第30話 サリウス法国突入

 なんだか酷く不穏な台詞を僕の可愛い耳が拾った気がしたが……うん、気のせいだ。そうに違いない。あの美少女Gカップ天才JKリルリカ・ロスアが、あんな世界に激しい憎悪を抱いているかのような言葉を口にするハズが無かった。

 やれやれ、久し振りの外出に流石の僕も少し疲れが出ているらしい。帰ったら一か月はなにもしたくないな。


 とは言え、それよりも今は敵の抹殺。それが最優先である。

 敵と見定めた対象は他国のお偉いさんであろうと神であろうとすべからく皆殺しだ。それこそが最も後腐れなく、手っ取り早く引きこもり生活に戻れる最善手だと僕は知っている。セレナを救うためにも気合を入れていこう。


「――――ッ!? き、貴様が何故ここに!?」

「やっほーさっきぶり! 君を殺す為に遥々はるばる来たよ!」


 自身の影から突然ニョキっと現れ出た僕を見て目を剥いて驚く契約神。


「馬鹿な!? 魔法の兆候など何処どこにも――!?」


 そして再び始まった神との殺し合い、セカンドラウンド。

 先程貫いた心臓周辺にしつこく攻撃を繰り出す僕と、致命傷を受けた肉体が思うように動かないのか――防戦一方となりながら時間稼ぎに徹する契約神。その両者の戦いが周囲の建造物を破壊する。


 どうやらここは法国の法王が鎮座するとされる【秩序の塔】その目の前らしい。

 突然現れた途端、怪獣バトルを繰り広げる僕らから目を剝いて逃げ惑う人々と、無理だと分かっているだろうに不審者を鎮圧しようと遠目から様子を伺っている衛兵の姿がある。


「ちぃ、人の身がここまで脆いとは! この傷さえなんとかすれば貴様なぞ!」

「はっはっはー! 諦めて身体から出たら? まぁどっちにしても殺すんだけど」

「調子に――乗るでないわ!」


 と言いつつも、この神がセレナの肉体を手放す事はないだろうなと僕は睨む。なぜなら神を人の身に降ろすなんて所業は普通の人の肉体が耐えられるハズがないからだ。


 過去に皇城の禁書庫で資料を閲覧した限りでは、歴史上でも人の肉体に神が降りたという事例は幾つかあった。

 しかしそのどれもが、一瞬言葉を発するだけだったり、一回神の奇跡とやらを起こすだけだったりと、極めて一時的な――それも限定的な行動に限られている。それでも神を降ろした後の依り代は廃人化が当たり前。言語能力や手足の欠損、記憶、魔法が完全に失われるなどはまだ代価として軽い方で、明らかに人の身で神を受け入れるのは無理があると過去の歴史が証明していた。


 恐らく今こうして契約神が好き放題動けているのは、依代が他でもない――勇者セレナ・ヴァーンシュタインという世界で最も神に近い肉体であるからこその奇跡の所業。過去に自身を殺しきったという明確な敵の存在があり、これからも人の世で行動出来た方が都合の良い契約神がこんな好物件を易々と手放すなんてまず有り得ない。


「うーん、周りの人間が邪魔だなぁ。無関係の人を巻き込むのは僕のポリシーに反するんだよね……」

「我を前にしてその甘さは命取りになるぞ人の仔よ! ふむ、寛大な我が――邪魔者共を一掃してくれよう」

「は!? 誰もそんなの頼んでないって――」


 契約神は僕の攻撃をくぐり抜けると、一目散に状況を見守っていた人々の元へ直行する。そして手近な男の首元を手刀で貫こうと動く。


「あぁもうめんどくさい!」  


 僕は瞬間移動モドキで命の危機にある男の近くへ移動すると、テキトーに蹴って攻撃から逃がす。

 それを見た契約神はニタニタと汚い笑みを浮かべながら、今度は崩壊した建物の残骸を手に取って、逃げ遅れた老婆へ投げた。


「なんで僕が正義の味方みたいな真似をしなくちゃならないんだ……!」


 投射物が老婆に直撃する前に、余裕を持って闇属性と混沌属性を組み合わせた魔法で虚空へ逃がす。

 すると、次から次へと契約神が周囲の人間にあらゆる手段で殺害を試みるため、僕はその全てに対処するために全神経を使わざるを得なくなった。


「ははははは! 馬鹿な奴め。斯様な虫以下の存在など切り捨ててしまえばかろうに」

「こんの邪神め! もうこうなりゃやけだ! 体力温存なんて考えてられるか!」


 僕は先程も使用した極回復きょうかいふくを発動し、周囲の魔力マナを全て体内魔力オドとして取り込んだ。……正確に言うと、僕の身体ではそれほど膨大な体内魔力オドは取り込めないから、魔力マナを凝縮して身体に纏い、それをそのまま魔法に変換できるように少しだけ性質を変化させた形である。


 無論、この魔力マナのありようは自然な状態と程遠い。このままでは次々と崩壊していき、エネルギーとして使い物にならなくなる。

 だからこそ、極回復きょうかいふくを発動したらすぐに魔法として魔力マナを使い切るのがセオリーだ。


 集めた魔力マナを全て両手に集めて拍手の要領で叩く。そして拡散させた莫大な魔力マナを一気に時間魔法の極致の一つ――時間停止に置き換える。

 極回復きょうかいふくを使っているだけあって、ラヴェル戦で使用した数万倍の効果範囲の時間を止める事に成功。僕を中心にして半径十キロは時間の流れが完全に止まった形だ。


「よし、これで残った体内魔力オドを使って近くの人間を全て遠くへ逃がせば――――」


 その時だった。


「――その術を使うのを待っていた」


「――――ッ!?」


 契約神は拳を地面に向けて振り下ろす。途端、衝撃が走りコンクリートの地面には大穴が空く。

 すると、信じられない事に僕の発動した時間停止が完全に解除されてしまったではないか。


 僕独自オリジナルの魔法式を一瞬で無効化しただと!?


「馬鹿な!? セレナの身体でどうやって魔法式に介入したんだ!?」


 セレナは完全魔法無効化体質。彼女に対する魔法は全て霧散するが、その代わり彼女自身も魔法は一切使えないハズ。

 セレナの肉体に触れた空間から時間魔法が解除されるのなら分かるが、数千に渡る独立した魔法式で構築された時間停止全てが一斉に解除されたのは異常だ。


「我が何度愚かだと言えば貴様はそれを理解するのであろうか。この依り代の身体は魔力マナに由来するエネルギーを無効化している。だが我が操るのは凡庸なる人とは異なり――神気であるぞ」

「そうだとしても僕の魔力マナ由来の魔法を消滅させた理由には――いやそうか、神気でも魔法が使えるのか!」


 そうか、僕はてっきり神気は神特有の能力を行使するためのエネルギーだと考えていたが、魔力マナを含むあらゆるエネルギーの代替としても使えるのなら先程の減少も頷ける話だ。

 契約神は魔法式を解読して魔法を無効化させたのではなく、僕が時間停止を行った範囲にそのまま時間進行をぶつけて相殺させたのだ。


「先程は貴様以外にも小うるさいのと厄介そうなのが一匹ずつ居た故、ここまで転進して来たが……貴様だけならばどうとでもなる。安易に一帯の魔力マナを使い切った事を後悔するのだな」


 猛烈なスピードでこちらとの距離を詰めて来る契約神。そして始まる肉弾戦。

 マズいマズいマズい。一般人を襲ったのは僕に極回復きょうかいふくを使わせるための罠だったのか。


 よく見ると抉られた心臓部は濃密な神気で覆われていて、身体のキレが急に戻っている事実から見て一時的なブーストか治療を行っている。

 残っている体内魔力オドも僅かだし、これは長期戦になればこちらが圧倒的不利。てかセレナの肉体がハイスペックすぎて得意の近距離戦ですらかなり押され気味!


「はぁはぁはぁ……。恥ずかしくないの? 矮小なる人の身を借りて、その性能に頼り切った戦い方をして、さ!」

「恥ずかしいだと? われが下賤なる人如きを相手にそのような感情になる訳が無かろう」


 契約神の攻撃は一撃一撃が重く、必殺の威力を誇っている。

 こんなものをまともに受ける訳にはいかない僕は、その全てを正面から受け止めるのではなく、横から下から威力を逸らして最低限のダメージで乗り越える。


 普段の戦い方が【剛】ならば今は完全に【柔】。受けの姿勢からのカウンター攻撃を主体として立ち回っていた。


「はぁはぁ、はぁはぁ。まいったねこりゃ。無理やりにでもラヴェルに付いて来て貰うべきたったかな?」


 少しずつ息も荒くなってきて、体力の限界も見え始めたところで。


「てめぇえ贋物フォース!! お前神聖な塔の前でなに暴れてやがる! 殺されてぇのか!」

「うひゃひゃひゃひゃ。遂に狂った、贋物フォースが狂った。うひゃひゃひゃひゃ」

「お待ちなさいタイシャ、ルベガン。なにかおかしいわ。――……贋物フォースの眼が金色になっている?」

「……ふん、眼なぞどうでも良い。それよりもあの少女だ。贋物フォースと渡り合うなど尋常ではない力量だぞ。……いい声できそう顔をしている」


 空中に突如現れたお揃いの角帽をかぶった四人の男女。視線を向けた瞬間――あれが法国が誇る最高権力者――七仙人だと一目で分かった。

 身に秘めた体内魔力オドは揃って僕の十倍以上。目を凝らすと全員が時間魔法を極限まで極めている証である、体内魔力オドの流れの静謐性は完璧の一言。

 恐らく七仙人の不老の秘密はこれなのだろう。


 時間魔法の極致である肉体の不老化。


 幾つかの予想の一つが的中した形ではあったが、僕も至っていない頂きに到達しているだけあり、四人共納得の練度であった。


「よくぞ参ったなタイシャ、ルベガン、ラビア、ミシナ。予定とはことなったが、我はこうして人の世に顕現した。褒めて遣わそう」


 それを受けて四人は各々驚きを現す。


「マジかよ!? てことはつまり……あの贋物フォースは契約神様って事か!? おいおいスケジュールが随分変わっちまってるじゃねーか」

「なにぃぃぃぃ! じゃあ召喚前に贋物フォースの身体を味見させてくれるって話は無しか!? 無しなのか!? オイラ新しいクスリも発明したし、いっぱい道具も用意してたんだぞ酷い!」


「落ち着きなさいタイシャもルベガンも。契約神様、拝謁の栄を賜り感嘆の念にえませんわ。――……失礼ながら……状況の説明をお願いしても?」

「……皮を剥ぎたい。肉を削ぎたい。悲鳴を聞きたい。……甚振いたぶりたい……とことん苛め抜きたいぞあの娘」


 なんか一人僕に凄い興味を示してるヤバい女がいるんだけど、なにあれめっちゃ怖い。

 契約神の攻撃をいなしながら、僕は密かに鳥肌を立てていた。


「ふむ、この愚かな人の仔が不遜にも我に歯向かってきてほとほと困り果てていたのだ。タイシャ、ルベガン、ミシナ――貴様らで此奴こやつを殺せ」


「「「御意」」」


「ラビア、貴様は我と共に来い。今後の計画を詰める」

「かしこまりましたわ、契約神様」


 契約神はそう言うと、極大の神気の塊を僕に向かって投擲。そしてラビアという女の元へ跳躍し、そのままどこかへ消え去る。


 逃げられたか。いやそんな事より……これほどの濃密な神気。触れれば僕とてただでは済まない。とは言え、避ければ僕の背後の一般人が死ぬ。


 何故これだけ逃げる時間がありながらまだ近くにいるんだとキレたくなるが、無関係の人を巻き込むと間違いなく寝覚めが悪くなるだろう。そう思い、仕方無く残りの体内魔力オド全てを使い切って、混沌属性、無属性、時間属性、空間属性の四種複合魔法で虚次元空間への扉を作った。そして神気の塊をどうにかこの場から消し去り事なきを得る。


 しかし僕に呼吸を整える時間をくれる優しい人間はこの場に居ない。


「ヒャッハー! 死にさらせぇ――!」


 タイシャと呼ばれていた上裸で筋肉質の大柄な男が両手に斧を握ってそれを振り下ろしてくる。


「うひゃひゃひゃひゃ。オイラの新薬をくらいな!」


 その後ろからはルベガンと呼ばれていた白衣を身に纏ったジジイが怪しげな液体を水鉄砲で撒き散らす。


「……ルベガン、我々への被害も考えろ。正直、邪魔だ」 


 ミシナと呼ばれた口元をマフラーで隠したアイシャドウの濃い女はナイフを投げつつ、こちらの背後を取ろうとしている。

 そんな中、周囲は国の英雄であり天上人でもある七仙人が目の前に現れた事で、浮足立ったように歓声を上げていた。


 僕は襲い掛かる攻撃も周囲の反応も、悠然と眺めつつ呟く。


「セレナにあんな術・・・・を掛けたのはお前らだな?」

「「「……?」」」


 ポカーンとした表情を三人が一瞬浮かべた、次の瞬間――僕はタイシャの斧を正面から殴り付け、拳で粉砕。もう一方の斧は足で受け止めつつ投擲された六本のナイフを全てキャッチしてそれをルベガンへ投げ返す。背後のミシナは名前も知らない暗器をぶかぶかの袖から射出してくるが、足で止めていた斧をもう一方の足で持ち手を攻撃する事で手放ささせ鹵獲。奪った斧を振って暗器を全て撃ち落としながら、さらに背後から殴り掛かって来るタイシャの眼球を斧の持ち手部分で貫く。


「ぐぅおおお!?」


 後はこの斧で眼を潰されて一瞬怯んだタイシャの首を切断。からのタイシャの生首をルベガンの視界を遮るように投擲し、そのデッドスポットに重なるように斧を投擲。地面に転がりながらそれを避けたルベガンの首を、避け先を読んで既に移動していた僕の足が踏み付けて折る。


「くひっ」


 さて、残すはミシナ一人。


「ひぃっ!」


 僕は地面に突き刺さった斧を拾い上げて、一歩一歩標的に近付く。


「新薬だっけ? こんなの蚊に刺されたようなもんじゃないか。眠気覚ましにもならないよ」


 ルベガンが投げ付けて来た新薬とやらの液体を身体中に浴びたせいで、僕の全身からはジュージューと音が立っている。


「あーあ、制服がこんなにボロボロになっちゃった。もう買えないんだよ? 卒業してるから。あとで魔法で直さないとな……」

「……くっ、来るな。この期に及んで私まで殺したら法国を完全に敵に回すぞ」

「勝手に物事を大きくしないで欲しいな。僕の敵は法国じゃない――お前達だ」


 一体その身体のどこに隠していたんだか分からない量のナイフやら暗器やらが飛んでくるが、それらを全て斧でやり過ごし、遂に打つ手が無くなったミシナに僕は斧を振り下ろす。


「さようなら」


「――――それはてめぇだ」 


「――――ッ!?」


 背後からの声と気配に反応した僕はすかさず距離を取る。……が、不意を突かれた攻撃を一撃くらってしまい右肩の骨が折れた。


「ちっ、なんだコイツの身体は……アホみてーにかてぇぜ」

「うひゃひゃひゃひゃ。死んだと思った? 死んだと思った? オイラ達は死なないよ~ん」


 ついでに頭部に斧が突き刺さったままのミシナまで起き上がって来て。


「……やってくれたな。だが次は此方こちらの番。簡単には殺さないからその点は安心すると良い」 

「ゾンビじゃん……ルカが居たらおしっこ漏らしてそう」


 あまりに衝撃的な光景に、周囲で七仙人の活躍を生で見られると息巻いていた連中も、顔を青くしてどこかへ逃げ去ってしまった。


 さて………………これどうしよ?


 確かにこの三人は殺した。殺しきった。それは間違いない。でもこうして起き上がって言葉まで発しているのが現実だ。

 生まれて初めてのゾンビとの対面に僕はもう困惑しきりである


「ヒャーハッハッハ! てめぇに俺達を殺す事は出来ねぇ!」

「オイラ達に負けは万に一つもねぇ!」

「……実力は貴様の方が上だろう。だが、我らには契約神様のご加護がある。なにもしてくれない秩序神とは違うのだ。我々に敗北は無い」


 僕を取り囲む三人がじりじりと距離を詰めて来る。

 ここに来て初めて逃走という選択肢を思案し始めた僕だったが、行動に移る前に状況に変化が訪れた。


 周囲に時間魔法による時間停止が発動したのだ。それも時間魔法のスペシャリストであり、時間魔法に強い耐性を持つハズのゾンビ三人衆ですらその動きを停止してしまうような、とびきり強力なやつが。


 ――誰がこんな真似を――?


 生まれた一瞬の隙を突いて戦場に飛び込んでくる者が一名。

 小学生のように小柄な――たぶん僕よりも小さい――乱入者は、ゾンビ共には目も暮れず僕をお姫様抱っこすると、凄まじい速度でその場を後にしたのだった。


 桜の花びらのような色をした長い髪を揺らして。



~~~~~~



「もう一体なんなんじゃお主は! あのテロリスト共と戦ってたからなんとなく助けたが……敵か!? 味方か!?」

「ふっお嬢ちゃん、人に聞く前に自分で考えるんだね。自分の眼で見極めた事こそが――真実だ」

「やっかましいわ! それにお嬢ちゃんでもないわい! 突然広範囲の時間停止が行われたから慌てて様子を見に来れば、塔の周辺は壊滅状態じゃしテロリスト共はお主に瞬殺されるし。でもなんか生き返るし! ワシはもうなにがなにやらじゃよ!」


 少女は依然僕を抱っこしながら全速力でどこかへと向かっていた。

 恐らく――いや十中八九、この子こそがセレナが以前口にしていた昔から子供の姿のままだと言う七仙人その人なのだろう。


 なんとも可愛らしい容姿と鈴のなるような少女声。それとは対照的な老獪じみた口調は何故か調和が取れていて堂に入っている。


「ふむ、自分より小さな女の子に抱きかかえられるというのは……これはこれでなかなか」

「は? 何言ってるんじゃお主は。――ええい、拒否反応を示さない所を見るに敵ではないのじゃろ? まずはワシらの拠点に運ぶからそこで事情を聞かせてもらうぞ。ワシらも人手が足りんくてな。お主ほどの強者が味方になればこれ程頼もしい事は無い」


「拠点……拠点か。そこは狭くて薄暗いんだろうね? 僕くらいの引きこもりになると、そんじょそこらの場所じゃ引きこもれないよ?」

「人手が足らんと言っておるだろうが!? なに人の家で閉じこもろうとしておるんじゃアホ!?」


 なんだか元気の良い仙人だなぁ。


「ご飯にはピクピクのお肉を用意して欲しい。焼き加減はレアで。ああ、お酒は苦手だから紅茶を頼むよ」

「お主完全にレストランか旅館にでも行く気分じゃろ!? これから行くのは憎きテロリスト共に対抗する為の反抗組織【秩序の狼煙】――その唯一の隠れ家なんじゃからな!? もっと危機感持て!」


「あ、ごめんちょっと寝ていいかな?」

「人の話を聞かんかい! ものすっごい重大な話をしておるんじゃからな」


「いやー、久し振りに身体を動かしたから疲れちゃってね。正直戦ってる時もちょっと眠かった」

「……むぅ、仕方ないの。安心して眠るが良いわい。拠点に着いたらそのままベッドに寝かせておいてやる。後からベッドの質が悪くて寝心地が悪かったなど申すなよ?」


「おっけーおっけー。ふわぁ……むにゃむにゃ。じゃ後は頼むよ。三日くらいしたら起きるから――……」

「うむ…………待て、三日!? お主それは本気か!? ナマケモノでももうちょっと早く起きるぞ!? お主には早急に先程の状況説明をして貰いたいのじゃが!」


「――…………すぴー」


「おい、待て! 寝るな! せめてお主が何者かくらい言わんかい! おい! おーーい!! ……このガキ、ふざけんなーーッ!」


 そんなハイテンションに絶叫する甲高い声を耳にしながら、僕は意識を手放した。

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