【答】なるわけあるか!

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【答】なるわけあるか!


「雉間さん、遅いですわね」


 何度目だろうか、浮蓮館の方を見ながら菘が心配そうに言うのは。雉間が忘れ物を取りに戻ってからもうだいぶ経っている。ここまで遅いとなると流石のわたしも少し心配だ。だってここで雉間の身に何かあってはバイト代がなくなってしまうのだから。


 と、そんなことを思っていると、

「あ、雉間さん!」

 浮蓮館の道中から雉間が来た。


 雉間の後ろには美和さんと研司さんも一緒で……ん? 手を振る雉間の手首には見慣れない、金色の輪があるけど……あれは一体?


「雉間遅いじゃない」


 軽くわたしが言うと雉間は相変わらずの笑みを浮かべた。


「あー、ごめんね結衣ちゃ……あれ? 結衣ちゃん水着にならないの? 晴れてるよ」


「なるわけあるか!」


 わたしは当たり前かのように言った雉間にボディーブローをかました。


「もう結衣お姉さま乱暴はダメですよ。雉間さん泣いちゃいますから……」


 全員を見渡して研司さんが別れの挨拶をする。


「それでは皆様、お気を付けてお帰りください。そしてこの島の静けさが味わいたくなったらまたいつでも来てください。私たちも元気な皆様と会えるのを楽しみに待っております。また会いましょう」


 研司さんの挨拶が終わると、みんな次々とクルーザーに乗り込んでいった。


「あー、研司さん。また来るよ」


「はい、心よりお待ちしております」


 千花さんがわたしたちに言う。


「あの、雨城様と羽海様もまた来てくださいね」


「ええ、もちろんよ!」


 わたしと菘は大いに頷いた。


 次にこの島に来るときは、千花さんもここを出る気になっているのかな……?


「おや?」


 ふと研司さんの視線が雉間のバッグに落ちる。


「すみませんが千花さん、雉間さんの荷物を船内まで運んでくれませんか?」


「はい。わかりました」


 快く了承する千花さんに雉間は「はい」と、当然のようにバッグを渡す。


「ちょっと雉間! そんな大して中身のない荷物自分で持ちなさいよ」


 そうわたしが言おうと、雉間は逃げるようにクルーザーに歩いて行く。

 まったく……。


 わたしと菘は手短に研司さんと美和さんにお礼を言い、追いかけるようにして雉間と千花さんの横に並んだ。


「もう、ホントごめんね千花さん。このアホ雉間の荷物なんか持たせて。ほら、自分の荷物ぐらい自分で持ちなさい」


「えー」


「『えー』じゃない!」


「あの大丈夫ですよ雨城様。研司様に言われた以上、これも私の仕事ですから」


 そう千花さんは笑って言うけど雉間の面倒を見るのは業務外よ!


「あら?」


 隣を歩く菘。


「ところで雉間さん、さっきから何か手に付けているようですがそれはなんですか?」


「あー、金のブレスレットだよ」


「金っ!?」


 雉間は見せるように、たくさんの丸い金の粒が付いたブレスレットを掲げた。


「推理のお礼にって研司さんがくれたんだ」


 はあ、広瀬さんにあげるならまだしも雉間に金をあげるなんて……。やっぱりわたしにはお金持ちのすることがわからない。


「雉間様、とってもお似合いですよ」


 隣では千花さんが褒めているけど、

「そうかしら? 金なんて雉間には似合わないわよ」

 わたしは皮肉を込めて言ってやった。雉間に金なんて身の丈に合ってないのだ。


 すると雉間は笑顔で、

「あー、うん。でもこれは結衣ちゃんにも似合わないだろうね」


「なによぉっ! 雉間、あんた帰り絶対海に落としてやるんだから!」


「まあまあ、そんなことしてはダメですよ結衣お姉さま。雉間さん泣いちゃいますから」


 わたしたちのやり取りに千花さんはくすりと笑った。

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