悠佑の答え
26
夏目の話を聞き終えて、悠佑は呆然としていた。
「夏目の家庭がどうであろうと悠佑をいじめていい理由にはならないだろ」
樹も夏目の話を最後まで大人しく聞いていたが、堪え切れないといった様子で口を開いた。
「うん、その通りだ。本当は誰でもよかったのかもしれない。自分が安心したかっただけなんだ」
夏目がどんな思いで悠佑をいじめていたのか。
「許してほしいなんて思わない」
そう言って言葉を区切って、黙り込んだ後、夏目はもう一度話し始めた。
「ごめん、今の嘘。本当はどこかで許されたいって、許してほしいって思ってる自分がいるんだ。都合のいい奴だけど、謝って許してもらえるんじゃないかって…」
夏目の声は震えていて、目がキラキラ輝いているように見えたが、夏目は悠佑から目をそらすことはしなかった。目の前にいる夏目が、小学校の頃の悠佑と重なって見えた。
「夏目、ふざけんなよ! この期に及んでまだそんなこと言うのかよ!」
今にも夏目につかみかかって殴りそうな樹の身体を抱きしめて止めた。悠佑はまとまらない気持ちのまま夏目と見つめあい、話し始めた。
「……許さない。許さないよ」
夏目は分かっていたような、それでもショックを受けたような顔で悠佑を見た。夏目の目からぽろりと涙がこぼれた。
「小学校の夏目くんのこと、許せない。でも……」
悠佑は呼吸を整えながら、言葉を続ける。
「今の夏目くんのことは許すよ」
悠佑の言葉に三人が驚いた顔で見てくる。樹は「は?」とでも言いたげな顔で悠佑を見た。
「え…?」
夏目は涙を流しながら、震える声で聞き返した。
「ま、待って。悠佑どういうこと? 本気で言ってるの?」
樹は混乱して頭を押さえている。
「いや、許すって言葉はおかしいか、今の夏目くんはあの頃と同じだけど違うから。その頃の夏目くんに味方がいなかったのは辛かったと思う。僕には樹がいたし、奈月ちゃんがいた。でも夏目くんにはいなかった」
「だからって!」
「うん、僕をいじめていい理由にはならないよね。だから、小学校の夏目くんは許さないよ」
「じゃあ…」
「それでも、今の夏目くんは違うよね、味方がいる。それに僕中学の時に、夏目くんが僕の私物を机に戻しているのを見たことがあるんだ。夏目くんの根底の性格は僕と仲良かった時と変わってないって、信じたい。信じさせて欲しい、これから」
「悠佑くん…」
「僕は今日、あの頃の決着をつけに来たんだ。前に進みたい。だから、今の夏目くんのことをもっと知りたい、教えて欲しいです。だめかな…?」
悠佑は樹の顔を窺うように見上げた。樹は不満そうにしていたが、悠佑の上目遣いにぐうの音も出ていない様子だ。
夏目の方を見ると、信じられないと言った顔で悠佑を見ている。
「よ、よろしく…?」
夏目が恐る恐る樹の方を見る。樹は大きなため息をつくと、
「悠佑の意思を尊重する。俺は、許せないけど」
と、睨みながら言った。樹ならそう言ってくれると思っていた。悠佑はほっとする。
「じゃあ、よろしくね。夏目くん」
「…うん」
「あ、もうこれで過去のことは終わりってことで! これからは気まずい顔とか、申し訳なさそうにするのはやめてね!」
悠佑は最後にそう釘を刺した。帰り際に四人でそれぞれ連絡先を交換して、解散した。
帰り道、樹はずっと不機嫌だった。困り果てた悠佑はタイミングを見計らって、話しかけてみる。
「あの……樹? 怒ってる?」
「別に、怒ってない」
声からも、不機嫌さがにじみ出ていて、嘘がバレバレだ。悠佑が樹を見つめていると、樹は観念したように、ため息をついた。
「怒ってはないよ。悠佑の意思を尊重したい。でも…でも俺はやっぱり夏目のことは許せないよ」
樹の言いたいことは分かるし、悠佑のことを思ってくれているのも伝わってくる。悠佑が夏目と和解できたのも、こうして自分以上に怒ってくれる樹がいたからだ。樹の不器用さに思わず笑みがこぼれる。
「何、笑ってんの」
樹が頬をふくらませる。かわいい。
「いや、僕って樹に愛されてるな~って」
「まあ、そりゃ愛してますから」
意地の悪い顔で悠佑を覗き込んだ樹を見て、悠佑の顔が見る見るうちに赤くなっていく。自分が恥ずかしいことを言ったと自覚した。悠佑の顔が真っ赤になったのを見て、樹もつられて顔を赤くして、目をそらした。いつまでも樹には慣れることが無いだろう。
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