第21話

彼が泣いていたーーー。


寝ている私の隣で。


『ごめん………七美……許してくれ……最低な俺を………』


下着を乱暴に脱がし、有無を言わさず、何度も何度も体を突っつかれた。私の初エッチだった。だから少しだけ、痛かった……。股から流れる赤い涙。


青井 魂日。今、彼を支配しているのが私に対する強い憎しみだと分かった。

私を犯して、彼が少しでも楽になるなら私は喜んでこの体を捧げる。


だって、彼のこと大好きだからーーー。


『お前を好きって嘘ついた。……本当は分からない………好きって気持ちが……。お前に気に入られてるのが分かったから………それを利用して……。俺はただ……お前が初めてを奪われて苦しむ姿を見たかっただけ……』



そんなこと最初から分かってたよ。私のことを何とも思っていないこと。キミが父親と共に受けた苦痛。神華に対する憎しみ。そんな簡単には……消えるわけない。


だって、それが人間でしょ?


だからね、もう泣かないで。


温かい何かが、体の中に流れ込んできた。不思議な感覚。言葉に出来ない。


『……ごめ…ん』


彼から流れるモノ。指ですくって全て飲み込んだ。柔らかい感触と小さな彼の声。いつまでも私の心を黒い優しさが満たしていた。



ーーーーーーーーーーーーーーー


一人になりたかった俺は、午後の授業をサボり、屋上で黄昏ていた。


鉄の扉が開くと、二川さんが姿を現した。生徒会役員が、こんな場所になんのようだ? 奴隷もいないようだし。


「…………」


「待てっ! 行くな」


無言で去ろうとした俺を引き留める。


「何ですか?」


「…チッ……番条の奴……私の記憶まで消したな……。後で殺す」


「は?」


微妙な空気に耐えられなくなった俺は、この場を去ることを本気で考えた。


「お前には、この世界がどう見えている?」


「……………何かのテストですか? 俺は、バカなんで役員様の期待するような答え言えませんよ」


「いいから答えろ! 青井 魂日。お前には、この世界がどう見えてる?」


「はぁ……………。この世界は……。ここには……何もない。ただの無だ………。糞つまらねぇ世界だよ…………」


こちらを見た二川が、鼻で笑った。


「フッ……。記憶を無くしても、お前はお前ってわけだな」


「ちょっと意味が……。二川さん。俺、そろそろ戻るんで」


「待て。すぐ終わる。私はな、わざわざお前に良い情報を持ってきてやったんだぞ」


「情報?」


「あぁ……。会長な、近々結婚するみたいだ」


「会長が、結婚?」


「まぁ、今のお前には関係ない話だったかもな」


「結婚……………」


「前に誰かが言ってたよ。この世界は、何もない砂漠。孤独と絶望しかないって。でも隣に大切な誰かがいれば、砂漠もそんなに悪くないって……。青井 魂日。ただ、そうやって突っ立ってるだけじゃなくて、動け! 今、動かないと一生後悔する…こと…に……なる……から…………」


二川さんは前を向き、何もない紅い空を見つめ、俺にそう言った。


初めて見る彼女の泣き顔だったーーー。

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