殺意

ツヨシ

第1話

隣に若い夫婦が越してきた。

可愛らしい奥さんは穏やかで優しい雰囲気だが、旦那の方は違った。

暗いと言うか陰気と言うか目つきが悪いと言うか、とにかく印象はすこぶる悪かった。

挨拶してもまともに返さず、嫌な横目で見るだけだ。

奥さんはあんなにも好印象なのに。

あの二人が夫婦であることが不思議に思えた。


それにしても俺は朝に、若夫婦と会うことがよくあった。

夫婦は共働きで、おまけに俺と出勤時間が同じだったからだ。

そしていつも奥さんには癒され、旦那には不機嫌にさせられていた。


若夫婦が越してきてから数か月、特に変化はなかったが、ある日を境に変わった。

夫婦喧嘩だ。

俺のマンションは比較的防音には優れている。

それでも隣の夫婦の言い争いが聞こえてきた。

はっきりと聞こえてはいないので、なにを言っているのかまではわからないが、激しく言い争っているのはあきらかだ。

印象がまるで正反対の二人だが、それでも夫婦仲はよいように思えたのだが。

――何があったんだろう?

考えたがわかるはずもない。

言い争いは数時間にも及んだ。


次の日から、朝夫婦二人同時に会うことがなくなった。

奥さんの方だけ会う。

旦那の方だけ会う。

この二つは時々あったのだが、二人同時はなくなった。

お互いに出勤時間をずらしているようだ。

そして夫婦げんかも、あの日だけではなかった。

数日おきに繰り返されている。

マンションの壁が厚いのでやはりはっきりとは聞こえないのだが、激しい言い争いであることは確かだ。

それでも朝に会う奥さんは、穏やかな笑顔で挨拶をしてくれていて、いつもとかわりはない。

だが旦那の方は、会ってもこれまで以上に不機嫌な顔と態度で接してきた。

気の短い人が相手なら喧嘩を売っていると思われても仕方のない様子だ。

俺は会うなら奥さんの方と会えばいいかなと思っていた。

ただ二人の出勤時間は俺と近いことは近いのだが、ランダムになってもこちらの思惑通りにはいかず、どちらかと言えば旦那と会うことの方が多かった。

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