第65話 孫自慢大会じゃ!!!

《sideフェル》


 とうとうこの時が来たぞ!!! ワシにもついに後継者ができた。


 それはこれまで後継者を決めきれんかったワシにも問題があるが、そのおかげでとびきりの後継者を見つけることに成功したんじゃ。


 夜の学園都市は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、街の隅々まで灯るランタンの明かりが静かに揺れている。この時間帯は最も落ち着く時間じゃ。


 人の目が少なくなり、人の本音が曝け出される。世界は夜にこそワシらは輝き始める。


 今夜は特別だ。毎年恒例の「顔役たちの集い」の日。


 各国の裏社会のボスたちが一堂に会し、自らが後継者と目する若者を連れてくる。学園都市で行われるフェスティバルの裏で、この集まりは密かに続いてきた。


 名目は親睦会だが、実態は「孫自慢大会」じゃ。


 どこのボスが、いかに優れた後継者を育てているかを競い合う場でもある。


 私もこの集いに参加するようになって長い。だが、毎年のことながら、私は自慢する「孫」がいなかった。


 おかげでいつも、他のボスたちの自慢話を聞かされるだけだ。


「あの坊主は将来、国を動かす器だ」

「うちの若いのは抗争で百人を屠った猛者だ」


 そんな話を横で聞かされるたび、ワシの中には小さな劣等感が募った。


 もちろん、ワシは裏社会の中でもそれなりに名の知れた存在じゃ。じゃが、後継者となる若者がいなかったことは、心のどこかで引け目を感じていた。


 だからこそ、今年は違う。


 私は「フライ・エルトール」という孫を見つけた。


 若いがギャブラーとしての度胸と、抜け目なく、どこか掴みどころのない性格。しかも、学園都市の公爵家を感じさせない余裕と、堂々とした態度。


 何よりも、あの少年には不思議なカリスマ性がある。見た目は呆然しておるが、人を惹きつけ、どんな場でも一歩も引かない強さを持っておる。


 何よりも赤龍王の娘をあしらう実力まで兼ね備えておるのは、予想外じゃった。


「今年こそ、自慢できるぞ!」


 ワシは集いの会場に向かう道すがら、胸を高鳴らせていた。これまで何度も屈辱を味わってきたこの場で、ついにワシも孫自慢を披露する番が回ってきたのじゃ。


 会場に着くと、そこにはいつもの顔ぶれが揃っておった。


 鬼人族で地下闘技場の総元締めであり、奴自身もかなりの強さを誇る禿頭に傷が走るオルバス。


 冷たい目つきに闇の武器商人と呼ばれるドワーフのトーマス。


 そして不敵な笑みを浮かべるエルフの妖怪ババア、ラジャなど。


 各国を牛耳る大物たちが、豪華な席に座って談笑しておる。


 その後ろには、彼らの「孫」たちが控えていた。戦闘の傷跡が体に刻まれた者、魔力を纏った気高い者、どれも一目で只者ではないと分かる。


「おお、フェルか。遅かったな。今年も相変わらず“孫なし”か?」


 オルバスの野太い声が響く。奴は毎年、ワシを冷やかしてくる。じゃが、今年のワシはニヤリと笑い返しながら、後ろに控えているフライを指差した。


 フフフ、今年は違うぞ。見てみろ、この坊主を」


 ワシが言うと、全員の視線がフライに集まった。フライは物怖じすることなく、軽く頭を下げただけで、堂々と立っている。


「ほう、フェルが本当に孫を連れてきたか」

「学園都市の坊主か? 大したことなさそうだが?」

「いや、ただの小僧じゃないか?」


 口々に値踏みする声が上がる。ワシは心の中で笑った。こいつらはまだフライの本当の力を知らない。


 集いが始まると、各ボスたちは自らの後継者を披露し始めた。それぞれが若者の武勇や才知を誇り、話に花を咲かせている。


 その中でワシは静かにフライを見つめていた。話が進むにつれ、他のボスたちもフライに興味を持ち始めたようだった。


「坊主、名前はなんだ?」


 グラントがフライに問いかける。フライは淡々と答えた。


「フライ・エルトールです」

「おいおい、まさか貴族の坊ちゃんを連れてきたのか?」


 トーマスが嫌味を込めて笑う。私は肩をすくめた。


「貴族だろうが何だろうが、才能がある奴を見つけたら育てる。それがワシの流儀じゃ」


 その言葉に、周囲のボスたちがどっと笑い声を上げた。


 宴が進むにつれ、フライの存在感は徐々に増していった。


 フライはどんな話題にも怯むことなく、さらりとした受け答えを見せ、時折ユーモアを交えて場を和ませた。これには私も驚いた。


「坊主、お前、なかなかやるじゃないかい」


 ラジャが感心したように言うと、フライはにっこり笑って返した。


「お褒めいただき光栄です。でも、僕なんてまだまだですよ」


 謙虚な態度だが、その目には確固たる自信が宿っている。それがまた、彼を魅力的にしていた。


 やがて、話題はメムとシーバに移った。


「おいフェル、その夢魔族と精霊族の娘、なかなかの美人じゃねえか」


 グラントが目を輝かせて言うと、他のボスたちも興味津々といった様子で二人を見つめた。


「だが、彼女たちはフライの大切な奴隷だ」


 ワシが釘を刺すと、ボスたちはすぐに笑い声を上げた。


 そこからのフライの大立ち回りは、見事の一言じゃった。オルバスを膝をつかせ、他の孫たちを圧倒して見せた。


 ワシはここまで心躍る場面に出会ったことはないぞ。フライ・エルトール! こやつはワシの想像を超えていきおる!


 上座に座ったフライは、特に動じることなく、メムとシーバを優しく見つめて言った。


「お二人とも、今日は僕と一緒に来てくれてありがとう。君たちがいるだけで、僕はどんな場でも心強いよ」


 その言葉に、メムとシーバの頬が赤く染める。


 ワシは胸を張り、心の中で叫んでいた。


「どうじゃ、この孫はワシの誇りじゃ!」


 フライが予想以上の活躍を見せるたびに、私の顔には自然と笑みが浮かぶ。今まで屈辱を味わい続けた集いだったが、今年は違う。私はこの瞬間を待ち望んでいたのだ。


 宴が終わるころ、他のボスたちは口々にフライの名前を挙げて称賛していた。


「フェル、お前、いい後継者を手に入れたな」

「こりゃ、来年はもっと楽しみになるぜ」

「坊主、また来いよ」


 私はフライを連れて帰る道すがら、彼に言った。


「よくやった、フライ。ワシはお前が誇らしい」


 フライは肩をすくめて答えた。


「別に、普通にしていただけだよ。フェル爺さんの友達は豪快だね」


 その言葉に、私は心から笑った。これほど頼もしい「孫」は他にはいないだろうと確信して。こやつの将来が今から楽しみで仕方ないのぅ。

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