第92話 落とし所を考えるのは大事だよね。

《side フライ・エルトール》


 奇襲作戦は成功だね。初日から、ローズガーデンここにありと、力を示すことはできた。


 だが、所詮は、最弱の平民同盟を倒しただけと思われるだろう。


 平民同盟を率いていたリーダー、セレナーデさんは三つ編みにメガネをかけた委員長タイプの女性だった。


 彼女の采配に無駄がなかったからこそ、奇襲は上手くいった。


 平民同盟の陣地を手に入れると同時に、新たな仲間として、失格になった者以外は、私たちの陣営に迎え入れることとなった。


 これにより、私たちの陣地は元々の森に加え、岩場という地形的にも優位な拠点を手に入れることができた。


 ただ、少人数では領地を管理することなどあまり得策ではない。


 そんなことを考えながら、私は彼らを一つにするための言葉を紡ぐべく、皆を森の広場に集めた。


「よく集まってくれた。新たな仲間たちもよろしく頼む。指揮官を務めるフライ・エルトールだ。今後は私の指示に従ってもらうことになる」


 私は視線を巡らせながら、柔らかな口調で話し始めた。集まった人々は、元々の仲間と、今回仲間に加わった平民同盟のメンバーたちが入り混じっている。


「今後は仲間として協力してもらうつもりだ。ローズガーデンチームは、女性が多く。調査や裏方などの人数が多いため、君たちのような戦える人材は多いに期待している!」


 平民同盟のメンバーたちは、まだ少し緊張した様子だったが、期待していると声を掛ければ、嬉しそうに頬を緩める。


「そして、ここにいる皆に伝えたい。僕たちはもう、敵同士ではない。一つの目標を共有する仲間だ。だからこそ、これからの戦いを協力して挑んでほしい。初日を終えて、明日からの戦いに備えよう」


 その言葉に、元々の仲間たちの中から賛同の声が上がる。ジュリアが一歩前に出て、モフモフの耳をピンと立てながら言った。


「私もそう思うのです! 一緒に戦う仲間が増えるのは嬉しいことなのです!」


 ジュリアの明るい声が、場の雰囲気を少しだけ和らげたようだった。


「フライの兄貴、あんたについていくぜ!」

「フライさん、次は何をすればいい?」


 バクザン、ノクスも勝利の余韻で次の獲物を求めている。


 バクザンが笑いながら、ノクスは剣を握りしめて、自分の力を試したいという意志を込めて。


「もちろんさ。僕たちはこれから、このクラウン・バトルロワイヤルで勝つために一つになる必要がある。平民同盟の力が加われば、それがもっと確かなものになると思っているよ。彼が強いことが頼もしいからね」


 平民同盟の者たちが、嬉しそうにしながらも誇らしげに胸を張る。


「僕は至って平凡な人間だ。だが、強い仲間がいてくれる! それがどれだけ心強いことか知っている」

「くくく、フライの兄貴が平凡だってよ」

「俺はフライさんにいつか追いつけるだろうか?」

「はっ! 私に勝ったご主人様が平凡なわけあるか」


 戦ったことがある三人が何か言っているが、気にしないでおこう。


「ノクス!」


 私はノクスに目を向けた。彼は少し恥ずかしそうに目を逸らす。


「今回の戦いで君が見せてくれた冷静さと剣の腕前、そして、戦いは素晴らしかった! この勝利はノクスがもたらしてくれたものだ。君には感謝している」

「俺は……ただ、自分にできることをやっただけだ」


 ノクスは低い声で答えるが、その顔は少し赤い。私は彼に笑いかけた。


「それでいいんだ。それが君の強さだ」


 ノクスの言葉に、周りから自然と拍手が起こった。彼の実力と貢献を認める声が、場をさらに和らげていく。


「さて、みんな!」


 私は声を張り上げ、全員の注目を集めた。


「僕たちの陣地は、森と岩場を手に入れた。だけど、広大だと気負う必要はない。ヤルことは同じだ。ただ、一つだけ言いたい! 今の我々は人員が一番多いグループだ。数の上で最強であると!」

「最強?」


 平民同盟から呟きが聞こえてくる。その声には、以前のような敵意ではなく、少しだけ希望が混じっている。


「そう、最強だ。なぜなら、ここにいる全員が、それぞれに素晴らしい力を持っているから頼もしいよ」


 私は仲間たちの顔を見渡しながら、言葉を続けた。


「ジュリアの察知能力、レンナの破壊力、ノクスの剣術、バクザンの経験、エリザベートとアイリーンの知恵、セシリアの統率力……そして、君たち平民同盟の力が加われば、どんな相手にも勝てるさ、」

「……フライの兄貴の指揮も忘れてるぜ!」


 バクザンの言葉に笑いが漏れる、平民同盟のメンバーたちの心も馴染み始めているのを感じる。


「さぁ、みんな! これからは一つのチームだ。僕たちは仲間だ。共に戦おう」


 私の言葉に、全員が歓声を上げた。その声は森と岩場に響き渡り、新たなチームの結束を象徴していた。


 ♢


 指示を出し終えた私は指揮官を務める拠点に戻った。


 エリザベートやセシリアがお茶を飲んでおり、優雅な様子で私を待っていました。


「フライ様、まずは初日の成果としては上々でしょうか?」

「そうだね。平民同盟は元々就職活動のために参加していた。力を示せれば仲間になりやすい子達を陣地の立地で手に入れられたのは大きい。それに、陣地よりも人材を確保できたことが何よりだね。多分だけど、どんどんせめぎあいをさせるような展開になるだろうからね。一日目は十分だ」


 集団戦は、何が起きるのかわからない。


 だからこそ、余計な波乱分子は排除しておきたい。


「フライ様に聞いておきたいのですが、どこまでを目指されておられますか?」


 セシリアの質問に、私は真剣な目を向ける。


「君はどれほどの順位を狙っているんだい?」

「不思議なことを言われるのですね。まるで、何位でも取れるような言い方をされて」

「そうだね。正直に言えば、優勝はそれほど難しくはない」

「なっ?!」

「だけど、公国はそれを望むだろうか?」


 私の問いかけにセシリアは大きく息を吐く。


「その通りです。残念ではありますが、優勝は望んでおりません。ですが、早々に破れることも望みません。3位、もしくは4位に残れれば御の字と考えています」

「だろうね。なら、僕らの目標は最後の日まで生き残るのか? それとも適当なところで負ける相手を決めておくべきだね」

「同盟ということでしょうか?」

「ああ、わかりました。その相手を考えてみます!」

 

 セシリアが考えている横で、私は終わりが見えているなら、何か面白いことができないかとほくそ笑んでしまう。


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 あとがき


 どうも作者のイコです。


 今日はここまで!!!


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