月ノ獣
カラスヤマ
第1話
つまらないよね。毎日。毎日。同じことの繰り返し。
でも今は、そんな退屈だった毎日を懐かしく思っている。
僕達は、今ーーーーー
地獄の底にいます。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
黒い風ーーーーー
一瞬で空を覆い隠した黒い風は、凄まじい速さでこの町だけでなく世界中を襲った。
午後十時二分三十二秒。
ニュースで何度か耳にした時間。黒い風が、どこからともなく、まるで悪魔の吐息のように静かに吹いてきた。月や星の輝きが、その黒い風によって一瞬でかき消され、世界は闇に包まれた。普通の風と違うのは、夜を溶かしたような、その色だけではない。
【黒い風は、人間を殺す】
その風を少しでも吸い込んだ人々は、すぐに蝋人形のように体が固まり、心停止を起こし死んでしまう。ただ、この黒い風の影響を受けているのは人間だけらしく、動物の被害は皆無だった。
お洒落な並木通りでは、死んだ人間が道路を埋め尽くしていたらしい。まず窓を開けていた車の運転手が死亡、主を失った車の事故が多発した。
町中至る所で黒煙と真っ赤な炎が、空まで焼き尽くす勢いで燃え盛っていた。夥しい数の人間が焼ける臭い。それは、言葉では形容出来ない臭さだっただろう。そんな地獄絵図とは違い、窓を閉め建物の中にいた人々は、全員無事だった。窓から外の惨状を見ていた人々の悲鳴が、建物の中で木霊し、外は異様に静かだった。それが一層不気味さを際立たせた。
黒い風が止むまでの数十分で、世界の人口は五十八パーセントも減少した。新手の細菌テロ説が浮上したこともあったが、すぐにその話題は人々の記憶から消えていった。
口にはしないが、あれが人間のなせる業ではないと誰の目にも明らかだったから。
黒い風は、その後も何度となく世界を襲った。幸い、日本政府と他国との話し合いが迅速に進んだおかげで、二ヶ月後には日本国民全員に黒い風対策用の防毒マスクが支給された。僕たちは、外を出歩く時、必ずこの厳ついマスクを持ち歩く。
ゲーセンに行く時も、公衆トイレに入る時も。もちろん、こうやって学校に行くときでさえ、僕たちのカバンの中には教科書と一緒にこのマスクが入っている。最新型とはいえ、まだまだ重く、カバンを持っている左手が痺れてくる。無駄な手の筋肉痛。不満は多いにあるが、これがないとリアルに死んでしまうので文句も言えない。
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