第12話
「私達『獣人』は、覚醒すると人間を襲うようになる。個体差はあるが、五年から十年程度で皆覚醒する」
「そう…か……」
「覚醒しても外見は人間のままだし、常に人間を襲うわけでもない。普段は、他の人間と何ら変わらない。でも、体に発作が起きた時は、人間を襲うようになるんだ。ちなみに発作時は、体が変異して獣のような醜い姿になるよ」
「嘘だ…ろ?」
「人間を襲うのは、その肉を喰う為。どうしようもなく人間の肉を喰いたくなるんだよ、覚醒者は。その衝動は誰にも止められない」
「嘘だ……」
「さっきから、そればっかだな。まぁ獣人になったわけだし、これは運命。諦めな」
人間を喰う?
僕が人間を。
父さんや大切な人をいずれ襲うかもしれないってことだろ、それは。嘘だと思いたい。これは、全部夢だと。でも現実に僕は、黒い風に適応出来る人間になった。アンナの言うとおり、これは運命なんだ。今は無理でも、いずれ受け入れなければいけない現実。とりあえず今は、覚醒しないことを祈ろう。それしか、今の僕には出来ない。
ガッシャンッッ!
嫌な金属音が、屋上に鳴り響く。反射的に鉄扉に目を向けた。そこに立っていたのは、僕の悪友。
「おっ! 二人いる。ナオト、お前も隅に置けねぇな。こんな可愛い子と学校の屋上で密会してさ」
タケル……どうして…ここに。
いやっ、ここは学校なんだから誰が来てもおかしくないんだけど。タケルが、屋上に顔を出すなんて今までなかったし。それにタケルには、僕が屋上にいることが分かっていたみたいだ。………尾行したのか、僕を。
違和感。冷たい疑念。
なんだ、この感じ。空気が澱み、急に息苦しくなった。
「き、今日は、休みじゃなかったの? あの深夜バイトでダウンしてると思ってた」
緊張しているせいか、口が乾燥して上手く喋れない。その緊張を見透かしたような細い目。その目から感じたのは、僕の知らないタケルの深い闇。十メートル先にいる親友が知らない別人に思えた。
「あぁ………。お前には話してなかったな。今までやってた、あのバイト。昨日で辞めたんだ。もっと稼げるいいバイトが見つかってな。上手くいけば、一度に数十万貰えるんだ」
「へぇ、凄いね……。ってか、ヤバイ仕事じゃないだろうね、それ」
今出来る精一杯の笑み。
僕は、さっと二歩前に出てアンナを僕の後ろに隠すようにした。
「どうした?」
タケルの登場以来、僕の中に眠っていた動物的な本能が危険を発している。
「ヤバイっちゃあ、ヤバイかな」
おもむろに濃紺のブレザーの内ポケットからタケルが取り出した物。
それはーーーー
「っ!」
折り畳み式のナイフだった。その刃が反射する光が、形を変えながらタケルの顔を不気味に照らしている。良く切れそうなナイフだ。僕は、そんな間抜けなことを考えていた。
「これさ、狩猟用のナイフなんだよ。ネットで注文して、やっと昨日家に届いたんだ。早く試したくてさ」
試す? 何を。
聞けなかった。それを聞いてしまったら、もう引き返せない気がして。
「コイツも奴らの手先か」
アンナは、タケルの右手の中指を見ていた。中指には、黒い光沢のある高そうな指輪がしっかりと嵌められていた。その指輪は、お洒落と言うより何かの『誓い』のように見えた。
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