第3話 初授業

「ふぁ……朝か」

 

 僕は手早く身支度を済ませ寮を出る。


「食堂はどこだっけ?」


 食堂を探していたら、人だかりを発見したので、なんだろう? と思い、人だかりに向かった。


「おっ、俺と付き合ってください!」


 男子学生が人だかりの中心に居た、女子学生に告白をしていた、襟章を見るに、二人とも上級生のようだ。


「えーっと……」


 女子学生は困惑し、言葉に詰まっていたが、僕の方を見ると、こちらに近づいてきた。


「私、このお方と婚約してますので」


 と言い放った。


「えっ?」


 突然の事に理解が追い付かず、呆然と立ち尽くしていた、婚約? そんなの初耳だ、それに彼女とは初対面なのだが。

「「「えーっ!」」」

 

周りに居た聴衆が驚きの声を上げる。


「それでは、失礼しますわ」


 彼女はそう言うと、僕の手を取りこの場を後にした。




 彼女に連れられ、学園内の談話室に来た、この時間帯は誰も利用してないようだ。


「助かったわ、フォーマルハウトくん」


 彼女は僕を知っているようだった、思わず身構える。


「落ち着いて、自己紹介がまだだったわね、私はカレン・シリウス、ジャック・シリウスの娘よ」

「ジャック叔父様の娘……、叔父様って娘がいたのですか?」


 僕は驚く、ジャック叔父様とは何回か会ったことがあるが、子供がいたなんて聞いたことはなかった、それに彼女はジャック叔父様とは似ても似つかない、華奢で品があり、黒髪ロングがとても似合う大人の女性って感じだ。


「色々あってね、私は学園の外には出られないのよ……」


 彼女は遠い目をして、そう言った。


「そうですか、そういえば婚約って何の事ですか? シリウスさん」


 僕はそれ以上聞かずに、話題を変えた。


「親同士が決めたって、聞いてないかしら?」


 え? 本当に婚約してたのだろうか? 全然知らないぞ。


「なーんて、冗談よ、昨日、お父様にフォーマルハウトくんの事聞いてたから、ついね」


 彼女はお茶目に笑いながら言う、やれやれ、からかわれていただけのようだ。


「別にフォーマルハウトくんが、その気ならそれでもいいよ」


 彼女は真剣な顔で言う、僕は不覚にもドキッとしてしまった。


「また冗談を、怒りますよ!」


 僕は大げさに言った。


「怒らないで、許してね、私の事カレンって呼んでいいから」


 こっちも冗談のつもりだったが、名前で呼ぶことを許可されてしまった。


「しょうがないですね、僕の事もアスターでいいです、カレン先輩」


 お互いに名前で呼ぶことを許可した所で、僕のお腹が鳴る。


「ふふっ、食堂は談話室から左に出て、突き当りよ」

「ありがとうございます、それでは失礼します、カレン先輩」


 僕は顔を赤くしながら食堂に向かった、食堂のドアを開けようとした時、無慈悲に予鈴が鳴った。





 この学園の入学式は九月にあるそうだ、今から楽しみである。


 僕は席に座り、喜びを噛みしめていた、これが夢にまで見た学園生活! 周囲の目が痛い気もするが、気にしないでおこう、昨日部屋に突入してきた彼女も、同じクラスのようだ、目が合ったが逸らされてしまった。


「授業を始める……私の事はブラーエ先生と呼びなさい……」


 中性的で不健康そうな見た目のブラーエ先生がそう言った。


「まず、君たちは魔法について、どこまで知っているのか、問おう……、そこの赤い髪の女、答えてみなさい……」

「ミモザです、ブラーエ先生」


 彼女はミモザさんって言うのか、一等星にもミモザってあったけど彼女が?


「人は星霊との契約によって魔法が使えるようになります、なぜなら人の体内にある、魔力だけでは、魔法の行使に必要な魔力量が足りないからです、そこで星霊の力で空から魔力を供給してもらい魔力量を確保して、魔法を行使できるようになります」 


 彼女はスラスラと答える。


「では、魔人はなぜ、星霊なしで魔法を行使できる?」


 先生は問う、魔人、人ならざる者、五年前の大討伐以降、その姿を見た者はいないらしいが。


「わ、わかりません……」


 彼女は答えられなかった。


「意地悪な質問だったかな? 魔人が星霊なしで魔法を行使できる理由、従来、魔人の魔力量が人のそれより多いからとされていた、しかし、大討伐で捕縛した魔人を調べると、我々より少し多い程度だった、ここまで言ったらある程度推測は付かないかね? そこの君!」


 先生は僕の指さしながら言った。


「えーっと、星霊以外から魔力の供給を受けてる……とか?」


 急に指をさされて、驚いたが、当てずっぽうで答える。


「エクセレント! その通りだ、魔王が魔人に魔力を供給していたという、学説が主流派だが、私はもっと違う何かがあると思っている!」


 先生はヒートアップしながら熱弁するが、やがて息を切らして。


「はぁ、はぁ、疲れたから実技の自主練でもやってなさい……」


 それでいいのか? ブラーエ先生。





 クラス全員で校庭にやって来た。


「さっきの凄かったな、答えられるなんて、やるじゃん」


 僕はクラスの男子、筋肉質で爽やかな男に声をかけられた。


「ありがとう、当てずっぽうだったけどね」

「……俺の名前は、アラン・ブラウン、アランでいいぜ!」

「僕はアスター・ハウト、僕もアスターでいいよ」


 初対面なのにアランの勢いに押され、僕達は友達になった、友達だよね?


「じゃあ、アスターはずっと田舎にいたのか?」

「田舎だけど良い所だよ」


 身分を偽っているので少しの嘘を混ぜながら、他愛ない話で盛り上がる、すると。


「ちょっと、あんた!」


 なんだろう、知らない女の子が話しかけてきた。


「何ですか?」


 僕はふり返りながら答える、女の子は複数いて、怒っている女の子をミモザさんが止めようとしていた。


「ミモザさんに恥をかかせたわね! 言っとくけど、あんたなんか、ミモザさんの足元にも及ばないんだから、ミモザさんと勝負なさい!」


 何を言っているんだ、この子は、虎の威を借る狐と言った所か。


「僕は別に勝負なんかしたくないよ」

「私も勝負する気はないんだけど……」


 僕とミモザさんは、その気では無いが。


「アスター、やったれ!」

「お、おいアラン!」

「ミモザさん、お願いします!」

「ちょ、ちょっと」


 そうこうしているうちに、他のクラスメートも盛り上がる。


「先生止めて下さい!」


 僕は先生に助けを求める。


「面白そうだ、模擬戦をしなさい、私もサボれるし……」


 とんだ不良教師だった。

 そうして僕とミモザさんは模擬戦をする事になった。




「どうして、僕がこんな目に……」

「はぁ、やるからには本気でやるわよ! 私は当代のミモザ、ステラ・ミモザ、一等星霊ミモザの力を継ぎし者よ!」


 一等星霊を継ぐものは、ファミリーネームではなく一等星の称号を名乗らなければならない、これは

決まりなのだが、今の僕は偽名なので。


「僕はアスター・ハウト、えーっと、星霊ドゥーベの加護を受けし者だ!」


 咄嗟にドゥーちゃんの名前を使ってしまったが、問題は無いだろう。


「ドゥーベ? 聞いたことないわね、まあいいわ、いくわよ!」


 彼女は踏み込むと一瞬で間合いを詰め、僕に木剣で切りかかる。

 速っ、くはないな、父さんに比べたら、かなり遅い、僕は彼女の攻撃をいなしながら、彼女の剣筋を観察した。

 この剣捌き、母さんと同じ? きっと同じ流派を修めているのだろう、そう思いながら剣戟を凌ぐ。


「随分と余裕じゃない、こういうのはどう!」


 彼女は遂にミモザの力を開放した、溢れ出る魔力が見える、身体強化と木剣を強化しているようだ。

 いくら健康な体を願ったとは言え、あれをまともに食らったら怪我じゃすまないだろう。

 フォーマルハウトさんの力は使えないので、僕はドゥーちゃんの力を開放し、彼女と同じように自身を強化した。


「一等星霊の力を受けなさい!」


 彼女の動きが驚くほど速くなった、力を使っていない父さんに匹敵するほどだ、だが強化した僕には及ばないが、あまり目立って僕がフォーマルハウトだと気づかれてもまずいなと思い、適当な所で負けることにした。


「守ってばかりじゃ、勝てないわよ!」

「くっ!」


 僕は苦戦しているふりをして、その機会をうかがう。


「食らいなさい、手加減はしてあげる!」


 彼女は遂に火魔法を使った、手加減と言っても、かなり強力である事が分かる、チャンスだ。

 僕は防御魔法を展開し彼女の魔法を受けた、轟音と共に爆発する彼女の魔法、爆炎で僕の様子は分からない、防御魔法を解除し僕は、派手に吹っ飛んで見せた。


「やった! ミモザさんの勝ちよ!」


 女子たちが沸き立つ、代わりに男子たちはがっかりしていた、すまん。

 ミモザさんが僕に近づき、手を差し伸べる。


「派手に吹っ飛んだ割には、随分平気そうね?」

「いやー、完敗だよミモザさん」


 僕は誤魔化した、その時、僕の胸から、母さんに貰ったお守りが地面に落ちた。


「何か落ちたわよ」


 彼女は拾い上げながら、僕にお守りを渡そうとする。


「これ……どうしたの?」

「母さんから貰ったんだ、心配性だよね」


 僕は包み隠さず答える。


「少し、話があるから、放課後時間あるかしら?」

「大丈夫だよ」


 僕は彼女に答え、放課後に会う約束をした。

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