第4話


「はーい、できましたー、お願いしまーす」


 支度を済ませてスタジオに出れば吾妻さんが

「おー、ええやん。サイズ感も…うん、イメージぴったり」

と褒めてくれる。

「……」

「なに、緊張してる?」

「まぁ」

「ほぐしてほぐして、可愛いよ、ライムちゃん」

「ライム?」

「モデル名。スタッフクレジットに載せるから。他に候補ある?」

「いえ、特には」

「ほなこれで。うん、可愛いわ、最高!」

 これも仕事のうちなのだろう、悪い気はしないので練習がてら笑って見せた。


「ライムちゃん、どうぞ」

「はい、」

スタッフに促され、私はセットに入り葉っぱの船に腰を下ろす。

 遠くを見据える感じで、蛙から逃げる恐怖感とかも滲ませつつ、私は外野から投げられる言葉通りの表情を作ってはポーズをとった。


「オーケーオーケー、よし、じゃあ次立ちで、こっちの背景ね」

「はーい」

 ブルーバックの前に立たされて商品がよく見えるようにポージング、本来ならマネキンの仕事なんだろうけど実際にモデルに着せることで商品の着丈や肌のトーンとの差などイメージが掴み易くなるらしい。


「初めてとは思えないなぁ……サイズ直し要らない?大丈夫そうだね。ライムさんいいね、次は僕」

そう言って立ち位置を代わったのはスーツに身を包んだ古湊さん、おそらくオーダーメイドなのだろう小柄な身体にぴったりフィットしたスーツは艶々とした質感が美しかった。


 数パターン撮るだけで彼は水辺のセットへ入り、

「ライムさん、こっち!」

と私を手招きする。

「はい、はい…」

 親指姫と花の国の王子様、水飛沫を模したブルーのビーズのオーナメントが空調の風に吹かれて揺れて私たちの顔にキラキラと水色の影を付ける。

「僕の顔見て、でもうつろな感じで」

「アンニュイみたいな?」

「そう、そんな…分かる?」

「伏し目がち?」

「西洋画みたいな」

パシャパシャ鳴るシャッター音の中で見つめ合った私たちはぽつりぽつりそんな話を交わして、出来上がりをチェックしてはポーズを変えてまた撮影を繰り返した。


「あの、この服って私専用ですか?」

「ううん、サイズ展開は元々多いんだよ。テストも兼ねて数パターン作ってる。それは送ってもらったデータからちょっとお直ししてライムさんに合わせただけ」

「…それも商品ですか?」

「これ《スーツ》?手作りだけど商品化はされない。うちのブランドは女性用のみだから」

イメージは求婚のシーン、レンガの城と大量の草花をバックに古湊さんは私の手を握り地面へ片膝をつく。

「ふーん…買い手が付きそうですけど」

「でも華奢な男性って少ないでしょ?需要がないとね…商品としては作らせてもらえないんだ…社長とは言え意見が通らなくて困っちゃう」

 まぁ確かに身長160センチに満たないかつ装飾性の高いスーツが似合う容貌の男性は少ないか。

 けれどすべすべした背広や紋章を模したボタンとカフリングスはコスプレを超えて立派な服飾品として用を成していた。

「それ、着たい女性もいると思いますよ」

「男装ってこと?」

「それもいいけど女性として。結婚式とか、お洒落なパンツスーツ素敵かと」

 煌びやかな格好が好きだけど脚を出したくないという女性もいるだろう。柄物のタイツではドレスコードに引っかかる場合もあるし。


「……ふむ」

「ゴスロリのジャケットじゃあんまり礼服扱いされないでしょう?そのスーツは充分冠婚葬祭…婚はいけるんじゃないかな…長身の女の子用でも良いですね、男性よりカッコいいスーツ…前髪上げて横髪はリーゼントで流して、パンクよりもっと女性っぽい感じ」

「…なるほど…脚とか女性的なラインにしてみようかな…」

創作のスイッチが入ったのか古湊さんは独り言をぶつぶつと漏らしながら、カメラのフラッシュに照らされポーズを変えていく。

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