第五章 1-4 戦闘開始

          *



 ソフィアと並んで滞空し、エルはまだ遠いヤマタノオロチを空から見下ろした。

「行くぞ、ソフィア!」

『――%$!』

 声とともにエルは加速を開始し、桜色の軌跡を引いてヤマタノオロチへと迫る。


 以前使っていた――、和輝の描いたマンガの中で使っていたときよりも巨大な剣帝フラウスは、エルの腕力を以てしても重い。しかしその長さと重さは、厚く硬質なオロチの鱗に対して有効なはずだと彼女は考えていた。

 左右に分かれるようにして飛ぶソフィアの位置を確認しながら、エルは右からヤマタノオロチへと急接近する。


 気づいたらしいオロチは首の三本をエルの方に向け、やはり赤坂このみを口の中に納めているらしい首だけは動かず、残りの四本の首をソフィアの方へと向けた。

 オロチの首の一本が喉を膨らませた瞬間、エルは光となってその首とすれ違った。


 確かな手応え。


 上空へと待避して振り返ると、すれ違い様にフラウスで斬りつけた首は、ゆっくりとズレ、血を吹き出すことなく海面へと落下して水しぶきを上げた。


 巨人族でも神々でも斬れるとされる剣帝フラウス。一刀のもとにオロチの首を切断した斬れ味に、エルは満足し、剣に笑みをかける。

 見ると緑色の光を纏った盾で雷撃を受け止めたソフィアもまた、ビームソードによって首の一本を斬り落としていた。


「行ける!」


 決して余裕がある状況ではない。その上、切り落とした火炎と雷撃、他に大水、強風、毒霧の五本の首については吐き出す息がわかっているが、残り三本はまだわかっていなかった。

 和輝と千夜子の話を聞いた限りでは、ソフィアには光を撃ち出す射撃武器もあるはずだが、それを使って全力で攻撃するためには赤坂このみを助けなければならなかった。


 ――しかし、このまま首を斬り落としていけば問題ない!


 ソフィアに目配せをし、二度目の攻撃を行おうとしたとき、これまで動かなかった首が動いた。


 赤坂このみを咥えていると思われる首は、星のように煌めく粒子を含んだ輝く息を、切断された首の傷口へと吹きかける。

 途端に傷口の表面がもぞりと動いたかと思うと、斬り落としたはずの首が生え、頭が元通りの姿を取り戻した。


「再生……、するだと?」


 ゾディアーグのときがそうであるように、和輝からはヤマタノオロチもまた姿だけで、その能力は彼が設定したものとは異なるだろうと言う話は聞いていた。

 様々な息吹を吐き出すこと自体、和輝の設定したヤマタノオロチにはない能力であったが、破壊の権化とも言えるオロチが再生の力を持つことは、エルの想定外だった。


 エルとソフィアに向かって二本ずつ、揃えた首が向けられる。

 エルへは火炎と大風を組み合わせた長距離、広範囲に渡る極炎を、ソフィアには稲光る大水の柱が吹き付けられた。


「くっ!」

 距離を取ってどうにか回避したエルはソフィアと上空で並び、彼女たちのことを無視して陸地へと向かい始めたヤマタノオロチのことを見下ろす。


「一筋縄ではいきそうにもないな」

『――#$%!』

「あぁ。しかし、やるしかあるまい。我々の目的は赤坂このみを助け、その後にヤマタノオロチを退治すること。それがわたしをこの世界に生み出した和輝の、そしてソフィアの主、千夜の願いだ。行くぞ!」

『――%&!』


 ソフィアと頷きあい、エルは二度目の攻撃を仕掛けるために急降下を開始した。

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