第15話 セッキン(7/7)
ごきげんの美央と別れた後も、銀太郎は私には話しかけてこなかった。
急に静かになって、二人で黙ったまま並んで歩いた。
「あの……銀太郎? 『待て』って、別に話しかけるなっていうことではなくて……」
「ふはーっ、限界でし。日本語やっぱり難しい。キンチョウしましー」
銀太郎は思いきり息を吐いて伸びをした。
「え? 緊張していたの?」
「それはそうでし。地球人いっぱい。ワタシも見た目地球人。でもバレたら大変」
笑っているけれど、さすがに少しぐったりして見える。
「だったらわざわざ迎えに来なくてもよかったのに。すぐに帰ったのに」
「アオイ様すぐに会いたかったでし。あれ? デスです。今日ワタシ勉強しました。アイドル、礼儀正しくて言葉キレイでよく笑いますね」
「あー……勉強って、お母さんと一緒に蓮君のDVDを観たとか?」
「ハイ! それでこれもマスターしました」
銀太郎は私に背を向けて走ったかと思うと、飛び上がりながらクルッと一回転した。
「スーパーラビット」のパフォーマンスで蓮君がよくやっている、バレエダンサーが踊るようなきれいなターンだ。
楽しそうに、うれしそうに……。
「蓮君……」
ハッとして、銀太郎に聞かれなかったか心配になった。
これは、銀太郎だ。
「レンクン、似てますか? イイ感じですか?」
うわ、しっかり聞かれていた。
けれども銀太郎は気にした様子もなく、むしろうれしそうに笑った。
「ワタシもアイドルできましね?」
ごめんね、銀太郎。
「ああ、アオイ様に今日のおみやげでし」
銀太郎は上着のポケットから棒のついた平たいキャンディをひとつ取り出した。
「あ、地球……」
地球の写真が平面にプリントされた、リアルな地球型キャンディだ。
「パパ様と天文台行きました」
地球を紹介って……ずいぶんと近場で済ませたんだ。
「銀太郎はUFOに乗っているから、地球も宇宙も見飽きているんじゃないの?」
「地球人から見る宇宙、面白かったです」
ふうん。銀太郎は、なんでも楽しめそうだ。
「お迎えとキャンディ、ありがとうね」
ふと見上げた銀太郎が、正面から私の顔をのぞき込んだ。
じっと目を見つめてくる。
近いって!
さっきまでニコニコしていたのに、少し心配そうな顔になっている。なんで……。
「アオイ様、元気出して」
「銀太郎……」
そんなこと言われる前に、もう、元気にしてもらった。
蓮君じゃない。銀太郎に、だ。
じっと私を見つめる銀太郎からは、見守られているみたいな、優しくて超ポジティブな気持ちが伝わってくる。
「元気だってば。……銀太郎、の……おかげ……で」
銀太郎は自分から、これで夜はアイスが二倍ですと言って笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます