うよ」
シルディールがにこにこしながら安心させようとする。
「でも、ガラスとか、色々あるし村よりいっぱい人がいるんでしょ?間違えて吹っ飛ばしちゃったら」
「おうおう、いいね、吹っ飛ばしてこい」
「母さん」
やけにノリノリな母親をシータは嗜める。
お酒入ってたかな?とシルディールが今日の夕御飯の一覧を思い出す。
「大丈夫だって、シータなんか王都で王族含めて何百人も気絶させたことがあるんだ」
ディナがちょうど、『王様の機嫌を損ねて処刑される』の一歩手前にコマを進めた。
「お兄ちゃんが……?大丈夫だったの?というか、今ここにいるんだから大丈夫だったんだよね?」
「まあ、呼び出しくらったけど……この話はもういいだろ。そう、だからヴィラ、そこまで心配いらないし、対策用意してくれるだろうから」
「旅行のつもりで行ってきなさい、お小遣いもあげるから」
「死にかけても王都には教会にエミアがいるからな、腕二つくらいまでなら大丈夫だろう」
安心させたいのか不安を煽っているのかどっちなのか。
王都にいる間は大人しく、本当におとなしくしていよう。
少年少女は心に決めた。
それはそうと、ゲームはやっと王都を出て森に入ったところで『盗賊に襲われ一文なしになった、スタートへ戻る』のコマに入ってしまった。
盗賊、というフレーズに嫌な思い出があるヴィラは渋い顔をしていた。
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