ハルミは、同僚の若手社員で僕と新卒入社の同期だ。

 初めて顔を合わせてから、ほぼ丸三年ほどになる。


 彼女は出勤してきた僕を見るなり、いつもの浅黒い手を僕の目の前にかざす。

「はい、これ」といって柄の付いた小ぶりな白い紙袋をぶら下げた。


「なに、それ?」

 僕は目を見張った。

 彼女に貸したものなどなかったからである。

「口に合えばいいけど?」

 ハルミは、厚みのある唇に小さく笑みを作った。「誕生日おめでとう」

 僕は不意を突かれて、つい口どもる。「……お、おう」

 それを受け取り、慌てて付け足した。

「あ、ありがと」

 重みのある袋の中身は、数個の缶詰だった。

 アヒージョと表示がある。

「洋酒を飲むと言ってたからね」

 思わず顔をあげると、すぐそこにハルミの覗くような大きな目があった。

 彼女はいった。 

「お返しだよ」

「……おっと、そうか」


 そう、僕は彼女に半年ほど前、誕生日プレゼントをあげたのだ。

 ちょっと気が向いたので、近場のケーキショップでバウムクーヘンをホールで買って贈ったのである。

 彼女はびっくりしていたけど、そのとき訊かれるまま僕は自分の誕生日を教えたのだった。

 それが今日の今日まで何の話題にも上がらなかっただけに、僕はそのさりげなさと律儀さに感心してしまった。

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