【短編】呪われ勇者と白米聖女~は?異世界で10キロのコメと私でどうやって勇者の呪いを解けと??
天城らん
第1話 私が聖女?
「聖女様の降臨でございます」
―― おおっー!
と、結婚式場のホールのような場所に拍手と共に歓喜のどよめきが響く。
私の足元には、ほのかに金の光が残る魔方陣。
(いやいや、何これ!?
えっ、なんかまずいシチュエーションでは??)
大学生になって家を出た弟のユウちゃんが春休みに実家に帰ってくるからと張り切って米袋10キロを買って、転がるように家のドアを開けたら異世界よ。
(ってことは、私、米袋を抱えたままコケて死んだの!?)
私は、顔面蒼白になりながらあたりを見回す。
いかにもという感じの、金色の残光る魔方陣の真ん中に突っ立っているのは、紛れもなく私だ。
不安になり自分の体に異常がないか、ペタペタとさわって確認する。
太っても痩せてもない普通体型。
ひとつ結びの黒髪に、ロングスカートのオフィスカジュアルな服装。
通勤の大きなバッグは肩からしっかり持っている。
そして、足元にはニコニコ笑顔でおにぎりを頬張る女の子がプリントされた米袋10キロ。
そう、私は私のままだった。
自分の容姿の変化のなさにこれほど安堵したことがあっただろうか?
(死んで転生したわけではないようね。よかった~)
私は、ホッとしてその場にへたり込む。
すると遠巻きに見ていたファンタジー小説から抜け出したような人たちが、歓迎ムードで『聖女様』とか『これで安心』というようなことを言っているのが聞こえた。
いやいや、誰が聖女よ。
私は、社会人2年目の平凡な会社員よ。
そりゃ、不在がちな両親に代わって体の弱い4つ下の弟を育て上げたのは私と言っても過言ではないけど、聖女と言うほどではない。
だって、おかげで小学校から大学まで付いたあだ名が『おかあさん』だ。
頼られるのは嫌いじゃないけど、聖女といえば世界を救ったりしないといけないんでしょ?
『おかあさん』には、無理無理。
私は頭を横に振り『人違いです』と口を開こうと顔を上げると、目の前にファンタジーゲームや映画から抜け出してきたようなイケメンくんが立っていた。
「聖女様、お待ちしておりました」
そう、うやうやしく目の前でお辞儀され、にっこりと鮮やかな笑顔で差し伸べられた手をどうすれば断れると言うのだろう?
私は思わず、うながされるままふらりと彼の手を取り立ち上がった。
目の前の彼、私とそう年齢はかわらないかな?
朝焼けの光を集めたような明るく柔らかそうな髪に、空色の瞳。すうっと通った鼻筋。
にっこりと笑った顔がまぶしすぎる。
(カッコいいのに、かわいい系だわ……)
私はとくんと胸が鳴る音を聞きながら、思わず魅入ってしまう。
すらりとした体躯ながらも、鍛えて体幹がしっかりしてそうだし、
勇者なの? 騎士なの?
やばい、これはときめく。
コスプレ最高!
私は、心の中で紙吹雪をまき散らした。
普段はおっとりとしていて大人しそうと言われる私だけれど、漫画や小説の二次元男子には弱いのだ。
(はっ! いけないいけない。冷静に冷静に……)
雰囲気に飲まれてはいけないと胸の動悸を抑えつつ、意思を強く持ち断りのセリフを言い放つ。
「わ、私、聖女じゃないです! ひっ、人違いですっ!!」
だ、ダメじゃん。声が裏返ったよぉぉー。
私は、ここで流されてはいけないと必死に否定するが、相手の方が一枚上手だった。
勇者君は、私の耳元でささやくように説得する。
「すみません。色々困惑されているとは思いますが、この後、別室でご説明しますので、今は私に合わせてもらってもいいですか?」
勇者君に、申し訳なさそうにそう耳打ちされたら聞くしかないじゃないですか~。
私は、赤面しながらコクコクとうなずいた。
「聖女様、お名前は?」
「チホです。
すると、勇者君は私の手をしっかり取り、群衆の方を向きキリッとした表情で宣誓する。
「聖女チホさまのご助力を得て、勇者テオドールは国の安寧のために尽力することを誓います」
んんっ!?
え、彼は本物の勇者様なの?
『このまま退場しますよ』
小声の勇者様にうながされて私は、二つ返事でお願いする。
『はひっ、早くこの場から逃げたいですっ!』
彼にエスコートされ小走りで出口へ向かいながら、勇者様が私と反対側の手に10キロのコメを楽々と抱えているのを見逃さなかった。
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