「お前ら早く結婚しろよ!」……って、言われてる相手が3人いるんだけど、俺のウェブ小説の感想欄に「本当に結婚しよう」って送ってきたの誰?

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プロローグ「もう自分で書いちゃったよね、ラブコメ」

 ラブコメが好き。


 なんで好きか――?


 甘酸っぱい恋愛模様のドキドキ感とか、複数のヒロインの間で揺れる葛藤や背徳感とか、学生等身大のほろ苦い青春の味とか――


 ――そういうんじゃなくて、ただリアルで恋愛に縁がないからです。はい。


 いかんせん根っからの陰キャオタクのボッチだもんで、男としての格もスペックも、女の子と恋愛できるようなレベルじゃない故、もう仕方ないのだ。


 そりゃあ俺だって女の子に恋したことくらいある。


 でもダメだったなぁ。んー、なんかこう、その手の一般常識とか空気感がよくわかんなくて……あ、もう思い出したくないのでやめますねー。


 ……で、結果、彼女いない歴=年齢という解が導き出されるわけだ。


 でも男だもん、俺。やっぱ女の子とのそういうのとか、考えちゃうよね。


 空から女の子が降ってこないかなぁとか、美少女と同居したいなぁとか、五つ子ちゃんの家庭教師やりたいなぁとか、ロシア語でデレられても俺ロシア語わかんないしなぁとか、あとは、えー、なに、天使様にダメ人間にされる以前に、こんなことばっか考えてる時点で俺って色々ダメな人間だなぁとか? うるせえよ。


 でもそんな夢みたいなこと、現実で起こりうるわけがなくて。


 俺にとってラブコメは、そんなリアルを忘れるための代替品的なものなわけで。


 で、その趣味が高じた結果どうなったかと言うと……。


『今日の最新話も面白かったよ。みかん氏』


 ベッドに横になってぼーっとしていると、通知でスマホの画面が光った。


 顔も名前も、住んでいる場所もお互い知らないネットの友達、〈飴ちゃん〉からDMが届いた。きっと、〈みかん氏〉こと俺が投稿したウェブ小説の最新話のことだ。


 ……もう自分で書いちゃったよね、ラブコメ。行くとこまで行っちゃったよね。


 小説のフォロワー数は十五。一般的には大したことない数字、でも俺にとっては希望の数字。リアルでは取り柄のないこんな俺なんかが書いたラブコメを支持してくれる人が、この世に十五人もいるのだ。


 そして飴ちゃんもまた、その一人。俺の小説を特に初期から応援してくれている数少ない読者だ。


『ありがとう』


 俺がそうレスをすると、すぐに返信が来る。


『みかん氏のラブコメ、ヒロイン可愛いよね。すごくドキドキするし』

『全然、素人の書いた小説だって』

『それはやっぱり、リアルでも恋愛とかしてたりするからだったり?』


 確かに俺の小説の主人公はハーレムの渦中で絶賛大フィーバー状態だが、現実の俺はそのド対極を行く超非リアだ。


 小説のそのハーレム状態は別に俺の体験談なんかではなく、妄想に過ぎない。


『いや、全然。学校じゃ友達も彼女もいないボッチだから。基本は「こんなことがあったらなぁ」みたいな、ただの夢とか理想だよ』

『そう? ホントに?』

『ホントホント』


『仲良い女の子とかいないの? その子と恋に発展したりとか、あるかもよ』


 そう言われて自分の身近にいる女の子のことを思い浮かべるが、その子達とは、とても自分のような陰キャオタクが恋愛関係になれるとは思えなかった。


『ないよ。ありえない』


 このまま自分のことを詮索され続けても、自分がいかに小物なのかが無駄に露呈するだけなので、『小説の続き書く』とだけ送り残し、逃げるように飴ちゃんとやり取りしていたSNSのタスクを切って、いつも自分が使っている小説投稿サイトに飛び、文字通り現実逃避する。


 俺だってできるなら女の子とラブコメしたいよ……。


 そう心で嘆き、いつものように自分のアカウントにログインしてマイページを開く。


 そこで俺は、右端のベルマークに赤いポチが付いていることに気づく。


「あ、感想ついてる! なんて書いてくれてんだろ。批判じゃないといいけど」


 通知に導かれるように、コメントページにジャンプする。


 ――全ては、そこから始まったのだ。


『田中莉太くんへ


 あなたのことがずっと前から好きでした。


「お前ら早く結婚しろよ」と言われたこと、これから本当にしませんか?』


 ………………な、ななな、なんじゃごりゃぁぁぁぁぁぁあッ‼


 目を擦って文章をもう一度よく読んだ。だが何度読んでも、どう見ても、そこには作家のみかん宛ではなく、リアルの俺――田中たなか莉太りた宛の告白文が綴られていた。


「こ、こんなの、誰が……」


 しかし、ユーザーネームには『C』と一文字あるだけで、本人の名前はわからない。


 ただ、文の通りなら、相手は俺と二人で誰かに『お前ら早く結婚しろよ』と、さもお似合いのカップルのように囃し立てられた女子だということになる。


 俺には心当たりが――三人もいた。


 言い忘れていた。


 これは、ラブコメが大好きなだけのただのオタクの俺が、奇しくも、まるでラブコメのような展開に振り回される一連の騒動の話である。


 さてまずは、ボッチであるはずの俺と、ある三人の女の子が『お前ら早く結婚しろよ』と茶化されてしまうまでを遡って話そう。

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