第142話 一旦落ち着いてこ
「随分と派手な旅路だな、普段から君達はこうなのか?」
「まぁ、何と言うか……大体」
結局夜になっても遺跡に到着せず、野営する事になったら研究員っぽい人達もキャタピラボックスから降りて来た。
彼等のリーダーっぽい、イカルドさん……だっけ?
厳つい顔で、白衣みたいなの着ているくせに筋肉ムッキムキ。
もうお前も降りて来て戦えよって言いたくなる見た目のおじさんが、野営を始めた俺達に話しかけて来る。
「とはいえ、実力があるのは確かな様だ」
「そりゃどーも。んで? 遺跡調査と戦闘能力に何の繋がりが? 何が調べたいのか知りませんけど、いい加減俺等もそっちに乗せてくれませんかね? 嫌がらせに飽きたから、皆揃って下りて来た訳じゃないんでしょ?」
既に、皆不機嫌になっていた。
だってスノーワーム多すぎんのよ、ウジャウジャ出るのよ。
見るだけでキモイのに、そんなのがずっと湧いてくる。
慣れた訳ではないにしろ、もはや諦める他無く。
いつものポジションで戦闘しながら目的地を目指した俺達。
雪で服もベチャベチャだし虫は湧くし。
そして戦闘自体も、普段よりずっと苦戦したと言って良いだろう。
雪山だなんだと言っても、超山岳地帯! という程でもないのだが。
あまり大技をぶっぱすると雪崩とか起きるじゃ……? という懸念が浮上し、基本的にフィールドを巻き込む様な範囲攻撃は使用出来ず。
では細かい魔法と、前衛のみで対処してみようとすると。
ドデカイ芋虫をぶった斬れば、当然体液がまき散らされ。
イズとエレーヌは特に酷い事になっていた。
頭から昆虫液塗れになった際は、とても珍しい事にイズがブチギレ。
周囲の雪を全て溶かす勢いで炎をまき散らした程だ。
結果ビチャビチャグチャグチャの大地が出来上がり、移動だけで泥だらけになる事態に陥った。
「嫌がらせをしているつもりは無い。必要があるからこそ、ソレに見合う実力を持っているのか見ておきたかったんだ。この程度も突破できない者達では、遺跡の中に死体を増やすだけだからな」
「そうっすか。んで、結論は?」
「合格、だな」
「ハッ、そりゃどーも」
不機嫌な感情を隠すつもりにもなれず、吐き捨てる様に言い放ってみれば。
相手は無表情のまま「すまない」とか短文で謝って来るので、余計にやり辛い。
トトンに関しちゃどう反応して良いのか迷っている様で、俺の隣でモニョモニョと口を動かしながら微妙な表情を浮かべ。
エレーヌは物凄く冷たい瞳を彼等に向けている。
そして残る二人に関しては、怒りを食材にぶつけているのか。
イズの方からはズドドドドっと音がする程、物凄い速度で野菜を刻み。
ダイラはボウルの中に放り込んだふかした芋を、ズドンズドンとマッシャーで叩き潰していた。
あの二人さえ怒らせるのだから、流石はプレイヤーの全ヘイトが向かう“お邪魔虫”と言った所だろう。
今夜は、とてもきめ細かく滑らかな舌触りになる程砕かれたポテトサラダが食卓に並ぶ事だろう。
メイン料理に関しても、やけに細く刻まれた炒め物とかかもしれない。
中華とかだと良いんだけど、全ての食材が春雨みたいな細さになっていない事を祈ろう。
「あの遺跡は殆ど調査が終わっているからこそ安全、と言う事に“表向き”はなっているが。実際には扉さえ開かなければ無害、というだけなんだ」
「つまり、扉一枚開けば魔獣だか何だかがウジャウジャしている。と?」
「いいや、“扉一枚”ではない。何度も何度も謎解きを繰り返し、奥へ奥へと進んでいく必要がある。その過程で、あの場に居る敵を排除する必要があるんだ」
厳ついおっさんがそんな説明をし始めると同時に、ちょいちょいっと手を振ってみれば。
残る職員達がバタバタしながらキャタピラボックスの中へと駆け込み、その後色々と道具を持ち出して来るではないか。
見た事の無い道具ばっかり出て来たが……何だアレ?
「一枚目の扉だけを見て、“自分ならあの謎が解ける、だから中に入れさせろ”と言い出す愚か者は意外と多いのだよ。そして、次から次へと出て来る謎に苦戦している間に死ぬ」
「へぇ……? 随分とイカれた観光地もあったもんだ。そんな所に民間人を寄せ付けるのかよ」
「同感だな。だが謎は多くの人を魅了し、国にとっては金になる。危険だからと言って、全ての人々を遠ざける決断は出来ないという事だ。冒険者だってそうだろう? 君達は“危険だから”と他人に言われて、他の仕事を探すのか?」
「フンッ……まぁ、確かにね」
“向こう側”の感覚なら、それこそ大問題だろって言いたくなる訳だが。
生憎とこっちの世界は、そこまで民間人にお優しい訳ではない。
トラブルが起きて死んだのなら、その場に行った本人のせい。
生きてさえいれば文句やらおかしな噂くらいは立ちそうなものだが、カースト社会のお陰で口を塞ぐしかない状況だって多いのだろう。
事情は分かったし、相手も普通に説明してくれる気になっている様なので。
いい加減普通の態度に戻ろうとは思っているのだが。
いかん、虫との戦闘で感情的になり過ぎた。
自分でも小娘かっていう言動になっている気がする。
フラストレーション溜まりまくったからなぁ……俺も。
しばらく感情が落ち着きそうにないわ、コレ。
「とりあえずさ、詳しい話はまた明日でも良いかな。今日はちょっと、俺を含めて仲間達もピリピリしてるし」
「そのようだな、すまなかった。どうしてもふるいに掛ける必要があったのでな。我々が持ち込んだ魔道具を使ってくれ、野営でも快適に過ごせる筈だ」
そう言って彼が指さした先では、おかしな魔道具を展開させてゴツイテントを作っている研究者達の姿が。
普段使っている物よりずっとしっかりしているので、確かにアレなら快適に眠れそうだが。
「アンタ等はあのデカイ箱の中、俺等は外。それは変わらないんだな」
「連れて来たのが男手ばかりだからな。それにアレは試作の段階だ、おいそれと他人を招く事が出来ないんだ。重ね重ね、申し訳ない」
「そう言う事なら、仕方ないか。んじゃ、明日からはもう少しマシな対応を期待してるよ」
それだけ言い残し、相手に背を向けてからイズの簡易キッチンへと歩み寄った。
あー駄目だコレ。
この前はトトンの変化がどうのって、色々と考えていたばかりだったというのに。
今度は俺の方が、一度キレたら中々機嫌を直さない面倒臭い奴になりそうだ。
普通に会話しようとしているのに、気を抜くとネチネチと嫌味を言いたくなってしまうあたり……俺って女になった場合そういう性格になるの?
うわっ、何か嫌だ。
そう考えると、徐々に思考が冷静になっていくのだから不思議なモノで。
とか何とか、一人で百面相しそうになっていると。
「クウリ、平気? ごめん、俺がもっと前に出られれば良かったんだけど……」
何やら申し訳なさそうにしているトトンが、ちょいちょいっとコートの裾を引っ張って来た。
うーん、この差、俺との差よ。
やはり意識して見ると、以前よりトトンが女子っぽい。
楽しそうにしている時は、ホントいつも通りなのに。
アバターの影響が出ていると、コイツは反省する時にはとことんしおらしくなるのね。
「気にすんなトトン、ありゃ仕方ねぇって。芋虫はキモイし、近付きたくない気持ちは分かる。しかもお前の身長じゃ、イズが除雪するまでなかなか自由に動けないからな」
「でも……」
確かに、“ちっこいタンク”というのがココに来て致命的な欠点となってしまった事例とも言える。
積もった雪が多い所に突っ込めば身動きが取れなくなるし、かといって“エアハイク”なんかを使って雪の上を移動すれば良いという訳でもない。
相手はその中を泳ぐ様に移動してくるのだ、ただの的にしかならないだろう。
ヘイトを稼ぐという意味では正しいのだろうが、ゲームと違って襲って来る芋虫共の相手を一人でしろ、というのは……いくら何でも鬼畜が過ぎる。
見ているだけで寒気がする程のキモ芋虫が、四方八方から迫って来ていると考えれば誰だって躊躇してしまうだろう。
そして思考が余計な方向へ向いていれば、間違いなくミスをするのが人間というもの。
ゲームとリアルの差ってのは、こういう所で露骨に出るのだ。
「もぅアレだな。雪崩とか環境の影響とか知らんって言って、遺跡まで一本道を作っちまうか。デウスマキナかサテライトレイで。そうすりゃあんなの正面から相手する必要ねぇし」
「それやったら、遺跡まで消えて無くなりそうだけどね……」
「確かに、それは不味いな」
軽口を叩いた事により、いくらかトトンの様子も落ち着いた様で。
ついでに言うと、俺の方も多少は心に余裕が出来たのか。
二人してニヘラッと緩い笑みを溢していると。
「ねぇ、魔王。料理はアッチの二人に任せきっている状態だし、周囲に敵は居ない。私は少し離れても良いかしら?」
エレーヌが、急にそんな事を言いだした。
おや、珍しい。
最初期の準備期間以外は、基本的に単独行動する様な真似はしなかったというのに。
「別に良いけど、どうした? 何か気になる事でもあったのか?」
「まぁ、少しね。でもまだ確証がある訳じゃないから、今は言わないでおくわ。“当たり”を期待しておいて」
とか何とか、意味深な発言をしてから暗い雪山へとダッシュしていく魔女。
あの雰囲気だと、別にトイレとかそう言う訳じゃなさそうだけど。
どうしたんだろうね? ホント。
「ま、いいか。アイツなら一人でも何とかなるだろうし。さぁて……何はともあれ、俺等もお手伝いくらいはしますか。飯だ飯~」
「あいあーい」
そんな訳で、静かにお怒りになっている料理番二人に声を掛ける。
今回のエネミーはゲームの頃の嫌悪感があるからね、多分普段以上に感情的になってしまっているのだろうけど。
あれだね、イズとダイラは……身内以外が怒らせると、とにかく静かになるタイプだな。
逆に怖いって。
などと思ったが、皆で騒ぎながら料理している内に、段々と空気は穏やかなモノへと変わっていくのであった。
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