第6話 戦え。

「あのあなたは何者なんですか?」


 天汰は男に聞いた。


 男の名は自分の名をゴクと名乗った。


 ゴクはどうやら記憶喪失で名前以外思い出せないようだ。


「本当に名前以外に覚えてないんですか?」


 ゴクは食べながら答える。


「ああ、俺が覚えてるのはこの名前と棒術だけだ」


「棒術?あの棒を振り回すやつですか?!すごかったな!あの魔物は手も、脚も出なかった!」

 

(僕もあんな風になれたら……)


「どうやら、あの武術だけは体が覚えてる」


「あっそうだ」


  天汰は思いついたように言った。


「ここでしっかりお礼を言うべきですね」

 

 と言い椅子から立ち上がり天汰は深くお辞儀をした。


「僕を助けていただきありがとうございます!」


「何言ってんだよ、俺は降りかかった火の粉を払ったまでだ、それにお前のおかげで俺は外に出られた、礼をいうのは俺の方だ……」


「そんな!僕はビビって岩の後ろに隠れただけですよ」

 

 天汰は照れ笑いをして言った。


 <そうして天汰とゴクはステーキとパンを平げた>


「凄く!美味しかったです!ありがとうございます!」

 

「ああ、すげぇ美味かった!」


「そう?嬉しいわ!この宿、夜は酒場もやってるからいつでも来てね!」

 

 女将さんは嬉しそうに答えた。


「はい!ぜひ行かせていただきます!!」


「そうだ、ゴクちゃん!」


「ちゃん!?なんて呼ばれようが構わねけど『ちゃん』はちょっとむず痒いつーか……」


「あらそう?可愛いじゃない!」


「まぁいいけどよぉ」ゴクは鼻を掻く。


「私はリリー、みんなからは女将って呼ばれてるわ」

 

「ところで、ゴクちゃんは話を聞く限り今、一文無しなんでしょ?」

 

 女将さんは何かを企んでいる顔をしていた。


「そういえばそうだな、どうしてだ?」


「これからこの宿は忙しくなるんだけど、この宿の一室貸してあげるから手伝ってくれないかしら?何せ、夫を失ってから一人で切り盛りしてるんだけど今日は特に忙しくなるのよ、少しの間だけでも良いの、どうかしら?もちろん服と食事付きよ!」


 その話を聞いた、ゴクは少し考える。


「……」


「よし!わかった!俺にとっても良い話だ!」


「本当かい?助かるわ」


 <ゴクは女将さんの宿を手伝うことになった>


「では僕はそろそろ行きます!色々とありがとうございました!」


「あらもう行っちゃうの?まだ居ても良いのよ?」


「いえ、行かないといけないところがあるので!では!」

 

 と言い天汰はドアノブに手を掛けた。


 その時


「おい!」


 ゴクは天汰に声をかけた。


「坊主、ありがとな!お前のおかげで俺は自由になれた。何かあったら俺を頼れ」


 ゴクは天汰の目を真っ直ぐ見た。


 すると天汰は「またどこかで会いましょう!」と微笑み天汰はドアを開けた。


 <天汰は宿を後にした>


(ゴクさんって何者なんだろう……封印されてたってことは何か悪いことでもしたのかな?)


 街の日差しはすっかり斜めだ。天汰は急いで城へ向かう。


(もうすぐ夕暮れの鐘が鳴りそうだ、もうみんな集まってるかも急がないと)


 この国の城は街の中央にあって街のどの位置からでも城が見えるので天汰は迷うことなく城の方向が分かった。

 

(えっとー城はこっちだな)

 

 天汰は城に向かって走る。


 天汰が城へ行く途中いきなり。


「キャァー!」


 誰かの悲鳴が聞こえた。


(なんだ!?)


 天汰は悲鳴がした方向に目をやると、そこには路地裏で一人の女性が襲われていた。


 しかし、夕暮れで路地裏は影になっており何に襲われているか分からない。


(た、助けないと!でも何に襲われているんだ!?)


 天汰はその『何か』を見ようと目を凝らした。


(子供か??)


 天汰は、周りを見渡し石を見つけ気を引くために、その『何か』に向かって石を投げた。

 

 石は地面へ転がりそれに気づいたその『何か』の動きが止まった。


 そして、その『何か』はゆっくりと振り返る。


「おい!何してるんだ!」


 と天汰が大声で言うがその『何か』は何も言わず、ゆっくりこっちに歩いてくる。

 

 日の当たらない路地裏から日の当たる道に近づくにつれて、徐々にそいつの姿が露わになる。

 

 低い背丈、深緑の肌、尖った耳や鼻に、鋭い爪。


(ゴブリン……)


 初めて見るその姿に天汰は腕を構えた。


(ゴブリン……ゲームでは序盤のモンスター。あの猪には敵わないけどコイツになら!)


「早く逃げてください!」

 

 と天汰は襲われていた女性に言う。


 それを聞いた女性は立ち上がり逃げていった。


 逃げる女性を見てゴブリンは怒った顔をした。


 そして地団駄を踏み、天汰を睨み飛びかかる。

 

 それに反応して天汰は麺棒のような人器を手に取りゴブリンを殴る。


「うりゃぁー!」


 ゴブリンは地面に倒れる。


(やった!)


 しかし、ゴブリンは素早く立ち上がり天汰と距離を取り警戒する。


 数秒、睨み合い、先に動いたのは天汰だった。


 ゴブリンの頭を目掛け人器を振る。


 しかし、避けられ天汰の体は大きく前に傾いた。


(しまった!)


 その隙をついてゴブリンは鋭い爪で天汰の顔をこうとするが、咄嗟に左腕を前に出し致命を避けた。


「うあっ!」


 地面に血が飛び散る。

 

(腕が!くそ!凄く痛い!)


 天汰は痛みに耐えゴブリンへ向けて縦横斜めと人器を振るが全て避けられ、空振りをした所を狙われ膝や腕を裂かれる。


(くそ!痛い!歯がたたない!やっぱりこんな武器じゃ……)


 天汰は痛みに耐え拳を振る。


 しかし、避けられる。


「そんな!」


 その隙を突きゴブリンが天汰の腹を裂く。


「ぐっ!」

(くそ!こんな奴にも勝てないのか!僕は……)


 するとゴブリンの連撃が来る。すかさず天汰は避けるが後ろによろけ尻もちをつく。

 

 ゴブリンは飛び上がり天汰へ馬乗り状態になって噛みつこうとするがなんとかゴブリンの顔に手を当て押さえ込む。


 今にも魔物に殺されそうな天汰は必死に周りへ叫ぶ。

 

「誰か!兵士を呼んできてくれませんか!」


 しかし運の悪いことに周りには誰もいない。

 

 鋭い爪で腕を掴まれ血が溢れてくる。


(やばい!!やばい!!)


 すると突然、ゴブリンが何者かに蹴られ宙を舞う。


(え?)


「お前ってのは魔物を引き寄せる体質なのか?」


 天汰はふと見上げるとそこには、ゴクがいた。

 

 ゴクがゴブリンを蹴り上げたのだ。


「ゴクさん、なぜここに?」

 

 天汰は体を起こして尋ねた。

 

「女将さんにお使い頼まれてよ、大丈夫か?」

 

「ええ……なんとか……」


 しかし、ゴブリンから受けた傷の血が止まらない。


 すると、倒れていたゴブリンが起き上がり二人を睨む。

 

 そしてゴブリンは深く息を吸い込み、突然鼓膜が震えるほどの大きな奇声を発した。

 

 咄嗟に二人は耳を塞ぐ。


「なんだ?!こいついきなり?!」


 すると周囲から複数のゴブリンが姿を現した、その数10体、そしてゴブリンたちは二人を囲む。


(くそ、囲まれた……)


「めんどくせぇ」


 と呟き、ゴクは右腕を横に伸ばした。


 するとどこからか一本の赤い棒がひとりでに飛んで来た。

 

 ゴクは、それをバシッと掴んだ。


 そして、華麗に棒を構え言う。

 

「かかって来い」


 ゴブリンたちは一斉に二人へ飛び掛かった。


 ゴクは頭上で器用に棒を回転させ飛び掛かって来た、ゴブリンたちを一瞬で跳ね飛ばした。


 跳ね飛ばされたゴブリンたちは地面に倒れ込んだ。


 立ち上がって反撃して来ると思いきや、力の差を感じたのか、ゴブリンたちはゆっくりと後退りする。


「おい、どうしたんだ……こいつら」

 

 そして、ゴブリンたちは背を向け逃げて行った。

 

「けっ!逃げやがった」


 ゴクは天汰の様子を見る。

 

「坊主、大丈夫か?」


 しかし、天汰はゴクの呼びかけに反応できないほど意識が朦朧としていた。


(くそ……気を失いそうだ……血を流し過ぎたみたいだ……早く城に行かなきゃ……――)


 天汰は倒れ込んだ。


「おい、坊主聞いてるか?おい!おい!おいぉぃ………………


 <天汰は気を失った>

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