Scene12 あかりは演算師の思考に置いていかれて、予言を授かる

 その後、ロゴス様がふでさかさんに細かな出来事や発言をいくつも確認したあと、私はたなもと先生の役を演じて、当日の修羅場を全員で再現した。

 結局、最後まで演じてみても、何がロゴス様の「思った通り」だったのか、私には分からないままだった。


 ふでさかさんの部屋を出て、マンションの出口へ向かう途中で、私は尋ねる。

「ロゴス様ぁ。結局、何が目的であんなお芝居をしたんですか?」


たなもとしょうすけさんの役を演じてみて、何か違和感はなかった?」

 ロゴス様は逆に問い返してくる。


「うーん……。やっぱり、小説家だからか、表現がやたらと回りくどいなあ、とは感じました」

 私は思いつきを言った。


「そう、最初の発言一つを取っても不自然だ。『俺が同業者の友人たちと夕食を食べに出掛けている間に』って。態度では怒鳴ったり、扉を蹴破ったりと、純粋な怒りを表現しているのにね」

 ロゴス様は満足そうに頷いて言う。

「感情的になっているときに、必要のない状況説明をすること自体が不自然だ。自然に口から出たとしても、精々せいぜい『俺が出掛けている間に』くらいが限度じゃないかな。最初の台詞に限らず、しょうすけさんの台詞はどれも説明的だった」


「えっ、えっ、でも……」

 私にはまだ、ロゴス様が何を言いたいのか理解できない。

たなもと先生は実際にそう言ったはずですよ? ふでさかさんがそんな細かい発言だけ偽証しても、意味がないですし……。それに、警察はまきさんとふでさかさんの証言を突き合わせたはずです。もしもどちらかが嘘をついていたら、すぐに判明したんじゃないですか?」


「そうだよ。つまり……」

 と、言ったところで、ロゴス様は唐突に立ち止まった。

「ごめん、なみさん。先に戻っていてくれるかな」


ふでさかさんに何か、聞き忘れたことがあったんですか?」

 私がそう尋ねると、ロゴス様は少し気恥ずかしそうに頭の後ろを掻いた。


「いや、その……。眼鏡めがねを忘れた」


 そういえば、ロゴス様はふでさかさんの部屋に眼鏡めがねを置いてきていた。度が入っていないから、忘れたことに気づかなかったのだろう。

 私は思わずがんした。いつも冷静でかっ好良こいいのに、たまにこうしてうっかりしちゃうんだもんな〜。萌えるぅ。


「すぐに戻るから。ごめんね」

 ロゴス様はそう言って、ふでさかさんの部屋へ引き返していく。


 私はにこにこしながらマンションを出て、ロゴス様の車に戻る。


 あっ。ロゴス様がふでさかさんの証言をどうとらえているのか、結論を聞きそびれてしまった。

 仕方ない。戻ってきたら、真っ先にそれを訊こう。


 そう考えていると、ロゴス様は足早に走ってマンションから出てきた。

 そんなに急がなくても、私は怒ってないのに。


「おかえりなさ……」

 私が言い終える間もなく、ロゴス様は車に乗り込むなり、すぐにエンジンを掛ける。


「ああっ、くそっ。どうしてもっと早く気づかなかったんだ……」

 ロゴス様は珍しく、感情的になって呟いた。


「……かみさん?」

 私は意味が分からず、辺りを見渡す。もちろん、近くにかみさんの姿はない。

「彼女がどうしたんです? まさか、彼女が犯人なんですか? でも……」


 ロゴス様はさっきまで、ふでさかさんの証言を疑っていたはずではないのか。


「急がないと……、

 演算えんざん巫顧ふこ神仏しんぶつ〉は――静かにそう、予言した。

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