第44話 アイリーンさんって意思が強い?

 アイリーンさんが僕のためにしてくれることを疑わない。だから、何かがおかしいと思った。


 ブラウンのボサボサ髪にビン底メガネ、彼女は小説の中で、メインヒロインと呼ぶべき力を持った女性で、絶対に敵対したくない相手として私の中でブラックリスト入りしています。


「フライ様? お呼びですか?」


 夜遅くにアイリーンさんを呼びつけることはできなかったので、次の日になって僕はアイリーンさんに話を聞くことにした。


「先日頼んでいた支援したい女性のことなんだけど」

「トアさんのことですね? はい。フライ様が要望した通りに手配をしました」


 アイリーンさんの言葉に嘘はない。やはり彼女が私に嘘をつくはずがない。


「ちなみに、どんな方法で?」

「えっと、彼女は男爵家の支援を受けていましたので、そちらに彼女の支援をしたいと申し出て、費用の支給をさせていただきました。流石にお世話になっている貴族がいるのに直接はまずいかと思いまして。いけませんでしたでしょうか?」


 なるほど、アイリーンさんは私の言った通りにしてくれた。


 だけど、トアはアルバイトをしている。つまり、こちらの支援がトアに正しく届いていない?


「ありがとう。なんとなく見えてきたよ」

「どうかされたのですか?」

「うん。実は昨日、そのトアに会ったんだ。彼女は夜の怪しい酒場でアルバイトをしていて、変なオジサンに危ないことをされそうになっていてね」

「!!! 申し訳ありません。どうやらフライ様から引き受けた仕事を正しく行えていませんでした!」


 険しい表情になったアイリーンさんは自分の責任だと頭を下げて謝ってくれる。


「いや、僕も自分で確認しなかったのも悪いから」

「いえ、ユーハイム家の長女として、これは由々しき事態です」

「えっ?」

「フライ様、この度はアイリーン・ユーハイムの失態でございます。何がなんでも、トア様の現状を救出してみせます」

「あ〜うん。なら頼もうかな。だけど、僕も僕なりに動くよ」


 少しばかり許せない状況だよね。


 トア、彼女は学園都市に特待生として入学して、ある分野で大成功を収める才女だ。


 今後、戦争が起きた際に彼女を味方にしているのか、していないのかによって戦況は大きく変わることになる。


「かしこまりました。フライ様の手を煩わせてしまったこと、心からお詫びします」

「いや、本当にアイリーンさんのことを怒ってはいないよ」

「フライ様の優しい言葉は嬉しくはありますが、どうしても自分が許せません。エリザベートではなく、私を選んでくださったのに。このような失態を必ず汚名返上させていただきます」


 アイリーンさんは意気込んで、私の部屋を飛び出していきました。


 彼女も私と同じく小説には登場しないキャラです。


 こうやって存在しない者同士で話をするというのは、暗躍しているようで楽しいです。


 今回の失敗で少しだけアイリーンさんのことがわかったような気がします。


 彼女は、責任感が強くて負けず嫌いなのかもしれません。いつもは控えているので気づかなかったですが、エリザベートに対して、彼女なりの劣等感があるのかもしれませんね。


「まぁ、トアのことを気にしながら、アイリーンさんに任せてみようかな。彼女は相当に責任を感じていたようだし」


 私は表向きに、ちょっと飲み歩くついでにトアのことを気にかけよう。ということで、私はいつも通りテルを誘いにいきます。


「あれ? 今日はチョコもいるのかい?」

「ご主人様! 私もお酒が飲みたいのです!」

「あ〜ドワーフはお酒が好きなんだっけ?」

「はいです! 出来れば火酒がいいです」


 物凄くアルコール度数が高いお酒だよね? チラリとテルを見れば、毎日連れ回していたからか、少々疲れているようだ。


「わかったよ。テルはどうする?」

「私は今日は休むわ。ちょっと夜更かしをしすぎて肌荒れが気になるのよね。朝はいくら早くても良いんだけど、夜更かしはお肌の天敵よ。それにお酒を飲むのも体に良くないわ」


 どうやら美意識の高さがテルのお酒への抵抗感を生んでしまったようだ。


「それと、これはあの子が働いている酒場。私よりも女性を連れて行く方がいいわ。チョコは見た目はドワーフで幼く見えるけど、化粧をすれば大人の女性に見えるわ。それにお酒も強いから、何かあったときに頼りになるわよ」


 どうやらテルはトアの事情を察してくれて、チョコを用意してくれたようだ。


 こういうところに気が回るのも、女心というものかな? ありがたいですね。


「ありがとう、テル。また付き合ってくれると嬉しいよ」

「もう仕方ない、ご主人様ね。今回の一件が片付いたら付き合ってあげるわ。あの子を助けるのでしょ?」

「わかってたのか?」

「ええ、ご主人様って、なんだかんだ言いながら女の子に甘いもの」


 テルにはなんでもお見通しのようだ。


「準備ができたのです!」


 そう言って現れたチョコは、高めのヒールに着飾った派手なドレスを着ていた。化粧もしているので、普段よりも大人っぽい雰囲気に見えた。


「おお、いいな。チョコは美人だな」

「ふふ、ご主人様〜褒めても何も出ないです! 一晩相手をしてあげてもいいですよ。ボーヤ」


 雰囲気まで演出してくれて、なかなかに面白い。

 

 女性は化粧をすると変わるというが、チョコは普段は三つ編みにゴワゴワとした髪質をしている。


 さらに職人として作業着を着ているが、着飾って髪の毛をセットすると大人っぽい雰囲気を醸し出して、年上のお姉さんという印象が強くなる。


「ありがとう。なら、今日はエスコートさせてもらうよ」

「喜んで」

「テル、他の奴らの面倒は頼むな」

「はいはい。気をつけてね。ご主人様」


 テルに後のことを任せて、私はトアが働いている酒場へと向かいました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る