012:「過去物語(Ⅰ)「メイ先輩」」

 愛衣ちゃんが引き取られた夜。真理亜さんは俺に、自分の過去、愛衣ちゃんの母親「メイ先輩」の事を話してくれた。


 國守家のリビング、俺と真理亜さん二人っきり。窓の外は雪が降り続いている。



 御老人からも大凡おおよその話しを聞いていたけれど、真理亜さんの半生はかなりハードモードであった。


 不倫の末、産み捨てられた子供である真理亜さん。母親は失踪、親しい親戚も友達もいない。

 誰からも「祝福されない子供」は幼少期からずっと孤独な日々であった。


 その美しさを隠すようにブ厚いまんまる眼鏡をかけ、ダサい三つ編み。いつも教室の隅っこで一人黙々と勉強を続ける日々。友達も出来なかったと言う。


 望まれない子供という負い目と厳しく育てようとした祖父の影響からか? 真理亜さんはとても消極的な女の子になってしまっていた。

「わたしの毎日は学校と家との往復だったの」


 俺と重なってしまう……辛い……

「それでも良かった、だってわたしが居る事を誰も望んでいないんですもの」

「……」


 心を閉ざしていた真理亜さん。

「幼稚園、小学校……そして中学校ずっと一人ぼっちで生きてきたわ。あっ、中学になるといきなり話しかけてくる男子学園生もいたけど、わたし怖くて無視しちゃった」


 流石に中学になると真理亜さん本来の美しさを隠し通す事は難しかったのだろう。

 真理亜さんは辛かった過去を思い出しながら話を続けた。

「でも、明陽館学園女学校に進学した時。わたしは『メイ先輩』に出逢ったの」


 メイ先輩との出逢いが真理亜さんの運命を大きく動かすことになった。

 真理亜さんの入学式、生徒会メンバーとして壇上に立ったのが「メイ先輩」。

「わたし、メイ先輩と初めて会ったとき、大きく心臓が高鳴っちゃった。わたし凄くドキドキしちゃったの」


 思い出すだけで、頬を染める真理亜さん。メイ先輩は高校から明陽館学園女学校に入学したいわば「外部生」。それでもとてもかなり目立つ女子生徒であった。


 身長も高くすらしとしたモデル体型、ショートカット。華やかな顔立ち、男装しても似合う。女子校だけど女子に大人気。

「華やかで、とってもカッコ良かったわ」


 スマホ、画像で見せられた「メイ先輩」は確かに綺麗で華やかな女性だった、成績も良く運動神経も抜群。バレー部や運動会で大活躍した姿が映っている。


 それ以外、メイ先輩のSNS画像からはセレブっぽさを感じる画像が様々アップされていた。


 海外旅行、レストランでの豪華な食事。それに友人や部活仲間との集合写真、みな学生生活を満喫している画像ばかり。

「メイ先輩って良いところのお嬢様だったんですね」

「ええ、わたしは良く分からなかったけど、私服は何時も高級そうだったわ」 


 確かに、服装や訪れている場所は良いところのお嬢さんって雰囲気だ……だけど。

「メイ先輩は皆に注目されていた」


 真理亜さんはスマートフォンに映された制服姿のメイ先輩を懐かしそうに見つめていた。

「わたしはメイ先輩を見つめているだけで良かったわ」


 真理亜さんは地味で目立たない、友達もいない、メイ先輩を憧れ混じりの眼差しで見つめ続ける事しか出来なかった。

「でも、わたしが入学して直ぐメイ先輩の方から声をかけてくれたの」


 高校に入学したばかりの真理亜さん。地味で大人しい性格は人から仕事を押しつけられやすく、放課後になれば様々な雑用を押しつけられていた。

「それでも良かったの」


 真理亜さんは真面目な頑張り屋さん。

 そんな様子を見ていたのがメイ先輩。真理亜さんを半ば強引に生徒会に誘った。

「メイ先輩はずっと一人ぼっちだったわたしに、初めて居場所と人との繋がりを作ってくれた人なんです」


 メイ先輩の誘いで生徒会活動に携わる事になった真理亜さん。人との関わりは真理亜さんを徐々に変えていった。

「生徒会活動は楽しかったわ。生徒会の人達はいい人だったし。何よりメイ先輩の役に立てる、側にいられるって思った時、凄くうれしかったの」


 真理亜さんの「一度目の初恋」は憧れに彩られた百合の恋。



 見た目通り、メイ先輩はバレー部と生徒会で次第に頭角を現わしはじめた。

「そしてメイ先輩。生徒会長に立候補して見事当選したわ。わたし、それをお手伝いできて、とても嬉しかったわ」

 生徒会に当選し生徒会長となったメイ先輩。


 その頃から真理亜さんは更に変っていった。メイ先輩に強引に勧められ、眼鏡を止めコンタクトにし、髪型も三つ編みを止め初めて美容院に足を運んだ。


 美人過ぎる真理亜さん。女子校だったからまだ良かったのかも知れない。共学だったら大変な事になっていたであろう。


 ともかく、その美しさが解禁された真理亜さんはいきなり目立つ存在になったであろう事は明らかであった。


 メイ先輩によって学園内でも一際目立つ存在になっていった真理亜さん。その後も二人は実の姉妹のように交流していった。

「メイ先輩は何時もわたしと一緒だったわ。お仕事も一緒、時々お食事にも連れて行ってもらったわ。鬼隠の高級レストランとか、スイーツの店とか」


 メイ先輩のSNSには沢山のそういったキラキラとした生活が映しだされていた。

「一緒に冬の灯籠祀りを見に行った時の事、今でもはっきりと覚えているわ」


 メイ先輩と二人で灯籠祀りを見に行く。美人二人、ナンパの相手が大変だったらしい。

「わたしをナンパ男子から守ってくれたあの時のメイ先輩、凄くカッコ良かった。わたしは、メイ先輩の事が大好きだった」


 真理亜さんは二人の絆は永遠に続くと考えていた。

「でも二年生に進級した春、わたしは……いいえ、わたしとメイ先輩は「あの人」に出逢ってしまった」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る