3−4 ゾンビと歩くと猫に当たる
「みゃーーーーーっっ、やめるのにゃぁっ、誰か助けるのにゃぁぁぁぁっっ!!!」
遠くから聞こえてきたのは、女の子が助けを求める声だった。
語尾がなんとも緊張感を感じさせない声ではあるわけだけど……
「だからと言って、見捨てるわけにもいかないよねえ……」
困ってる人を見捨てるのはちょっとって思いと、彼女がもしかしたら僕の路銀問題を解決してくれるかもって期待がちょっと……僕は声の聞こえてきた方の様子を確認しにいくことにする。
「マリーは潜伏モードでついてきてくれる?」
「ゔぁー」
ゾンビな彼女を一般人の前に連れて行くわけにはいかないので、マリーには隠れてついてきてもらうことにする。
《気配遮断》を使った彼女の存在感が、その場にいても見つけるのが難しいくらいにぐっと薄くなる。僕はそんなマリーを連れて、悲鳴の聞こえてきた方へと足を向ける。
「あれは……ゾンビ、に襲われている馬車か……」
少し街道から外れた場所で、比較的大型の馬車が3匹のゾンビに囲まれている。
ゾンビたちは見た目的にはマリーと同じで腐ってない感じだから……
「……《ゾンビステータスアナリシス》」
目の前に広がる3匹のゾンビの詳細。
「うん……なるほどね。こういうタイプのゾンビはやっぱりフレッシュゾンビって種類になるんだな。でもルーナとかマリーと違ってステータスは大したことないし、強力な《スキル》ももっていなさそうだね……特に問題はなさそうかな」
さて……どうするか。
もちろんあの3匹のゾンビを蹴散らすのは僕には容易いこと。
この世界に召喚されたばかりの僕だったならば、迷うことなく彼女のことを助けたことだろう。
だけど、この世界の人間たちとゾンビを比べたら……
ルーナやマリー……ゾンビである彼女達のほうがよっぽど僕のことを助けてくれているし、信頼もしている。
そんなゾンビたちを倒してまで、彼女のことを助ける価値は──
「あっっ、にゃぁぁっ、そこのお兄さんっ、助けて欲しいにゃぁっっ! 後でお礼はたっぷりするのにゃぁっ!!」
──あるな。僕の方を振り向いた猫耳つきの少女は、大きな瞳が愛らしいかなりの美少女だった。
うん……悩むことはない。このレベルの猫耳美少女なら、これまでの全てを忘れて助ける価値はあるだろう。
ついでにうまく助けることができた暁には、あの猫耳をモフらせてもらうとしよう。
「わかったよっ! 今助けるから、もう少しだけがんばって……」
「早くしてほしいのにゃっ! ゾンビに噛まれたらゾンビになってしまうにゃ! そんなのは嫌なのにゃっ! うちはゾンビになんてなりたくないのにゃぁっ!」
ん……? やっぱりゾンビに噛まれたらゾンビになるの?
ってことは僕のマリーもどこかのゾンビに噛まれて感染しちゃったってことなのかな……?
そうなると、前世のゾンビもの小説みたいに、この世界のゾンビにもそういう感染設定があるってことか……
『アマゾネス』のやつらがゾンビダンジョンに行くのに特にゾンビの感染対策をしていなかったのは、高レベル冒険者である彼女たちならばゾンビの攻撃なんか受けない自信があったからってこと……?
うーん、ちょっと不自然な感じもするけど……猫耳の彼女を助けることができたら、もう少し詳しいことを聞いてみる必要がありそう。
なんにしても今は彼女のことを助けないとだね……
「マリー、僕は彼女を助けてくるから、マリーはこっそりと僕の警護をお願いできる? 僕がヤバそうなときは、バレてもいいから助けて」
「ゔぁー」
マリーは気配を遮断したまま、近くの森の木の上に駆け上がる。
僕はそれを確認してから、馬車を囲むゾンビへと向かう。
ゾンビたちの動きは鈍いけれど、馬車上でその腕をかわしつづける猫耳美少女には余裕はなさそう。
僕は駆け寄った勢いのままに、一番猫耳美少女に近いゾンビを蹴り飛ばす。
──パン
っと弾け飛んでいくゾンビの身体。
ステータスがかなり戻ったからってのもあるかもだけど、相変わらず僕のゾンビへの攻撃能力は高すぎると言っていいほどに高いようだ。
残りの二匹のゾンビは僕に気づくと、猫耳美少女に伸ばしていた手を僕に向けてくる。
その手をかわすことは簡単なわけだけど……
「……ん、やっぱり全く圧力は感じないな」
僕は一匹のゾンビの手を受け止め、彼の動きが僕に何の効果も及ぼしてこないことを確認する。
ゾンビはそのまま噛みつこうとしてくる。
その攻撃は絶対僕には効果がないはずのものではあるけれど……美少女ならざる男に身体に噛みつかれるってのはぞっとしないもの。
身体をすっと引こうとしたところで、ゾンビの側頭部に短剣がずさっと突き刺さる。
ゾンビでも頭は急所だったのか、ゾンビの身体がずさっと崩れ落ちていく。
「……マリーか。僕がのんびりしてたから、心配かけちゃったかな……」
短剣の飛んできた方を見てみれば、そこにはこちらをじっと見つめているマリーの姿がある。
ゾンビらしい完全な無表情のままだっていうのに、彼女が僕を心配してくれていたってことはなぜかはっきりとわかる。
そんなマリーにこれ以上心配をかけないため、僕は迫ってくる最後の一匹のゾンビに向けて、前蹴りを放つ。
「ゔぁーっ」
なんともやる気の抜けるような声を上げながら吹き飛んでいったゾンビは、後方の木の幹にぶつかって弾け飛んだのだった。
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