清楚でお淑やかなクラスのマドンナは幼馴染の俺の前でだけ常にだらけて甘えてくる【短編】

向井数人

第1話 初恋

 あれは今から10年以上前、橘大和たちばなやまとがまだ幼稚園に通っていた頃。


「さあ、着いたぞ」


 大和の父親はそう言って車のエンジンを止めると、ドアを開けて車から降りて。


 それに続いて大和もドアを開けて車から降りた。そして、目の前にある建物を見上げて。


「……でっかい」


 大和は思わずそう呟いた。


 今眼の前にある建物は大和の父親の親友の家だと、大和は父から聞かされていたが。


 大和が今まで見たことがないくらいにその建物は大きく、大和は幼いながらも、もしかしたらとんでも無いお金持ちが住んでいるのではないのかと思い、急に緊張して来てその場で少し固まっていると。


「ほら、行くぞ大和、何緊張しなくても大丈夫だ!! 丁度お前と同い年の女の子も居るから、お前はその子と遊んでいたらいいぞ!!」


 そう言うと、大和の父親は玄関に向けて歩き始めて、大和も慌てて父親の後に続いた。


 その後の事はかなり昔の事なので大和の記憶は曖昧だった。


 ただ、それでも彼女に初めて会った時の事だけは今でも鮮明に覚えている。


「……えっと、始めまして、天ヶ瀬優衣あまがせゆいです」


 当時の彼女はかなりの人見知りで自分の母親の足元に隠れながら、それでも勇気を振り絞って大和にそう挨拶をして来たのだが。


「……っつ!?」


 そんな優衣の姿を観た瞬間、大和は初めて自分の心臓が激しく鼓動しているのを感じた。


 ただ、当時の大和はそれが何なのか分からず、その上優衣の姿を観ると何故か体中が熱くなり、大和は思わず彼女から視線を逸らしたのだが。


(……今思えばあれが俺の初恋だったんだな)


 そんな事を思いつつ、あの頃の優衣も滅茶苦茶可愛かったなと少し懐かしさを覚えながら、夢から覚めるように大和がゆっくりと目を開けると。


「あっ、起きたのですね、おはようございます大和くん」


「……優衣」


 茶髪の綺麗なストレートロングヘアに年齢の割に童顔だが滅茶苦茶可愛い顔立ちをした見慣れた女性。


 大和の目の前にはあの頃よりおよそ10年間分成長した天ヶ瀬優衣の姿があり。


 ベッドで寝ている大和の事を優しい笑みを浮かべて見つめていた。

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