第8話 兄貴分からの手紙…… ①

『ユリウスへ──』


『これをお前が読んでいるという事はどうやら俺はそこには帰れなかったみたいだな。 やれやれ…… 俺とした事がまたしくじっちまったって事か』


『まぁ、あれ程の大戦だ。 こうなる可能性も大いにあった』


『だからこそ、万が一に備えて未だに変に拗らせてる可能性が高い世話のやける『弟分と妹分』にそれぞれこの手紙とオマケの代物をシリウスとして残しておく事にした』


『お前等が今どういう状況かは俺は知らねえ。 両方生き残ってるかもしれねえしどちらか片方だけがくたばっちまったかもしれねえ」


『お前等に限らず他の大切な仲間達が死んだかもしれねえしその事に傷ついてその傷が癒えず未だ引きずってるかもしれねえし逆にちゃんと前を向けて歩けているかもしれねえ』


『どうなってるかは正直わからんがそれでも俺は前原さんにこの手紙を託し、必要と判断した場合に限ってお前等に渡す様にと頼んでおいた』


『もしどちらかがくたばって未だその事を引きずってんなら本来なら無責任な事は言えねえし言わねえ主義なんだがそれでも──』




『前を向け! たっぷり休んでも首が痛くなる位に下を向いて擦り切れるまで引きずっててもいい!』


『だけど自分のペースでいい!』


『いつか立ち上がって! 前を向いて歩いてほしい』


『何故なら…… 生きてる奴が逝なくなっちまった奴の為にできる事は結局のところそいつらの分まで前を向いて生きてもらう事だけだからだ』


『俺も含めて…… 逝なくなっちまった奴等を真に想ってくれているのなら…… たっぷり休んだ後でいつかその歩を進めてくれ』


『だがまあこれは俺の単なる勘なんだが、何だかんだお前等は二人共生き残ってる気がするけどな。 お前等昔から悪運強いし』


『だからここから先の言葉は二人共に無事生きてもどれたっつー前提のもとで残しておく』


『万が一、エレインがもう逝なくなっていたらこの手紙はもうこれ以上読むな。 まあ俺の勘はメチャメチャ当たる方だから多分そこに彼女もいるんだろうがな』


『とりあえず! この手紙を読めてる時点であのクソッタレな『災厄』野郎をぶちのめして世界に平和を取り戻してくれたって事だろう』


『色々な連中が各々出来る事を限界以上までやった末での結果だろうが、皆が一丸となって戦えたのはユリウス…… やっぱりお前の存在が大きいと俺は思う』


『ガキの頃、散々迷ってたお前を見てきた俺にとっては正直ここまでお前が大きくなるとは思わなかったぜ。 正直先代様を超えてるだろうな…… あっ! これはここだけの話にしといてくれよ!』


『普段はだらしない所も少し…… 結構…… いや、かなり…… 多いんだが…… うん、まあ…… それでもだ! 誰よりも! あんたは天界の事を! そしてそれ以上に、そこに住まう大勢の人々の為に力を尽くしてくれてた事を俺は知ってる』


『そして周りに変なプレッシャーを与えない様に必要以上に軽妙な態度をとったり…… まあ軽いのは素でもあんだろうがそれでもお前は! どんなに苦しい状況でも『大王様がいれば絶対に何とかなる!』 お前のその自信に満ち溢れた笑顔が、常に周りをそう思わせてくれて皆に安心感を与えてくれていたんだ』


『そんなお前だからこそ、皆がお前に迷わず付いてこれたんだ。 その結果が今回の勝利に繋がったんだと俺は思う』


『本当に立派になったな』


『これで自分自身と彼女との事もしっかりやれてれば言うこと無しなんだがな』


『お前の事だ。 ただでさえエレインの事となると仕掛けてるのを装って、ただのテレ隠しでビビって中々前に踏み出せてない可能性もあるにはあるし、この後も天界復興やら何やらで自分の事を疎かにしちまってる可能性も大いにある』


『だがこの期に及んでもし…… もしもだぞ! 未だにぐずついている様なら! 男として! いい加減根性見せろや!』


『まあ俺はお前があの時の……』


『そう、俺がアラン戦を経てシリウスとしての記憶を取り戻したあの日の晩…… お前と酒を酌み交わした時にした『あの時の約束』を守ってるって事を信じさせてもらうがな!』




 

 *     *     *



 「それも一つの正解だ。 帰る場所が…… 自分を待ってくれている人の為に何が何でも生きて帰る! その想いは時として強い力を発揮したりもするだろうしね」


「だが僕はそこまで勇気は持てない……」


「想いを告げるだけ告げて、帰ってこれなかったら…… その時彼女は…… と思うとね……」


「だから僕は君とは逆の道を行くよ!」


「何が何でもこの戦いに勝って! 彼女のもとに帰る事ができたら、その時こそ! 彼女に想いを伝える資格を得ることができるんだ! とね!」


「やれやれ…… 大分拗こじらせてるな」


「けどそれも一つの戦い方だ…… 健闘を祈るよ……」



 *     *     *




『まあお前さんの『強さ』は俺もかなり理解している方だと勝手に自負させてもらっているから、正直お前さんの事はそこまで心配してねえ。 どちらかというとエレインの方が心配だ……』


『もし彼女が妙な拗らせ方をしている様なら問答無用であいつに有無も言わさず全力でぶつかっていけ! 一応、後押し用の㊙アイテムを用意しておいた』



『自信を持て。 ユリウス』



『お前なら、いや、お前等二人なら大丈夫だよ』


『彼女の事…… 頼んだぜ』



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