58 ずるい




んえ〜?



月島見えないなぁ



早いもんな〜月島。



ごつ先輩から誰も見てない。



なんでだろ。




5周目なのに



うべぇ。



暑いのに坂登らないといけない。



きついよぉ。



うべぇ



もう、きつい。


坂、きつい。


暑い。


溶ける。



「もーやだぁーー」



汗だく。



なんで走りたくなったんだろ。



10分前?何分前かわかんないけど、


あの時の私にパンチ、ってしたい




「坂、脱出だっしゅーつ…!!」


「お疲れ。あと10回ここ登るけど大丈夫?」


!!!





汗だくじゃなくて、


霧吹きでしゅってかけたみたいな汗。


涼しい顔で坂のてっぺんで待っててくれてた



「もう私無理かも!!」


「そんなことよりなんでいるの?」

「ん?気配かな。」




あっ!



「風が変わった?ってやつ?」

「なんでそれ知ってんの。くくっ。」


えっへん。



「ごつ先輩が言ってた!」


「ごつ先輩かあ。ごつ先輩、セカンドだから後でいじめとこ。」


「いじめはダメだよ月島」

「うん。ちょっときつめのパス投げとく。」


あっ、そーゆーことかっ!


「そんなことより、大丈夫?」

「全然!!中学の外周の何倍もきつい!!」



「その割には息切れてないじゃん。」



言われてみれば確かに



「中学の外周15周走ってそのあと浅野流ストレッチしてたもんね。」


「浅野流ストレッチみんな馬鹿にしてたけど、始めてからみんな怪我減ったでしょ!!」


「で、その後には遊矢と、ね。」


遊矢?



あ、高谷くん!!


えへへ。


たしかにめちゃめちゃ投げてた。




「月島、先頭なの?」

「んーと、俺の前に冬弥先輩と幸弥先輩。」


「そーなんだ…」



じゃあ他の人たち、どこいるんだろ。



ごつ先輩と月島に、西田くん、晴人くんにしか会ってない。



あ、みんなずるしてるのか!!



冬弥先輩が怒っちゃうぞ



「あ、ほら。あの角のとこ。冬弥先輩と幸弥先輩が競争してる。」


「ほんとだっ!!」



あの2人仲良しだね



あ、幸弥先輩が勝ったらしい。



両手を上に掲げた。




「下り坂きついけど大丈夫?」

「大丈夫じゃないけど頑張る!」



「ピッチャーの意地みせる!!」


ふんす



がんばるぞー!




とっとっと、っと下り坂をゆっくりと降りる



「マネージャーなのになんで走ってるの?」

「なんか、数十分前の私が走りたくなった、らしい」


「ふふっ、らしいってなに?」

「今はその選択を後悔こーかいしてる」



ほんとに後悔



月島が、並んでくれてる。


坂の途中で、私のペースに合わせてくれて。


「マネージャーなのに、頑張りすぎ。」


って言いながらも、

ちゃんと付き合ってくれてる。


その隣の背中を見てると足が動く。



「マネージャーだからだよ!」



「自分が選手だったから、きつさ…は今の方がきついと思うけど、選手のきつさわかるし、自分が嫌だ」



「自分が嫌、か。」

「うん。自分だけが楽してる、じゃないけど、苦しさ?キツさ?分かってるのに、応援しかしないってのが嫌だ」



月島がこっちに目線を送って、前を向いた。



「俺、浅野さんに “ 頑張れ ” って言われたら、もうちょっと頑張ろって思えるよ。」



んえっ



「それにマネージャーって、“ 頑張れ ” を言う人じゃなくて、黙ってても選手が “ 頑張れる ” ようにする人でしょ。それが浅野さんはできてるんだから大丈夫だよ。」




なんか、



なんか、




「浅野さん。足止まってるよ?」



ニヤ、って笑ってる。



「なんか月島ずるいっ!!」


「俺がずるい?どこが?」


きょとんって、


ちがう。


ニヤ?



「うぅ__________そーやって、かっこいいこと言うの、ずるい」

「じゃあ、格好悪いとこがお望みで?」



「いまは、かっこいいとこでお腹いっぱい!!あ、でもたまにはカッコ悪いとこも見せてね。月島、すーぐ抱え込んじゃうから」



びっくりしたみたいに。


でもすぐにニコって笑って。



「浅野さんのお望み通りに。」

「へへっ、約束ねっ!」

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