講評
1.落葉/爪を噛む。 ぬりや是々さん
タイトル:落葉/爪を噛む。
キャッチコピー:サーモンピンクが好きでした。
作者:ぬりや是々さん
URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093089633725816
評価:★3
味のご希望:甘口・辛口両方食べたい(甘口と辛口を別皿で)
あらすじ:マニキュアを塗りながら弟が帰宅するのを待つ姉のお話。
初めに、当自主企画に参加してくださったことに感謝申し上げます。
私が出したお題「サーモンピンク」に沿ったお話ですが、そのことは講評には含めません。
ただ、色だけでなく、匂い・音・触感・痛み、そういう人間が感じるものが2500文字の中に溢れていてむせそうになるという、おもしろい感覚を味わえました。
[辛口]
一般的な視点での評価になります。
辛口ご希望とのことなので、日本語云々に触れますね。
後半、「わたしの体は~」から始まるとんでもなく長い文章があるのは、もしかしたら読み手に忌避されることがあるかもしれません。
しかしここが一番の肝だし、緩急をつけるためにすごく長い文章を入れるというのはアリだとも思います。
この作品では効果的になっていますが、忌避される可能性も鑑みたうえで入れる必要があるというだけですね。
冒頭の一文だけで読点が四つ。
冒頭だけでなく全体的に読点多めですが、私はそれほど苦痛には感じません。
「に」「で」などの助詞が省かれ、代わりに読点が使われている部分もあるからかもしれないですね。
野坂昭如の「火垂るの墓」では、通常は助詞を入れるよねという部分にもあまり使われていません。
そうすることによって、「火垂るの墓」では緊張感や迫力が出ています。
プロ作家だけでなく、アマチュアが使うのにも(もちろん使い方にもよりますが)良い手法だと思います。
逆に言うと、同一作品内で読点を効果的に使うということがしづらくなるのではという懸念が出てきます。
例えば
「ハナミズキの葉は落ちて、そうだよ、と思う。」
私ここ大好きなんですけど、「そうだよ」の前後の読点ってとても大事ですよね。
全体的に読点が多いことによって、その大事さが薄まってしまい、読み手に届きづらくなるのではと心配してしまいました。
ぬりや是々さんはおそらく感覚的に書いている。
それでここまでの作品を書ける作者さんなんですよね。
なので、ここぞという時に読点で区切るという手法を少しだけ頭に入れておくといいかもしれません。
そういうちょっとしたコツというかtipsみたいなのを作者さんがつかめば、私は今後もっとすごい作品を読めることになるかも、と期待します。
重箱の隅をつつきます。
機種依存文字(絵文字)が段落の境目で使われている件について。
カクヨムの作品内でわりとよく見かけますが、世の中いろいろな環境で見ている方がいらっしゃるので、読み手のことを考えるとやはり使わないほうが無難です。
いやほんと、どこから持ってきたんよってOS使ってる人、いますからね……。
🐈⬛なんか、WindowsのChromeブラウザでも正しく黒猫として表示されないんですよ(´・ω・`)
(茶色っぽい猫と黒い■が表示されます)
更に重箱つつきますね。
柔らかい割り箸なので重箱の内側は傷付かないと思います。
タイトル「落葉」の読み方は「おちば」かな、「らくよう」かなとちょっとだけ悩みました。
おそらく作者のぬりやさんに尋ねたところで「どちらでも♪」と言われるだろうなと予想できますが(笑)
「落ちている枯葉」より「葉が枯れ落ちること」が作者さんの言いたいことかなと思えたのもあり、私は勝手に「らくよう」と読んでいます。
そこらへん本文で答え合わせのようにルビを入れるとかしてくれたらありがたいかなーと。
細かいことですみません。
[甘口]
おねショタ度でいえば、普通レベルです。
でも、姉と弟という、ある意味王道一直線の題材が上手に描かれていると思います。
主人公女子のほんの少しの心の歪みの描写から始まる2500文字で、弟との絆(「家畜などの動物を繋ぎ止めておく綱」という本来の意味に近いと感じました)に付いているであろう小さな傷まで感じることができました。
また、ゆっくりとした時間の流れ、時折聞こえているのか、主人公女子が聞こえていると感じるだけなのかもしれない葉が落ちる音、頭痛の表現、そういった細かい描写で何かがねじれていく感覚がお話に深みを出していると思います。
私が特に好きなのは「右手薬指の爪が割れ、わたしはそれを犬歯で慎重に噛んでちぎった。」という部分。
慎重に噛むんだ、と思いました。
爪を噛む癖がある人は大人にもよくいるけど、癖だから何となく噛んでしまう、あとから爪の先がギザギザになっていることに気付く、ってパターンが多いじゃないですか。
なのに、噛むときに慎重になるのには何か理由があるのかなと思っていると、そのあと「マニキュアの小さな四角柱の瓶」が出てくる。
女子らしい行動です。
うまいですねー、とてもうまい。
ラストへの持っていき方も無理がなく、しっとり終わっている点も高評価です。
近親相姦だの義理の姉弟だのの説明が全くないのも良い。
説明があると萎えますね、このお話では。
ストーリー運びについてはほぼ満点です。
なお、現代が舞台ですが、現実との齟齬は感じませんでした。
それどころか、特に「庭のハナミズキは新しい品種~」から始まる段落には、これでもかと現実味を持たせていますよね。
読み手はすんなり主人公女子の視界を想像することができる。
すごく良いと思います。
接続詞について。
「でも」「そうして」「そうすると」くらいでしょうか、作品内で使われているのは。
代わりに読点が入っている部分が多いですよね。
読点については辛口でも述べましたが、接続詞に頼らない読点での区切りで次の文章を読ませる手腕には感服しました。
句読点は気軽に使える分、使い方には注意が必要だと個人的には思っています。
一番多く使われている「そうして」を使いたいから、他の接続詞をできるだけ省いたのでしょうか。
だとしたらとても効果的になっているので、大成功だと思います。
いや、末恐ろしいわ。コワイコワイ。
あれ、辛口になってる?
まあいいか。
[総評]
テレビ番組「プレバト」の俳句コーナーがわりと好きでよく見るんです、私。
その中でもフルーツポンチ村上さんの句が大好きでして。
彼は番組内で「眼球から30cmの半径でも俳句が作れる」と評されているのですが、このお話の作風はそういうのに近いと思っています。
日常で見逃しがちな事物をクローズアップさせ、主人公の心情や詩を乗せる。
いくらでも行間を読ませてくれる、とても好みのお話です。
良いおねショタで、大変おいしゅうございました。
ありがとうございました。
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