異世界で勇者になるために、現実世界でレベル100を目指す/エイプリルフールの悪魔

OKAKI

異世界で勇者になるために、現実世界でレベル100を目指す

第1話

「てやぁー!」

 右手に掴んだカラスを勢いよく壁に打ち付け、左手に掴んだカラスを地面に叩きつける。すぐさま他のカラスを捕まえようとしたけれど、もう飛んで逃げていた。

「ちっ」

 舌打ちの直後、機械的な声がした。

『経験値を獲得しました。レベルが30に上がりました』

「よっしゃー! レベル30だー!」

 俺の上げた歓喜の声に、優しい声が答えてくれる。

「おめでとう。一輝」

「ありがとう! 女神様」

 住宅地のゴミ捨て場。散らかったゴミと2羽のカラスの死骸を背に、俺と女神様は笑い合った。




 女神様が俺の前に現れたのは、昨日の夜。眠っていた俺の耳に、聞いたことのないきれいな声が届いた。

「起きてください、勇者候補。起きてください」

「ふぁ?」

 きれいな声に優しく起こされ、うっすらと目を開く。飛び込んできた光景に一気に目が覚め、飛び起きた。

「ぅわああー!!」

 部屋で寝ていたはずなのに、周りにあるのは青い空と白い雲。遥か下に見えるのは、大草原。

「何これ? ここどこ?」

「落ち着いてください。勇者候補、橘一輝」

 優しい声にハッとして目を向けると、そこには見たこともないほどきれいな女の人が立っていた。

 波打つ長い金髪、青い目、白い肌、長い布を巻いたような服。見るからに『女神様』といった感じの女性が、俺を見て微笑んでいた。

「落ち着かれましたか? 橘一輝」

「なんで、俺の名前を……」

「あなたに、お願いがあるのです」

 女神様は俺の質問には答えてくれなかったけど、そんなことは少しも気にならなかった。

 ——こんなきれいな女神様が、俺にお願い?

「俺にお願いって、なんですか?」

 どきどきしながら尋ねると、女神様は白く細い腕を大きく広げて言った。

「勇者となり、魔王を倒してこの世界を救ってください」

「ええー! 勇者!? 俺がですか!?」

 大げさに驚いてみせたけれど、本当は、小躍りしたいほど嬉しかった。

 ——この状況にこの展開、ラノベの主人公みたいだ!

 片膝を立てて座り直し、うやうやしく女神様に頭を下げる。

「女神様。その使命、謹んで承ります」

 知らない世界に不安がないと言えば、嘘になる。だけど、それ以上に期待の方が大きかった。中学受験に失敗してから家にも学校にも居場所のない俺が、女神様に与えられたチート能力で勇者になって、異世界で無双する。

 ——俺の本当の人生は、ここから始まるんだ!

 そんなテンションマックスの俺に水を差すようなことを、召喚者の女神様が言う。

「いいえ、まだあなたに使命を託すとは決まっていません」

「えっ?」

「あなたは、まだ勇者候補でしかないのです」

「勇者……こうほ?」

「そうです。勇者として召喚するには、あなたのレベルは低すぎます。最低でも、100はなければなりません」

「えっと……そこは、女神様がくれるチート能力でなんとかなるんじゃ……」

「能力を授けても、それを使いこなすだけのレベルが必要です」

「ちなみに、俺の今のレベルって幾つなんですか?」

「17です」

「低っ!」

「そんなことはありません。一輝は、平均より少し高いです。だからこそ、勇者候補に選んだのです」

 ——とはいえ、100には程遠い。どうやってレベルを上げるんだ? 

 口に出さなかった俺の疑問に、今度はちゃんと答えてくれた。

「今の世界で、レベルを上げてください」

「レベル上げ? 今の世界で?」

「そうです。こちらの世界よりはるかに安全なそちらの世界で、レベルを100まで上げてください」

「でも、レベルを上げるってどうするんですか?」

「『悪』を倒してください。一輝ならできます。がんばってくださいね」

 女神様の妖艶な微笑みにぼーっとなっているうちに、自室のベッドで朝を迎えた。

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