インチキ占い師
最近、60代くらいの腕や首にアクセサリーをたくさんつけた女性が夕飯を食べにお店に訪れるようになった。
「生姜焼き定食を一つ」
「はい、生姜焼き定食ですね」
店主はいつもどおり無表情で注文を受けると、厨房で調理を始める。
「おい、あんた昔は〇〇の母とか呼ばれていたインチキ占い師だろ?」
店主が厨房で調理していると、常連客が女性に絡み、女性は何も答えず下を向いて反論しない。
「後藤さん、他のお客さんに絡むなら出禁にするよ!」
「わりぃ、わりぃ、この人一時期テレビでも取り上げられていた占い師でよ。見てもらった人が全然当たらないって言うので評判になってたもんだから、ついつい絡みたくなっちまってな」
常連客は店主に注意されて、女性に絡むのをやめて、いつもどおり定食とお酒を飲むと帰って行った。
「お客さん、酔っ払いの言うことだから気にしなくていいから」
店主が女性に声をかけると、女性はうつむいたまま静かに話し始めた。
「あの人が言うこともあながち嘘ではないのよ。この世界では熱心に勉強して真面目に占い師やっている人も多いけど、私は娘を育てるために結構ハッタリでやっていたの。たまにピンと来て本当に当たるときもあるのだけど、そんな感覚は常時あるわけなくて、適当に相手にこうするとよいとか無責任にアドバイスしてたことが多いの。だから、あんなこと言われても自業自得ね……」
女性は自信を失っている感じで、その姿を見るととても占い師をやっているなんて、思えない雰囲気であった。
「うちの婆さんがこの店開く時、占い師さんにやった方がいいって言われてお店開いたらしいけど、俺はその話を聞いた時、バカじゃねぇのと思ったけど、婆さんは自分で決断できなかったから、背中を後押ししてもらえてよかったとか言ってたな。人は占いを信じているんじゃなくて自分で判断できない時に他人から後押しする一言が欲しいだけなんじゃないかね。俺は胡散臭いと思ってますけど……」
店主はいつもどおり無愛想ではあるが、女性にはこの店主が気を使ってくれているということが伝わってきた。
「この間、孫が生まれたんだけど、娘は私のことが週刊誌なんかで叩かれてから、詐欺師を見るような目で見てきて、避けられちゃっててね。こんな人がお婆ちゃんだなんて孫も嫌に決まっていると思うと顔出せなくてね……」
「よく知りませんけど、娘さんあんたのおかげで大人になるまで育ててもらったんでしょ? 堂々と顔出してお孫さん見て「この子は将来成功する人の顔をしている」とかハッタリかますくらいしてもお釣り来ますよ! こんなインキ臭い占い師を見る方が気持ち悪いでしょ」
「あなたは本当に口が悪いわね!」
女性は店主に文句を言いながらも表情が先ほどまでと違って明るくなっていた。
「ねぇ、私、時々、ピンと来るときはよく当たると言っていたでしょ! このお店、この先も安定して続けていけるわよ。あと、あなたをよくサポートしてくれる奥さんが近いうちに現れるわ!」
「……。はいはい、食べ終わったらさっさと帰って、お孫さんへのプレゼントでも選んだ方がいいですよ!」
「まったく、本当に接客態度が悪いんだから!」
店主と悪態をつきあったおかげですっかり表情も明るくなり、生姜焼き定食を食べ終わると、お会計をして帰って行った。
帰り際にさっき言ったことは適当ではなく本当にピンときたから当たるわよと言い放ってお店を出ていき、店主は呆れた顔をしながら女性を見送った。
「馬鹿らしい、やっぱりインチキ占い師だな……」
店主はそう呟きながらお店の片づけに入るが、それから数日、若い女性客がお店に入ってくるたびになんとなくソワソワする無愛想な店主なのであった……。
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