16話


 そしてベルヴェールが、次に目を付けたのは……

 ……オーク【ジェネラル】

 先程まで、後ろで様子を見ていた。

 オークだ。


 

 ベルヴェールは、盾にされたオークの屍を飛び越えて、先程始末したナーガ、メイジ、アーチャーの後衛ポイント付近まで翼を広げ一気に距離を縮める。



「はっー!!!!」


 ――轟、ドーーン! ー


『シュルルル!! バサアア!!』


「ブモォッ!?!?」

 急に現れたベルヴェールに声しか出せない。

 ジェネラルオーク……


 ――斬々ッ!! ……

 

 と、一度着地し、そのまま遠心力で回転斬りの構え、そして背後から、ジェネラルの背中と頭部をなぞらえる様に横一文字の一閃、二閃の回転斬り。

 

 

 ――静……


 

 あまりの速さに、音も出ない横一文字。

 そして……

 ベルヴェールのジェオークに対しての“こんにちは”? と、”おはよう”のあいさつが、ただの、“おやすみ”の挨拶で終わった。 

 

「ブ……ブルガアァァァァッッッッ!」



 何が起こったか、分からずジェネラルオークは、そのままその場に崩れ落ちるのだった。


 ――ドサっ…… 



 (弱っ) 



 ベルヴェールの意見はそれだけだった。

 束ねる立場にあるジェネラルだが、蓋を開ければ、横一文字切りのダブルアクセルで事切れる。

 もはや、情けなくてかける言葉もない。


 (そもそも何故背後をとらせたのか? 七体目)

   


 敵の“後方”にたどり着いたベルヴェールは、更にスピードを上げていく。 

 ここから畳み掛けるように狩って行く。


 ……


【火用の曲……“十曲”】

 

『”赤い糸”……”君と見た花火をもう一度”、と、”君よ抱かれて熱くなれ”。“熱情熱の花”、“恋はお熱く”……”発熱”……”恋と病”にて”熱き鼓動の果て唇よ”、……”熱く君を語れ”っ”情熱のうた”』



 今度は、先程やられた挟み撃ちを、こちらから仕掛ける番だ。

 前方になった。

 “後衛”のグリフォンと、遊撃に回り背後から攻めるベルヴェールとの挟み撃ち。

 ベルヴェールは精霊化が進み。

 翼、赤みを帯びた黒髪、そして下半身はもう、完全に火の身体になっている。

 ベルヴェールは目の前の的に魔術を放ち続ける。

 目の前にいるのは……


 

 特殊個体だろう、回復役の一匹と、それと、キング、手負いだが生きて剣をこちらに構えてベルヴェールと相対する。


(改めてキングと見合うが、こいつも中々やりそうだなあ……さて)


 ゼロツーの記憶石で得た黒刀等に使った武器スキル、【飛んで火に居る夏の虫エテ・ヴァーミン・フランメ・マチソワ・ショー

 ……に剣技、流派の””と言う斬り結ぶ(炎の連撃)がある。

 それを発動させてベルヴェールはオークキングと斬り結ぶ。


「はあああ!! 火多流ホタル……幻弍ゲンジ

 ベルヴェールは更に、”赤い黒刀”に黒刀に内包されている闇魔術を重ねがけする。

 闇魔術第一階梯の【幻痛ペイン】だ。

幻痛ペイン】対象の精神に作用し倍の痛みを感じさせる。


 火多流の武技。

 通常より多く火属性の魔力を込めた。

 光輝く二連撃だが闇魔術の幻痛ペインも有るので痛みは倍々。


 

 オークキングのグレートソードとベルヴェール赤き黒刀の剣撃がぶつかり合う。


「フブオオオッー」

  

 ザッ、斬!!

 キーン! 斤ー!

 カッ! 活ッ

 キーン! 斤ー!

 カッ! 活ッ


「フブオオオッー!!」


 

 ベルヴェールはわざと初撃以外は相手の力をいなし続け距離を一歩二歩と跳躍し距離を取る。

  

火多流ホタル……閉気ヘイケ

 火属性魔力を圧縮しての居合い。

 刀身は熱く紅くなり紅一閃。

 


 ブン! 振ンッ!! 


「ブオオオゥゥゥグァ」


 ――斤ーー

 ドゴッ!怒ごん


 轟



 グレートソード……恐らく魔剣で防いだが、着弾と同時に爆発を起こしオークキングの身体を炎が包む。 

 オークキングは、それでも、火炎の中を勢いを殺しながらも向かって来る。


 だが、ベルヴェールも魔術を乗せた連撃を放つ。

 

織刃オバ!!」


 

 熱くなった刀身は一振り二振りと周囲を巻き込みながら火炎は増えて行く。


 

大織刃オオオバ!!」

 圧縮された魔力の火炎は魔法金属の鉱石の様な実体となり刀身……いや、もはや棍棒は岩を砕く様にオークキングのグレートソードを叩き折って行く。

 ……

 ――砕!!――砕!!


 (ちっ大分武器のダメージは入ったが、まだ折れないか)

 

「ブオブオブオゥゥゥ」 

 


黒円クロマド!!」

 

 改めて鉱石の様な実体から、魔術質を変えたその斬撃は熱風を生みながら刀身は黒炎と紅炎が混ざりながら勢いを更に増し、辺りは一瞬にして灰となる。

 ベルヴェールは閃光が如く。

 キングの目の前まで距離を詰め……

 

 「火明ヒメ

 刀身が一瞬にして発火し爆発する。


 ――轟ッ轟!!!!

「ッブオオ!!」 


 …… 

 

 

 

 オークキングは目の前での爆発に目を奪われながらも咄嗟に右手に剣を持ち替えて、片手で振り下ろすが……ベルヴェールに躱される。

 そして反対の手で突きの打撃を繰り出すが、同時に振るわれたベルヴェールの横薙ぎの一閃を咄嗟に突きの手を引っ込めグレートソードで防ぐオークキング。

  

 

「ブヒブヒブモォッ」


 ――斤


「はあ!!」


 ――キンッ


 逆袈裟に斬り上げられた黒刀の刃をグレートソードで弾くオークキング。


 (ここだな)


日影の陽炎ヒカゲノカゲロウ!!』

 ……”飛んで火に居る夏の虫エテ・ヴァーミン・フランメ・マチソワ・ショー”の紐付け魔術。

 火、闇属性の複合……自分の近くに自分の幻を一体生みだし攻撃する。

 火属性の陽炎は本人と同じ幻の分身を作り出し本体の攻撃と合わせて連撃を行う。



日向の影狼ヒナタノカゲロウ

 ……同じく”飛んで火に居る夏の虫”エテ・ヴァーミン・フランメ・マチソワ・ショーの紐付け魔術。

 火、闇属性の複合……自分や近くの自分の幻に影を一体潜ませて攻撃する。

 火属性の陽炎は幻からの幻覚攻撃を見せ、影属性の影狼は”対象者”……建物や、自分や相手もしくは陽炎からの影の中から刃が出て攻撃する。


 

 ――ザシュッ! 斬手!!

 ――ズシュッ! 突刺ッ


  

 だが、更にオークキングに向かって影から光輝く刀身が伸び一回二回と突き刺し。


 

 ――貫ッ貫!!


  

 続けとばかりに斬撃を火多流ホタルで出した幻影、””と”影狼”と、共にベルヴェール自身も切り上げ切り捨てた。

 

 

 ――斬々……斬……

 ――シャリン!  斜輪! 斜……リンッ


 

「ブモオオオオオオオオオオオ」


 ――キーーン、斤々!! 斤々ッ!!

 ……ブシュッ!  武瞬!!

 

「ブモオオォォォッ」



 そんな戦いが繰り返されること数分。

 本来であれば武器に宿ったスキルを使用する場合は使用者の魔力を消費するので、通常であればこうも武器スキルの連続発動は出来なかっただろう。

 だが、そこはアンジェリカとゼロツーに規格外の魔力と評されたベルヴェール。

 特に疲労した様子も無く“”を連続して発動させ続けているのだった。



 下から掬い上げ、横薙ぎに一閃。

 攻撃を回避されるが、その反動すらも利用して回転斬りしオークキングの喉元を狙う。



「はあああーーー!!」


 ――バシュッ! 波者

 武者ッ!!

 


「………………」




 苦戦しているようなら援護をしようと魔術を待機させ構えたグリフォンがたまたまその姿を目に入れ、まるで魂を奪われたようにその動きへと見惚れる。



「………………」




「グリフォン!!」



「っ!? ……グルルルウゥ」

 ハッ!? とするグリフォンだが、それも、ほんの一瞬でキングオークと斬り結んでいるベルヴェールの声で我に返る。

 そう、グリフォンの相手はなのだから……


 そして、グリフォンが改めて、ドラゴンオークへと魔術の照準を付けたその時。

 とうとうその瞬間はやって来た。



 ――斬

 斬ッ

 斤……キーーン


 

 オークキングは片足をつき倒れ込んだ……

 何度か手合わせして、手負いの傷だったオークキングの背へと再び黒刀を突き刺して最後の呪文を完成させるが…………キーーン!!


 甲高い一音。

 オークキングは、ベルヴェールの目から見ても、もはや動ける状態には見えなかった。

 だが、黒刀を弾き返し。

 虫の息でグレートソードを杖代わりに立ち上がる。


 だが、””と斬り結び、次第に炎熱で耐久値の下がったオークキングの持っているグレートソードは色を鉄打ちのように変色させ……仕上げとばかりに振るわれた黒刀の一撃を受け止めて、立ち上がったその瞬間、刀身半ばで真っ二つに切断されたのだ。

 


 ――版ッ

 ……バキ……バキ……



 それでも蹌踉めきながら立つ様は、”まさに”


 

 数回。否、数十回もの間、火炎の魔術と“闇魔術”を発動させた黒刀と斬り結んだ己の愛剣へと無言で視線を向けるオークキング。


  

「……………………」


 

 オークキングにしても己の剣が致命的にダメージを受けているというのには気が付いていた。

 だが、それでもその剣を使わないと目の前に存在する莫大な魔力を有する人間、ベルヴェールと戦うことは出来なかったのだ。


 いや、あるいはマジックアイテムである魔法剣だからこそここまで、ベルヴェール相手の攻撃に耐えたのだろうと判断する。

 そしてベルヴェール自身も思う。

 このキングオークは、なぐさめではなく間違い無く強かった手負いで無ければまた違った結果だったかも知れないと……




「ブモオオォォォッ!」




 焼け野原の開けきった周辺へ鳴り響けとばかりに雄叫びを上げ、持っていたグレートソードの柄をベルヴェールへと向かって投げつける。


 

 ――!! 振ッーー投!!



 同時にそれを目隠しとしてオークジェネラルを越える腕力でレイを捻り潰さんとばかりに拳を繰り出す。

 グレートソードの柄の部分を黒刀の柄で後方へと弾き返してその勢いを利用してオークの拳を回避。

 すれ違うようにその横を通り抜け……

 ――瞬ーー

 

 同時に双刃の槍の刃でオークキングの巨体の腹を薙いでいく。


  

 ――振――斬ーーグサッ、貫!!


  

 オークキングの防具を薙ぎ払い風穴を開け。


  

 ドーン、轟!!


 

 双刃の槍の効果で、体内から小爆発を起こす。

 

 ……ガンッ、砕!!

 ……砕け散る鎧と、傷口からは、血は流れず。

 肉が焼ける匂いが立ち昇る。

 


「ブモオオオオオオオオオオオ!」



 断末魔。

 まさにそうとしか呼べないような雄叫びを上げつつも、地面へと倒れずにその場で踏みとどまる。


 既に胴体は皮一枚で繋がっているかどうかという所ではあるのだが、それでも尚、オークキングは地面に倒れずに立っていた。

 まるでそれこそが””だとでも言うように。



「……ああ。分かったよ」



 地面に倒れて死ぬのは王にあらず。

 戦場で敵の手に首級を取られてこそ王の敗北。

 目の前に立つオークキングの醸し出す雰囲気からそれを察知したベルヴェールは双刃の槍を収納し、黒刀の一振りを手にオーク……””へと近付いていく。


「…………………………」


「ブモオオオォォッ!」



炉心貫通メルトスルー……流派。の赤“月”』

 【絶剣】

 ……ベルヴェールの記憶石から会得した。

 “必中”の剣技、その名も



 斬!



 続けるベルヴェール。


「……………………」

 ――カチャンと一度、刀を鞘に収め。



 “最後”の詠唱をする。

火多流ホタルゆれゆら流れし蒼炎川、色移し供えられた睡蓮花。王者流円オジャルマル伝焔デンボ月明ツキアカきは判子の地への朱里アカリかな」


 今日一番の最速の一撃。

 (正確には二撃)

 それを見ていた者にはまるで閃光が一瞬だけ走ったように見えただろう。



 何故なら、最後の刀を収めた一刀はオークキングに痛みを感じさせずに切ったのだから。


 

 その一撃でオークキングの首は飛んだ。


 

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