第47話

七美は、俺達の脇を通りすぎると真っ直ぐ壇上まで上がり、魅月と呼ばれた女と対峙した。


「もう一度だけ言うよ。これ以上、勝手な行動は許さない。早くこの学校から出ていけ」


珍しく感情を露にしている。冷静沈着な生徒会長の仮面が剥がれるほど、今の七美はキレていた。


体育館に集まった他の生徒も動揺を隠せないらしく、ザワザワが止まらない。


「ここから出ていくのは、アナタよ? 昨日付で会長職をクビにされたアナタが、現会長の私に歯向かうこと自体、許しがたい暴挙。はぁ~~。アナタ……もう詰んでるの」


魅月の背後で待機していた男二人。目にも留まらぬ速さで七美の頭に麻袋をかけると両手を手錠で拘束した。


同様に俺や番条さんも厳つい体の男子生徒に拘束された。暴れたら、容赦なく頭を鈍器のような物で殴られた。


「七美っ!!!」


『私は、大丈夫だから。今は、彼らに抵抗しないで』


どういうカラクリか分からないが、直接頭に声が響いた。


「七美。アンタには、これからじっ………くりと地獄を味わってもらうから。お母様もきっと喜ぶわ」


俺はもう一度殴られ、そこで意識を失った。


……………………………。

……………………。

……………。


目を覚ますと真っ白な部屋の中にいた。四方を壁に囲まれており、パッと見、扉がない。見上げると遥か上空に小さな窓が一つあり、どうやらそこが唯一の脱出口らしかった。


高さは二、三十メートルはありそうだ。


信じられない悪夢のような現実。殴られた事とは無関係に、頭が痛んだ。


叫び出したい自分を必死に抑え込み、俺は壁に背を預けると七美が言った『抵抗しないで』って言葉を守ることだけに集中した。


動揺や焦りで無駄に体力を消耗することは避けなくてはいけない。


「っ!?」


その時、真上から何かがサッと落ちてきた。床に突き刺さった物は、鋭利なナイフ。頭上から男の笑い声がした。


「お~~い! 青井くーーーん。会長からなぁ、三十分に一本、お前にプレゼントしとけってさ。良かったなぁ」


あの高さから、こんなナイフが落ちてきて、もし体に当たったら………。


「どうしたぁ? 恐くてお漏らししちまったか?」


下卑た笑い声。


「………………」


本当なら、取り乱すべき状況のはず。

………でもなぜか、俺は全く恐怖を感じていなかった。普段から異常なハプニングの連続で感覚が麻痺したのかもしれない。


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