第41話激戦

 一進一退の攻防が続いていた。三組が一人当てれば、また四組が一人当てる。残る内野の人数は両チーム二人。四組は柊太ともう一人。三組は志文と零が残っていた。

 志文はこの試合で二人。零は三人を落とした。これで合計は零が15人、志文は13人。二人差をつけて零が勝っている。

 ボールは互いに一個ずつ所持している状態。どちらも相手の出方を伺っている様子だ。既に外野の出戻りも使用してしまい、ここからは気力の戦いとなる。

 そんな試合をコートの外から見守っている合歓垣は祈るような思いで見つめていた。未だ柊太攻略の糸口は見つけられていなかった。


(なにやってるんすか先輩…!このままだとあのデカブツにぶん投げられて終わりっすよ…!)


 今にも叫びたい気持ちを抑えつつ、コートの動きを注視する。三組のボールが外野に回った。

 外野によるボール回しが始まる。内野に残った二人がボールを動かせないように素早くかき乱していく。


「沙藤行くぞ!」


「まかしとけェ!」


 野球部のエースである九条が放ったボールが対面の沙藤に向かって飛んでいく。沙藤の構えはバレーを彷彿とさせるレシーブの体勢だった。


「くらッとけやボケェ!」


 沙藤は飛んできたボールを腕で受け止め、全力で弾き返した。

 目一杯の力で弾き返したボールは柊太の背中めがけて飛んでいく。先に狙ったのは柊太だった。外野だからこそできる派手な連携プレーに会場が湧き上がる。

 これは貰った。誰もが確信したその時だった。


「ふんっ!」


「な!?」


 背中を捉えるはずだったボールは柊太の大きな手に収まっていた。背面キャッチである。窮地を脱するビッグプレーに会場はさらなる盛り上がりを見せた。


「おーっと三年四組柊太選手!まさかの背面キャッチだー!」


(なああああああああ!何をやってるんだ馬鹿ーーーーー!!!!)


 合歓垣もまた心の中で大声を上げた。これで相手が所持しているボールは二つ。残る内野は二人。大ピンチと言って差し支えない状況だ。

 今すぐにでも声を張り上げて名指しで声援を送りたかった。しかし、自分がそんな差し出がましい行為なんて出来ない。そんな堂々巡りな悩みを抱えているせいで、どうすることもできていなかった。


「愛しの先輩が大ピ〜ンチ。きゃー、どうしよ〜」


「うわぁっ!?…ひ、光ヶ原先輩!?」


 何処から湧いてでてきたのか、合歓垣の背後には瑠璃が立っていた。いつも学園一の美少女ともてはやされている彼女だが、今回ばかりはその様が幽霊のようだった。


「お、脅かさないでくださいよ!なんの用ですか!」


「あら、用事が無いと話しかけてはいけないの?なんだかもどかしい様子だったから気になって来てみたのよ」


「べ、別になんでもないですよ。全く…」


 合歓垣は掴み所のない瑠璃が苦手だった。瑠璃は合歓垣の隣に居座るが、合歓垣は気にせずに試合に集中した。

 コートでは既に四組によるボール回しが始まっていた。三角形の陣形で行われる拘束のボール回しに零と志文は追い立てられていく。


(このままじゃジリ貧だ…ボールが当たるのも時間の問題)


「ほら、先輩がピンチよ。応援しなくていいの?」


「…別に。先輩こそ、応援したほうがいいんじゃないですか?ほら、彼女だし…」


「…え?」


「だから、彼女さんなんだから私になんて構ってないで応援…」


「…ふふっ。うふふっ。そう、そういうことね。あははっ」


 合歓垣は瑠璃が笑う理由が分からなかった。何がおかしい、と問いかける前に瑠璃が先にアンサーを出してくれた。


「私と零くんはまだ付き合ってないわ。後に私のものになるけどね」


「え…?付き合ってないんすか?だって…」


「応援は届く届かないじゃなくてやったかやらなかったかよ」


 合歓垣は精一杯の声で叫んだ。


「せんぱーーーーーーい!!!頑張れーーーー!!!」

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