第45話

屋上は、臭気に満ちていた。死体があちこちに散らばっている。私は、未来通りに現れた人物を静かに見つめていた。


鼻唄を歌いながら、超大型ヘリコプターから降りた女性は、眩しそうに目を細め、私の姿を見つけると笑顔で手を振った。


「久しぶりぃ!! ナナちゃん」


「はい。お久しぶりです。叔母さん」


叔母の合図で、攻撃を止めている神楽咲の兵士。ヘリの中には、手錠をされた叔父が丸まって座っていた。ひどく痩せ細っていて、気持ちが悪い。私を見て、すぐに目線をそらした。


「パパとママは、元気?」


「はい。元気です。今は、この城を離れ、別の場所にいますが………。叔母さん。私は、あなたを罰するようにパパに命じられているんです」


その言葉を聞いた瞬間、叔母の前に長身の執事がスッと現れた。それと同時に私の前に卯月が立つ。


二人とも臨戦態勢に入った。


そんなことはお構い無く、緊張の欠片もない叔母は、その執事の肩を笑いながら揉み揉み。


「あんなに小さかったナナちゃんが、しばらく見ないうちに随分と女っぽくなったなぁ。成長した~。………もう子供じゃないって分かったから、私も少しキツイこと言うけど。もし今、私に手を出すなら、ナナちゃんもそれ相応の代償を払ってもらうよ。それでもいい?」


叔母が手をあげると、倒れて死んだはずの神華のメイドや執事。神楽咲の兵隊蟻が、ゾンビのようにビクビクと動き出した。


「代償? すでにこんなに城をめちゃくちゃにしといて……。相変わらず、自分勝手ですね……。それに、ソレも気持ちが悪い。ママが前に言ってました。あなたは、小細工が過ぎるって。結論から言いますけど、私は今からあなたを殺そうと考えています」


「ふ~ん………そっかぁ……。でもいいのかなぁ? そんなことしたら、ナナちゃんの大好きなダーリンが死ぬほど苦しむことになるけど」


「はぁ? 意味が分からない。彼には、天魔が付いてる。そう簡単に殺れるわけない。実際、あなたが仕向けた刺客も消したし。何人送っても結果は一緒だよ」


「ナナちゃんさぁ、ちゃんと人の話聞いてる? 私は、彼を殺すなんて言ってないよ。『死ぬほど苦しませる』だけ。 私は、姉さん達と違って元々暴力は嫌いなんだよ。銃でバンバンしたりさぁ。危ないナイフでザクザクとか………。うんざりだよ。綺麗なお洋服も汚れるしね。昔から私が好きなのは、死体遊びだけ。知ってるでしょ? 忘れちゃった? 私ね。最近、新しい玩具を手に入れたの。これ見たら、ビックリすると思うな~」


ククッ……と笑った叔母が指を鳴らすと、ヘリから一人の男が降りた。その姿は。


それはーーー。


死んだはずの彼の父親だった。


「子猫並に心が弱い彼がさぁ、コレ見たら、どうなっちゃうかなぁ? 今からすっごく楽しみ! ちなみに、私が死んだら、この父親のクローンが大量に彼のもとにプレゼントされることになってるから」


「そんなこと絶対にさせない」


「………ふ~ん」


しばしの静寂の後、欠伸をした叔母は、目を擦りながら、再びヘリに飛び乗った。


「今日は、可愛い姪の姿が見れただけでも良しとしよう! うんうん。 パパやママにも宜しくね。次はその首、狩るって伝えといて」


遠ざかるヘリの音。

何も出来なかった自分が許せなくて、フラフラしながら、落ちていたナイフを拾い、自分の左手を刺そうとした。


「お嬢様。自棄になってはいけません」


ナイフを握った卯月。

私は、一度空を見上げ、唇を噛んで両目を閉じた。


「うん……。そうだね。よしっ! とりあえず、タマちゃんのとこに合流しよう。そして、いっぱい、ぎゅっ~てするの」


呆れたような卯月。何も言わないで、頭を撫でてくれた。

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