お気楽公爵家の次男に転生したので、適当なことを言っていたら英雄扱いされてしまった。

イコ

第1話 転生したけど、私は平凡でした。

 変わり映えのしない人生に変化を求めていた。


 人とは違う人生を歩みたい。そんなことを思っても結局は世間の歯車の一つとして、会社にいって時間を潰して、友人たちとバカな話をして酒を飲む。


 楽しみなどそれぐらいしか存在しない。いや、若い頃にはいくらでも楽しみは存在していた。


 だけど、歳を重ねるごとに、いつからか楽しみは減っていった。体も鈍って動かすことが億劫になった。


 昔は運動が得意だった。


 恋愛だって、女性を口説くために友人たちと作戦を練った。身なりを気をつけて、お金がないので、バイトに明け暮れて。やっとできた恋人がいるくせに、他の女性を口説こうという意欲もあった。


 だけど、どれも歳と共に倫理に囚われ、理性という檻と、若くないという戒めによって制限される。


 誰かに迷惑をかけることをしてはいけない。


 ただ大人しく仕事をして、お金を稼いで、ささやかな楽しみにお金を注いで、老後を待つだけの日々。そんな日々で本当にいいのだろうか? 不意に訪れる疑問は不安を与えてきて、少しでも何かに夢中になりたいと思って、本を手に取った。


 最近は電子書籍や、WEB投稿も増えているから、いくらでも現実から離れて物語の中へ没入することができた。


 そんな中でも戦略、戦術、謀略、計略、政変など、戦争が起きる小説が大好きで読み漁っていた。だからと言ってオタクになれるほど真剣でもなくて、戦略戦術を覚えられるわけでもない。


 ただ、物語の中に出てくる英雄たちに憧れ、彼らのような冒険をして、活躍してみたい。もしくは大金持ちの子供に生まれ変わって傍若無人に振る舞ってみたい。


 はたまた、悪役になってカッコ良いセリフを告げながら散っていく。


 どんなキャラクターも憧れの存在だった。いつか生まれ変わるなら、そうなりたい。


 平和なことは美徳であり、平和な世界に生まれたことは幸せなことだ。それは間違いない。だけど、能力も平凡で英雄になれる素質も存在しない。


 自分にとって幸福とはなんだったのだろうか?



 ♢



「オギャーオギャー」


 変化が訪れたことに気づいたのは、赤ん坊の鳴き声を聞いた時だった。


(えっ? どういうことでしょうか? 身動きが取れません。目は霞んで自分の体ととは思えないほど動くのが億劫です)


「あらあら、フライは泣き虫ね。お兄ちゃんはそんなに泣かなかったわよ」


 女性の声が聞こえたと思えば、突然、体を持ち上げられました。


(なっ!? 私を抱き上げている? ここは病院か何かでしょうか? 看護師さん、凄い力持ちですね!)


 頑張って目を開けようとして、薄ぼんやりと見える景色には、赤茶色の髪色と、記憶ではお会いしたことがない西洋風のお顔立ちをされた若くて美しい女性が見えました。


 その白い肌に紅瞳が印象的な人が、私に向かって微笑みかけてくれています。


「ほら、ご飯でちゅよ」


 突然、女性が服をズラして胸を露出します! いけません。若い人がこんなおじさんに肌を晒しては! 私は辞めさせようと手を上げようとしますが、全く動きません。


 大怪我をして身動きが取れなくなってしまったのでしょうか? 身動きが取れないから、こんな幼児プレイを強要されているのですか? くっ! 彼女の胸が私の口元に当たって、ミルクを飲まされます。さぞ滑稽な姿でしょう。


 ですが、神よ。私はあなたに言いたい! 神よ。あなたは存在していたのですね!


 ここで初めて気づきました。私が赤ちゃんなのですね! 女性の胸に当たった口が小さくて、胸を抱きしめる私の手は赤ちゃんそのものです。


 赤ちゃんになったのはわかるのですが、若い女性にミルクを飲ませてもらう趣味はありません! もう少し意識が戻るの遅くできませんでしたか? 神様、もっと空気を読んでください!


 ただ、不思議なものです。


「フライ、私はあなたの母ですよ〜いっぱい飲んで早く大きくなってね」


 彼女が私の母? だからでしょうか? 母から与えられる温かさは、幸福を感じられるのです。味など全くわかりません。ですが、私は自ら変化を望み。神様は変化を与えてくださいました。


 それは久しく私が忘れていた刺激です。


「フライ。あなたはエルトール家の次男です。あなたの兄を支える役目を持って生まれてきたのです。元気に育って、しっかりとお支えするのですよ!」


 私が意識を取り戻してからの日々はあっという間に過ぎて行きました。


 ♢


 改めて自分のことを整理します。


 私の名前はフライ・エルトール。現在五歳です。


 羞恥心に耐えながらも私は、母から与えられたミルクを飲み干しました。決して、心から望んでいたなんてことはございません。はい。ございませんとも!


 転生者として、数十年を生きた記憶を持っており、趣味は読書で、物語の世界へ入り込むことが好きでした。


 そして、私が目覚めたこの世界は、転生前に読み進めていた『ファルグリア大陸戦記』という小説の中なのです。


 ファルグリア大陸では、将来的に大陸を巻き込む大戦乱が巻き起こります。


 戦乱の中では、多くの英雄たちが誕生しては死んでいく。


 悲しきドラマがある物語でした。


 ですが、私ことフライ・エルトールという人物を、私は存じ上げておりません。


 いや、エルトール公爵家は大陸の四分の一を支配する帝国の最上位貴族であり、物語にはもちろん登場します。


 ですが、フライ・エルトールなる人物は影も形もありません。つまりは、モブオブザモブ。私の人生が生まれ変わったとしても、平凡ということでしょうか?


 ただ、生まれながらにお金持ちの次男。


 しかも、ファンタジー世界。


 剣と魔法が織りなす戦乱の世の中一歩手前。


 滾るなという方が無理がありませんか? 私には無理です。わくわくします。今から鍛えまくって最強になってみましょうか? それとも暇なので魔法を極めましょうか? どんな道でもやり直せるって最強ですよ!


 こんなのいくら生き返らせてもらってもいいですからね。



 ♢



 はは、生まれ変わっても性根が変わるとでも? 無理無理。


 現在十五歳になりましたが、私は平凡なままでした。


 私は確かに努力をしようとしました。


 WEBやラノベによく出てくる。魔力を使い果たしたら、魔力量が増える法則を試してみました。いや、あれって魔力を使う前に頭痛と吐き気がして、物凄くしんどいんです。


 なら、剣術を幼い頃から鍛えて最強に? もっと無理ですよ。筋骨隆々な大人たちに混じって剣を振るっても一向に強くなりません。


 むしろ、ぶっ飛ばされたり、公爵家の息子として手ほどきを受ける程度です。


 誰も本気でやらないんです。まぁ、最初は剣を振るうことが楽しくて、剣を一時期ハマって振りまくりましたけど、全然強くなれませんでした。


 好きな戦記物の知識を活かして、戦術や戦略なんて覚えていれば良かったですが、全く覚えていませんから、軍師としての素質も皆無。


 ちょっと神童と呼ばれることも期待していましたが、ぼんやりとしている大人しい少年としか家では見られていません。


 ただ、平凡な貴族家次男として育てられましたよ。


 まぁ若さとは凄いものです。教師としてついてくれた方々の指導を受ければ、マナー、歴史、魔法基礎、剣術はそこそこできるようになるのですから。


 若さ万歳です。


 無理に魔力量を増やさなくても、筋肉痛で動けなくならなくても、適当にしていれば、それなりになるものです。


「フライ! 貴様はやる気がないのか?」

「兄上、そんなことはありません。ただ、私は兄上の代替え品です。父上からも、母上からも、兄を支えなさいと育てられました」

「それは! お前は悔しくないのか?!」


 兄は熱血男だ。全てに全力投球で、私が言ったことを守る素直さも持っている。


 私が魔力切れの訓練をしている時などは。


「何をしているのだ? どうして、そんなにも魔力切ればかりを無理やりするんだ?! 命がいくつあっても足りないではないか?!」

「兄上。これは魔力量を増やすためにやっているのです」

「そんなことで増えるものか! 誰もそんなこと教えてはくれなかったぞ!」

「兄上は子供ですからね。まだ大人のいうことを聞いて良い子ちゃんなのです」


 あの頃の私は転生者優位主義でしたからね。幼さにかまけて兄上を煽ったものです。


「むむむ、確かに教師たちいうことばかりを聞いていてはいけないな」

「そうでしょうそうでしょう。兄上もやってみてはどうですか?」

「うっ? しかし、魔力切れを起こすと頭痛と吐き気が……」

「恐いんですか?」


 私が挑発すると、兄上はすぐに乗ってきます。


「怖くなどない! やってやる」


 兄上が七歳の頃で、可愛かったですね。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 なんだか思いついたので、書いてみました。

 気楽に暇つぶしになったらいいなぁ〜と思っています。


 何も考えずに書けたら投稿しますが、プロットも何もないのでご期待しないでくださいw


 どうぞよろしくお願いいたします。 

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