第14話  枯れた愛の木

 小さな村の中心には、古くから「愛の木」と呼ばれる大きな木が立っていました。この木は村人たちの愛と優しさを吸い上げ、命の力「プラーナ」を実らせて村全体に幸福を届けていました。木の葉が風に揺れるたび、村人たちは心の平和を感じることができたのです。


 しかし、ある日突然、愛の木が枯れ始めました。葉が茶色く変わり、花が落ち、村全体が暗い雰囲気に包まれました。村の長老が嘆きます。

 「愛の木が枯れるということは、私たちの心からプラーナが失われているということ。無条件の愛を忘れ、自分の欲望や期待ばかりを考えるようになってしまったからだ。」


 村人たちは皆、困惑し、悲しみました。愛の木が完全に枯れ果てれば、村は崩壊してしまうと言われていたのです。


 そこで、勇気ある少年アーモンドと知恵深い煮干のおじいさんが名乗りを上げました。

 「私たちが愛の木を救う旅に出ます!」




 2人は森の入り口で立ち止まりました。アーモンドが聞きました。

 「おじいさん、本当に僕たちで愛の木を救えるの?」


 煮干のおじいさんは深いため息をつきながら答えました。

 「救えるかどうかは、私たちの心次第だ。プラーナは誰の心にも宿っている。ただ、それを引き出せるかどうかが問題なのだよ。」


 アーモンドは自分の胸に手を当てました。村の人々の笑顔が浮かびます。「僕は絶対に愛の木を救う!」そう心に誓い、2人は深い森へと足を踏み入れました。




 森の奥で2人が出会ったのは、「条件の沼」と呼ばれる場所でした。この沼では、自分の中にある「見返りを求める気持ち」が沼の水に映し出されます。アーモンドは水面を覗き込み、自分が友達に「ありがとう」と言われたくて親切をしていたこと、両親に褒められたくて勉強を頑張っていたことを思い出しました。


 「僕、見返りを求めてばかりだったんだ…。」


 その瞬間、沼の水が渦を巻き、アーモンドを引きずり込もうとしました。煮干のおじいさんが叫びます。

 「アーモンド!愛はただ与えるもの。見返りなんていらないんだ!」


 アーモンドは必死で沼から這い上がり、心の中でこうつぶやきました。

 「僕はもう、誰かを愛するのに条件なんてつけない。ただ相手を幸せにしたいから、愛を与えるんだ。」


 その瞬間、沼は静まり返り、2人は再び歩き出しました。



 次に2人が訪れたのは「涙の谷」。ここでは、人が過去に受けた傷や悲しみが幻影となって現れます。アーモンドの目の前には、幼い頃に友達に裏切られた記憶が浮かび上がりました。


 「僕を助けてくれるって言ったのに、みんな僕を置いて行った…。僕はあのとき、本当に悲しかった。」


 アーモンドはその幻影を見て泣き出しました。煮干のおじいさんはそっと肩に手を置きます。

 「愛されるということは、時に痛みを伴うものだ。しかし、本当の愛はその痛みを癒す力を持っているんだよ。」


 煮干のおじいさんが優しく語りかけると、アーモンドの涙は静まり、心が少しずつ温かくなっていきました。




 最終地点、「無償の丘」に到着した2人。丘の頂上には、「プラーナの種」が眠っていました。しかし、それを守る霊が2人に問いかけます。

 「プラーナの種を手に入れるには、自分にとって一番大切なものを差し出す必要がある。それができるか?」


 アーモンドは、自分がずっと大切にしていたお守りを取り出しました。それは、亡き母が最後にくれたものでした。


 「これは僕の一番大事なもの。でも、村のみんなを救うためなら、僕はこれを差し出すよ。」


 彼の言葉に霊は微笑み、プラーナの種を渡しました。

 「純粋な愛の行為だけが、プラーナを蘇らせる。お前の心がそれを証明した。」




 村に戻ったアーモンドと煮干のおじいさんは、プラーナの種を愛の木の根元に植えました。その瞬間、枯れていた木が再び緑を取り戻し、光り輝く花が咲きました。木から溢れ出すプラーナは、村全体を包み込みました。


 村人たちは目を覚ますようにして、自分たちの心のあり方を見直しました。

 「愛はただ与えるもの。見返りを求めない無条件の愛こそが、私たちの幸せを育てるんだ。」


 アーモンドは静かに木を見上げながらつぶやきました。

 「愛は人を傷つけるものじゃない。ただ、誰かを幸せにする力なんだ。」


 こうして愛の木は蘇り、村は再び笑顔と幸せに包まれたのです。

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