第35話 団長の告白

「だ、団長、なにしてんですか!?」


「見てほしくて」


 潤んだ瞳でそう言われてしまい、俺はごくりと唾を飲み込んだ。


 これはあれか。「私のすべてを見て」ってやつか。こんな風に女性に言われたらもう、恥をかかせるわけにはいかないじゃないか。


 団長はボタンを外し、サラシを少し下にずらす。まずい。俺の象さんは興奮のあまり、臨戦態勢に入ってしまう。でもその時、あれ? と思う。


「この痣……バイロニー殿下のものに似てない?」


 雪のような白い肌に浮かぶ、扇形の痣を指して団長は言った。そして団長は左胸に手を添える。


「ダスティン……この痣、光るの」


 左胸の痣が眩く桃色に光る。団長の全身からその光が溢れ、俺の方へ降り注ぎ、俺の身体を包んだ。


 茫然としていると、次第に刻印は光を弱め、普通の痣へ戻った。全身を覆う桃色のオーラが消える。


「王都の外に出て、オオカミの死体の前でもやってみたの。バイロニー殿下のように『可哀想なオオカミさん』って言って。でも、何も起こらなかった」


 困惑したように団長が話す。団長はいそいそとシャツのボタンを閉じ始めた。俺と何かしようと思っていたわけではなさそうだ。臨戦態勢の象さんどうしよう……。しんどいが、時間が経つのを待つしかないか。


「バイロニー殿下の前で、君とカレン様は『一騎当千の刻印を持つクラウディア嬢が、エドゥール皇国の初代皇帝の生まれ変わり』って言ってたよね? かつての大陸の覇者の」


「あ、えーと。まぁ……そうですね。前世のゲームで得た知識ですが」


「とりあえずそれを信じるよ。そこを信じないと、話が進まないから。で、なぜバイロニー殿下にも同じような刻印があると思う? 君達は、『エドゥール皇国の皇帝一家以外で刻印を持つ人が生まれる家はない』って言ってたよね? ではなぜ、バイロニー殿下に刻印があると思う?」


「う、うーん……。それがよくわかんないんですよね。バイロニーが英雄の生まれ変わりのようには思えないし」


 そう言うと、団長が真剣な面持ちになる。


「実は、『エドゥール皇国』の皇女が、『ツノウミヤ皇国』に嫁いでいる。そして生まれたのが最後の皇帝。つまりはバイロニー殿下のお母上。だから、バイロニー殿下は『エドゥール皇国』の皇女の孫。刻印があってもおかしくないの」


「それ、調べたんですか?」


「うん。王国軍の資料読めばすぐわかったよ。クラウディア嬢のチャンドラー公爵家の家系図を遡っても『エドゥール皇国』との繋がりは読めなかったから、君達の言うとおり、彼女は初代皇帝の生まれ変わりで刻印があるのかもしれないね。どんな刻印なんだろう」


「確か、真紅の――」


 そこまで言って、俺は慌てて付け加えた。


「あ、あの! 俺はそんな、クラウディアの肌なんて見てませんからね! 清い関係でしたからね! 前世のゲームで見ただけですからね」


 ここは強調しておかなければならない。そう言うと、団長がふわりと笑った。


「バイロニー殿下は恋をするとこの痣が生まれて、失恋すると消えるって言ってたよね」


「言ってました言ってました。まぁ、あのゲームが乙女ゲームですからね。そういうこともあるのかなぁって感じですが」


 団長が左胸を押さえる。瞳を閉じて数十秒黙り込む。声をかけようかと思った時、団長が潤んだ瞳を開けた。


「ダスティン……初めてカレン様の屋敷へ二人で行った時、僕は君と……手を繋いだよね? その時、好きって言ってくれた」


「…………っ!!」


 急にあの時のことを思いだして、胸がドキドキと高鳴る。先ほどの下心とは違う、純粋な胸のときめきだった。


「あの夜、僕の胸にこの扇のような痣が生まれたんだ。君が変なことをするたびに、左胸が痛くなるんだ。僕は……君が好きみたい」


 息が止まるかと思った。いや、止まった。時間が、世界が止まった。


「団長ッ!!!!!」


 団長を思いっきり抱きしめた。団長が愛おしくて仕方がない。


「団長、俺も大好きです。大好きです!! 結婚してください!!」


 しかし団長が俺から身体を離した。


「ごめん、結婚はできない」


「なんでですか!? 戸籍上、あなたが男性だからですか? そんなの、今からでも変更して――」


「違うの」


 思い詰めた目で俺を見つめる。


「僕は、君にお別れを言いにきたの。もう会えない」


 な、なぜーーーーーー!? 天国から地獄とはこのこと!?


 想いが通じ合ったところでいきなりの破局!! なんでそんな酷いことを言うんだ団長!!


「あ、あなたに会えないなら俺は生きた屍も同然じゃないですか! あなたは俺に死ねって言うんですか!? 思いとどまってくれるなら三文字切腹でもなんでもしますから! 会えないなんて言わないでください!」


 思いあまって正座し、短剣を取りだした。なぜか俺は本気で三文字切腹へ挑もうとしていた。


「君ね、そんなことしたら死んじゃうよ。僕が思いとどまっても君が死んじゃったら。あ、もしかして一緒に切腹して違う世界に――」


「それ、いいですね!」

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