第12話 ドラヘ城でご挨拶
「ここがドラヘ城。なんて立派なお城なのかしら……私の祖国であるカレジ王国のお城の、数倍の大きさだわ」
すごいのは、何もスケールの話だけでない。
ひと目でわかるほどの荘厳さ。
建築技術の違いを見せられているようで、もどかしくなってしまう。
「私の国って、実は小国だったのね」
井の中の蛙とはいうが、まさにその通りだった。
祖国とこんなにも違うなんて、想像できなかったわね。
「竜都はこちらの大陸で最も美しい街であり、このドラヘ城は世界で最も価値のある城だと言われている」
「そんなところに、これから住まないとけないのね」
「俺たちの新居になる場所だ。実家のようにくつろいでくれ」
そうは言われても、さすがにここまで立派だとはね。
でも、ドラヘ城は一目で気に入った。
城の形が、竜を模しているところなんて最高よ。
「ドラヘ城……なんだかドラッヘ商会に名前が似ているわね」
初めて聞いた城の名前のはずなのに、なぜか親近感が沸いてしまう。
ドラッヘ商会は10年前、私の竜研究を援助するといって突然家に現れ、それから交流が始まった。
そういえばアイザックが助手になったのも、ちょうどその頃だったはず。
──ドラッヘ商会の商会長は、私が処刑されると知って驚いたでしょうね。
大陸全土に商売を広げていたドラッヘ商会をまとめる、稀代の大商人ブラッド。
本当なら、国の残されたアイザックを彼に引き取ってもらうよう、元侍女のセシリアと計画していたのだけど、それはすべて白紙になったのよね。
「ブラッド様は、いま頃なにをしているのかしら」
「……あいつのことが気になるのか?」
「あいつだなんて、いくら親しい仲だとはいえ失礼よ」
「まあ、すぐにわかるさ」
「それ、どういう意味……て、到着したみたいね」
門をくぐった竜車は、そのまま城の前まで移動する。
アイザックの手を握りながら、一緒に竜車を下ります。
すると、大勢の人たちが私たちを待ち構えていました。
「おかえりなさいませ、アイザック殿下」
「ああ、みんな。久しぶりだな」
アイザックが、城の人たちと再会の挨拶をする。
みんな、アイザックのことを懐かしく思っていたようで、嬉しそうな表情をしている。
「アイザックはたまに長期休暇をもらうことがあったけど、まさかその間にジェネラス竜国に里帰りしていたなんてね」
アイザックはこれまで何度か、こっそり竜の姿に戻って、ここジェネラス竜国へと足を運んでいたらしい。
情報のすり合わせをしたり、盟約による守護竜生活を終えて国に帰る際の段取りをしていたのだとか。
しかも竜の姿になれば、海を渡ったこの国まで一日もかからないみたい。
船と竜車での移動では一か月もかかったのに、空を移動するのは本当に便利だ。
やっぱり竜は凄い。
竜の姿になったアイザックを想像していると、私の自己紹介が始まりました。
「みんな、紹介しよう。事前に通達していたとおりだが、俺の婚約者となるルシル・ローライト公爵令嬢だ」
「はじめまして、ルシルと申します。皆さま、どうぞ
カーテシーをして、みなさんに挨拶をします。
すでに私のことは聞いていたみたいだけど、みんな私のことを興味津々といった様子で注目しています。
だけど、その中で一人だけ、ニコニコしながらこちらへ近づいてくる男性がいました。
「お久しぶりです。ルシル様。処刑されたと聞いていましたが、こうやって首と胴が繋がった状態で再会できたこと、嬉しく存じます」
「あ、あなた……な、なんでここにいるの!?」
私に挨拶をしてきた青年は、驚くことに私の知り合いでした。
だけど、彼がなぜここにいるのか理解できない。
だってここは私の故郷とは何の関係もない、遠い国だというのに。
「ご挨拶が遅れました。私は大陸最大の商会であるドラッヘ商会の商会長であり、このジェネラス竜国のアイザック王太子の側近をしております、ブラッドと申します」
「ブラッド様が、アイザックの側近!?」
ドラッヘ商会の商会長が、アイザックの側近って、どういうことなの!?
アイザックはブラッドの肩に手を置きながら、親しそうに笑い合っている。
私の混乱を面白がったように見ていたアイザックが、助け舟を出してくれます。
「いままで黙っていてすまなかった。実はブラッドは、俺の部下なんだ」
ドラッヘ商会の商会長が、アイザックの部下ぁ!?
ということは──
「まさか、ドラッヘ商会はジェネラス竜国の商会なの?」
「その通りだ。守護竜としてカレジ王国に赴任した王太子をサポートするのが、ドラッヘ商会の真の目的だからな」
アイザックがそう言うと、「今までご苦労だった」とブラッドの肩をポンポンと叩きます。
対してブラッドは、アイザックに臣下の礼を取りました。
二人の真の力関係を目にして、空いた口が
「つまり簡単にいうと、ドラッヘ商会の真の所有者は、俺だったというわけだ」
「大陸一と称されたあのドラッヘ商会が、アイザックのものだったなんて……」
アイザックは守護竜であり、ジェネラス竜国の王太子であり、そしてドラッヘ商会の真の所有者だった。
それはつまり、個としての力、王子としての権力、そして大陸一の財力を、すべて兼ねそろえているといってもいい。
「あなた、いったいどれだけ凄い存在なのよ?」
「そんな凄い俺の恋人なのは、いったいどこの誰だろうな」
アイザックが、私の頬に口付けをしました。
しかも、みんなに見せつけるように。
は、恥ずかしい!
「このドラヘ城も、そしてドラッヘ商会も、すべては俺とルシルのために存在する。自由に使ってくれ」
どうしましょう。
私の助手は、実はとんでもない大物だったようです。
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