【第一章完】七つの星に願う刻(とき)
折尾リリ
第一章
第1話 旅立ち
天涯孤独の僕は病床で夜空を眺めながら、静かに最期の時を迎えようとしていた、
好きだった北斗七星に流れ星がかかる時、こう願った、一度も知ることの出来なかった、家族のぬくもりと健やかな体を、そして僕は息を引き取った。
目を覚ますと、そこには知らない顔が、その方は星神を名乗り、こう言った。
「今時星に願うような、純粋な魂に褒美を与えよう、そうだな、北斗七星にちなんで、七つの願いを叶える力を与えるとしよう」
あっという間の出来事で理解が追い付かぬまま、僕の視界は闇に閉ざされた。
「七つ願いが叶うなら、彼は何を願うのだろう?」
と星神は呟いた。
次に目を覚ました時に、正確には自我が芽生えた時だが、僕は望んだ家族と健康な体を手に入れていた。
今の名前はアスター・フォーマルハウトと言う、、国境地帯の守りを代々受け継いでいて、国内での地位は大貴族に勝るらしい、だが暮らしは実に質素である、それでも僕は満足している、なぜなら前世では知らなかった家族との温かな生活がここにはあるのだから。
この世界は不思議な事に地球と星の位置が同じだった、北斗七星が無いことを除けばだが、代わりに僕の手の甲に二つ星の欠けた、北斗七星のような傷があるが、これは偶然なのだろうか?
そして月日は流れ、僕の十五歳の誕生日に父さん、サロス・フォーマルハウトがこう言った。
「そろそろアスターに力の継承を行う準備をしないとな」
父さんの見た目は、筋骨隆々、男の中の男って感じだ、ただ僕が産まれる前から左腕を失っている、僕の能力なら腕を治すこともできるけど、流石にやめておいた方が良いだろう。
そして力の継承とはフォーマルハウト家に受け継がれる星霊と契約する事だ、この世界は魔法が存在するが、それは星霊との契約を行わなければ使えない。
「まだ早いんじゃない?」
母さん、ソフィア・フォーマルハウトが言った、母さんは優しいがとても強い、顔にこそ傷は無いが、実は全身に傷がある、五年前に前の仕事を引退してから、父さんの仕事の補佐をしている。
「いや、春には学園に行かせるのだから、もっと強くならないと駄目だ!」
父さんは語気を強める、剣術は父さんと母さんに、散々鍛えられたので十分だと僕は思うのだが。
僕は両親と共に、屋敷の傍にある泉にやってきたのである、
「来い! フォーマルハウト!」
父さんはそう言うと、泉が輝き星霊が現れる、
「サロスー、寂しかったよぉー」
フォーマルハウトさん? が言いながら父さんに抱き付く。
「そ、そうだな悪かったから、離れてくれないか。」
父さんはタジタジだ、こんな父さん初めて見るぞ。
「フォーマルハウトさん」
と母さんが抑揚のない声で言う、こんな母さんも初めて見る。
「じょ、冗談よミモザ!」
とフォーマルハウトさんは父さんから離れながら言う、ミモザって何だろう?
「もうミモザじゃないわ、ソフィアです」
母さんはまだ怒っているようだ。
「それで、その子がサロスとソフィアの息子ね、なかなか良い男、じゃなかった、契約しに来たのね?」
「そうだ、九割継承させる」
父さんは真剣な顔で言った。
「九割か、分かったわ、それで君の名前は?」
フォーマルハウトさんは少し寂しそうな顔をしながら僕に聞く。
「アスター・フォーマルハウトです」
僕は彼女の目を見て言った。
「良い目ね、サロスそっくり、良いわ、私の力使いこなしなさい!」
フォーマルハウトさんがそう言うと、僕の体は光に包まれた。
「契約完了、ちゃーんと私の力、正しく使いなさいよ、さもないと……」
「フォーマルハウトさんに失望されないように頑張ります!」
僕は勢いよく答えた。
これで魔法が使えるのか、少し試したい気持ちを抑えていると、突然辺り一面が光に包まれた。
「ふぅーやっと出てこれましたわ!」
可愛らしい星霊? が僕の目の前にいきなり現れた。
「えっと、君、誰?」
僕はそう言った。
「よくぞ聞いてくれました、ワタクシ、ドゥーベですの! ドゥーちゃんって呼んでくださいね、ご主人サマ!」
「何、このちっこいの?」
フォーマルハウトさんが言った瞬間。
「ギャーでっかいのに食われますのー」
ドゥーちゃん? はパニック状態だ。
「この子も星霊みたいだな」
と落ち着いた声で父さんが言った。
「落ち着きなさい」
母さんがドゥーちゃんを掴んで言った。
「は、はい落ち着きましたの」
ドゥーちゃんも母さんの凄みの前では一瞬で落ち着きを取り戻したようだった。
「それで? ドゥーちゃんは何者で何をしに来たの?」
僕は問いかける。
「はい、星神サマにご主人サマの事を見守るようにって言われて」
「星神様ですって?」
フォーマルハウトさんが言った、僕以外の全員が驚いているようだった、星神様、僕も一瞬しか会えなかったけど、心配してくれているのだろうか、それとも、この子は監視役なのだろうか?
「つまりドゥーちゃんもアスターと契約してるって事か?」
父さんはドゥーちゃんに問いかける。
「契約みたいなもんですの!」
ドゥーちゃんの言い回しが少し気になったが、フォーマルハウトさんの次の言葉で、疑念を忘れてしまった。
「こんな小娘よりバインバインな私の方が良いでしょ、アスター?」
「むぅーワタクシの成長はこれからですの、おばさん!」
「小娘に口の聞き方を教えてあげないとね、私の方が先輩なんだからね!」
「やめなさい」
母さんの氷のような一声でその場は収拾した、恐るべし母さん。
フォーマルハウトさんとドゥーちゃんの二人と契約した僕は、その後、父さんに魔法の制御を習いながら過ごし、いよいよ学園に出発する日がやってきた。
「どうか無事で、長期休暇は必ず帰ってくるのよ」
母さんは今にも泣きだしそうになりながら、手作りの御守りを渡してきた。
「お前なら大丈夫だと思うが、気を付けるんだぞ、それと、学園のある王都には、俺の知り合いも何人かいる、手紙を出してあるから、呼び出されるかもな」
父さんの知り合いか……シリウス叔父様以外に、誰がいるんだろう?
そして僕は両親と長い抱擁を交わし、馬車に乗り、王都に出発した。
「ドゥーちゃんは一緒に来るんだ」
僕は小声で言った。
「当然ですの! 泉から動けないおばさんとは違いますの!」
ドゥーちゃんは自信満々だ、あんまりおばさんって言わない方が良いと思うのだが。
王都への道中は騎士団の方達が護衛に付いている、国境地帯とはいえ最近は治安も良いので不要だと言ったが、それなら私が護衛すると言い出したので、渋々了承したのだ。
景色を眺めながら、僕は学園生活に思いを馳せた、前世ではずっと病院生活で一度も登校したことが無いのだ、期待と不安が入り混じり、想像を膨らませていた時、馬車が急停車した。
せわしなく騎士団が動く、剣の金属音が聞こえる、どうやら敵のようだ、するとドゥーちゃんが僕に告げる。
「囲まれてますの、二十五人いますの、ご主人サマの手助けをしますの」
ドゥーちゃんは何かを詠唱すると、僕は相手の動きを把握できるようになった、これも星霊の力なのだろうか?
僕はフォーマルハウトさんの力を開放し、騎士団に補助魔法をかける、すると劣勢だった騎士団はみるみるうちに敵を制圧し始める、一安心かと思ったが、騎士団からは見えない位置にいた敵が詠唱を始める、このままではまずいので、僕は軽く遠隔で雷魔法を放つ、手加減の仕方も父さん仕込みだ、見事に魔法は命中し、気絶させる、周囲に敵がいなくなったのを確認して、僕は馬車を降りた。
「坊ちゃま、まだ危険です」
騎士団の人がそう言った、確かにこの光景は危険かもしれない、むせ返るような血の臭い、僕は初めて人の死体を目の当たりにした、この世界ではこれが普通、今までが異常だったのかもしれない、僕もこういったことに慣れていくのだろうか。
「向こうの木の陰に敵がいます、捕らえて情報を聞き出しましょう」
僕は騎士団に命令を下した、気絶していた敵は捕縛され、騎士団は彼を尋問した。
「お前の目的は何だ、雇い主は誰だ!」
「俺達の目的、
「やけにあっさり話したが、雇い主までは分からなかったか」
それは僕が尋問用に魔法をかけていたからだ、
どうやら僕の家はかなり恨まれているらしい、楽しい学園生活が送れるのだろうか?
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